ひつじ図書協会

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映画「デューン/砂の惑星」解説:原作小説をもとに、10の疑問に答えます。

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 映画「デューン/砂の惑星」を始めてみた人が疑問に思っただろうことを、フランク・ハーバードの原作小説をベースに解説していきます。

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「太陽系クラウドが壊滅的な打撃を食らっても...」

特別お題「わたしがブログを書く理由

「あいつは自分の考えや行動を詳しく記録していたんだ。死んだらまとめて、そちらへ送ってくれと言い遺していた。何かの役に立つかもしれんというんだな。その電子化が済んでいる。今送っていいか」

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熱意と狂気の幻の「DUNE/砂の惑星」。「ホドロフスキーのDUNE」

 2021年に公開され、2億ドル超の興行収入をあげたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「DUNE/砂の惑星」。2023年秋には、続編「DUNE/砂の惑星 part2」の公開が予定されており、予告映像が先日解禁されました。さらには原作小説である「DUNE」の新訳も出版されるなど、DUNE界隈が今盛り上がっています。

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 しかし、「DUNE」が映画化されるのは今回が初めてではなく、しかも「映画史上最も有名な実現しなかった映画」と呼ばれる「DUNE」があるのをご存じでしょうか?今回は、そんな「幻のDUNE」にまつわるドキュメンタリー「ホドロフスキーのDUNE」を紹介します。

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「三体0 球状閃電」を日本語で読んだ感想

 こんにちは、午前0時から4時まで「球状閃電」を読んでいたsheep2015です。今回は、劉慈欣による「三体」の前日譚的長編「三体0 球状閃電」について書いていきます。

  • コロナと球電
  • 史強と石剣
  • 球電と原爆
  • 作中における球電の正体について
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個人的にオチが好きな筒井康隆作品

 こんにちは、sheep2015です。今回は個人的に好きな終わり方をする筒井康隆作品を3つほど紹介します。当然結末にも触れるのでネタバレ注意です。

 

「ヤマザキ」

 本能寺の変の直後、信長の死をいち早く知った羽柴秀吉は、いわゆる「中国大返し」で畿内に急行し、山崎の戦いで明智光秀に勝利した。筒井康隆の短編「ヤマザキ」はこの歴史的事実を題材にした本格歴史小説である。

 

 …というのは大嘘です。はじめは至極普通の歴史小説なのですが、途中でいきなり秀吉が「電話」を取り出してからはもうむちゃくちゃ。電気カミソリで髭をそりだすやら、新幹線に兵を分乗させて畿内へ向かうやら、秀吉は時代背景を無視してやりたい放題を始めます。

 

 そして迎えた山崎の戦い、電話やら新幹線やら歴史小説にあり得ないはずのものが出てくるのを見て呆然としていた側近に、ついに秀吉が声をかけます。

「そちはきっと、この『説明』を求めておるのであろう。

 おお、ようやく説明が始まるのか、と読者が思った矢先、秀吉はこう続けます。

だが、よく聞け。あいにく『説明』はないのじゃ。うむ」彼はうなずいた。「説明は、何もないのじゃ」

 そして、明智の軍勢に向かって秀吉が突撃していくところでおしまい、というのが「ヤマザキ」のオチです。

 

 途中までは普通の歴史小説のように進むので、まずいきなり現代世界のガジェットが登場して読者は度肝を抜かれます。そして最後にその「説明」をするのか、と思わせておいて「説明はないのじゃ」と登場人物の口から言わせてもう一度読者の度肝を抜くという、隙の生じぬ二段構えが光るオチです。

 

「急流」

 時間の経過が加速していくという異変を巡るドタバタ劇。朝に家を出ても会社に着くころにはもう夜になっている。新聞の刊行は時間の加速に間に合わず、週刊から月刊、そして最後は年刊になってしまう。

 

 無理にダイヤを守ろうとして超スピードで運行する鉄道や、放送時間が短くなってもコマーシャルはカットできないのでコマーシャルだらけになるテレビ番組など、時間の加速に翻弄される人間たちがひとしきり描かれます*1

 

 時が無制限に加速していく中で、最後はこんな結末を迎えます。

 そして2001年がやってきた。

 2001年から先に、時間はなかった。そこでは時間が滝になって、どうどうと流れ落ちていたのである。(作者傍白・そんなばかな)

 

 「そんなばかな」というオチなのですが、それを敢えて作者本人が言ってしまうのがなんとも筒井康隆チックなオチです。

 

「偽魔王」

 筒井康隆作品の中に、不良外科医たちがむちゃくちゃな手術をする「問題外科」というスプラッター物があります。それに勝るとも劣らないスプラッター小説がこの「偽魔王」です。

 

 ある日、悪魔たちは「成績をあげるため」に暴力団員の猿田を新しい魔王として迎えます。魔王になった猿田は、手下の悪魔と、目を付けたとある家族を使役しながらとてもここには書けないようなエログロスプラッター満載のやりたい放題を始める…というのが大まかなあらすじ。

 

 そしてそんな阿鼻叫喚な展開が頂点に達した時、部下たちのやりすぎを止めるために上役の悪魔が介入し、悪魔と、悪魔に憑りつかれた一家は動物に変えられてしまいます。

 

 元悪魔の動物たちは、家族の中で唯一悪魔に魂を売り渡さなかった亭主の元に引き取られます。この亭主が動物の世話をするシーンで「偽魔王」は幕を閉じます。

 五匹が仲よく台所で餌を食べている。ほほえましい光景ではあるが、誰がどのけものかわからないというのがやはり心にかかってしかたがない。なんとか、わかる方法はないものかなあ。でも、もうラスト・シーンなんだよなあ。ちえ。おかしな結末だなあ。

 

 それまでのスプラッター三昧が中々どぎついものだっただけに、ホラー映画を観ていてようやくスタッフロールが始まったときのような安心感を与えてくれるオチです。

 

まとめ

 「ヤマザキ」「急流」、「偽魔王」と個人的にオチが好きな筒井康隆作品を紹介してきましたが、この3つの作品に共通しているのはどれも「メタなオチ」を迎えることです。

 

 「ヤマザキ」では歴史小説に現代的なガジェットが登場したことの「説明」について秀吉が言及しますし、「急流」ではラストシーンの直前に時間加速の原因について「この作者の作風から考えて、原因はもっと馬鹿ばかしい、非常にナンセンスなものだと思うよ」なんてセリフを主人公の同僚が言います。

 

 そして「偽魔王」でも

 しかしこれ、変な話だなあ。作者はいったいどういうつもりでこんなもの書いたんだろうなあ。教訓もなければ風刺もない。単にスプラッタアやりたかっただけなのかなあ。

なーんて独白が先ほどの引用箇所の直前にあったりと、どの作品でも自分がフィクションの中にいることを知っている登場人物が、作者や作品自体について言及するというメタ発言をします。

 

 メタ発言だけなら、多くの作家さんが作品に盛り込んでいます。しかしその中でも筒井康隆が一線を画しているのは、メタ発言で締める前に、メタ発言をしている暇もないくらい突拍子もないドタバタ劇で登場人物たちを翻弄させることだと思います。

 

 この「筒井康隆流のドタバタ劇」と組み合わされるからこそ、「メタなオチ」が秀逸なものになるのではないか、と思う次第です。

 

 今回紹介した作品のうち「ヤマザキ」「急流」は「最後の喫煙者」に収録されています。「偽魔王」にも匹敵するスプラッタ「問題外科」も収録されていておすすめです。

 

 また、「偽魔王」は「薬菜飯店」に収録されています。「薬菜飯店」は「ジョジョの奇妙な冒険」に登場するスタンド「パール・ジャム」の元ネタとも言われる表題作も収録されています。

*1:人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」にも時間が加速するエピソードがあります。時間加速の中で起こるドタバタの中のいくつかには、「急流」と同じようなものがあり、もしかして参考にしたのかな?とか思ったり。

1990年の「SFハンドブック」を読む

今週のお題「SFといえば」

 

 こんにちは、この夏は山に籠るsheep2015です。今回は、一昔前のSF紹介本「SFハンドブック」を紹介します。

 

 

「SFハンドブック」とは?

 1990年に早川書房編集部から出た、SFのガイドブック的な本です。年代別のSFの歴史や、翻訳者やSF愛好家がSFについての想いを綴る「マイ・ベストSF」、そして編集部イチオシの作品の紹介やSFの用語解説など、内容は多岐に渡ります。

 

SFかじった人ホイホイ

 まず注目してほしいのは執筆陣の豪華さ。浅倉久志伊藤典夫*1山岸真*2のような海外SFの名翻訳者はもちろん、大森望牧眞司のような名の知れたSF評論家が目次に名前を連ねます。

 

 紹介される作品も、有名タイトルがずらり。

  • 夏への扉
  • 幼年期の終わり
  • 「銀河帝国興亡史」シリーズ
  • アルジャーノンに花束を
  • 火星年代記
  • 「デューン」シリーズ
  • 虎よ、虎よ!
  • リングワールド
  • アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
  • ソラリスの陽のもとに

 

 「オールタイム・ベスト」として挙げられているこれら10作品を見ただけでも、SFを少しでも知っている方なら「あ、聞いたことあるタイトル!」となるのではないでしょうか。

 

 個人的には一番刺さったのが、「山の上の交響楽」などで知られる中井紀夫「アルジャーノンに花束を」の紹介文です。予備校で見つけたある落書きの思い出を発端に話を展開し、最後は「この本がもたらしてくれる感動にくらべたら、学校の成績が落ちることぐらい屁でもない。」と〆る名文。こういう紹介文が書けるようになりたいもんです。

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 …というように、SFをかじった人なら一度は名前を聞いたことがある翻訳者/評論家/作家が、有名作品を解説してくれる、そんな幸せなハンドブックこそ「SFハンドブック」なのです。

 

1990年代のSF観

 「SFハンドブック」には「マイ・ベストSF」というコーナーがあります。各々がSFとの出会いのようなものを語りつつ好きなSF作品を挙げるコーナーなのですが、ここに当時のSF観のようなものが良く表れていて面白いのです。

 

 ある人は、「サイボーグ009」「ワンダー3」のようなアニメがSFへの入り口だったといい、ある人は大学生の時に参加したSF大会の思い出を語り、ある人は進駐軍(時代を感じる)でもらったSF小説が印象的だったと振り返り…と結構しっちゃかめっちゃかですが、中でも印象的な二人の文章を紹介したいと思います。

 

 一つ目は、「ポーの一族」「11人いる!」などの作品で有名な漫画家の萩尾望都の文章。

 10代の頃、私は来るべき日本の未来が本当にキライだった。実利のみで哲学や精神面が希薄で。(中略)だから、その頃読んだアジモフはじめ、アーサー・C・クラーク、ハインラインなどは未来に対して、新たな価値観を示してくれ、新たな発想を促してくれた。決められたもの、いま在るものだけが、絶対ではないということ。それは、私にとっては希望の星になった。

 

 もう一つは、全100巻以上に渡る長編大河小説の「グイン・サーガ」の作者栗本薫の文章。

 それに何よりもあの「昔」のSFはいかにも初々しかった。書く人も読む人も「SF」が低く見られていると憤り、SFのために、SFに市民権を得させたく、SFに少しでも水準の高い名作をつけ加えたく、純粋にSFが好きだからSFをかつぎSFを書き、読んでいた。

 「11人いる!」にも「グイン・サーガ」にも確かにSF的な側面はありますが、個人的にはあまり萩尾望都や栗本薫といっても「SF」というイメージは無く、だからこそこうやってSFについて熱く語ってくださっている文章を読むのは新鮮で、とても良かったです。

 

ちょっと注意

 紹介されている作品は海外SFばかりで、日本SFはありません。また、当然ですが時代が古いのでグレッグ・イーガンや劉慈欣のような昨今のビッグネームの作品は紹介されていません。とはいえ、逆に考えれば海外の古典SFを知るには最適の書と言えるかもしれません。

 

 現に、こちら↓の企画で選んだ本はほとんどが「SFハンドブック」で名前を知った作品だったりします。

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※ここからは個人の感想です

 実は、私が「SFハンドブック」を読んで一番心に響いたのは、先ほども引用した栗本薫の『書く人も読む人も「SF」が低く見られていると憤り』という部分でして…。

 

 こうした、SFというジャンルが持つ一種の「劣等感」は現在にも通じているところがある気がします。なぜなら、いくら「三体」や「プロジェクト・ヘイル・メアリー」がヒットしたからといっても、ミステリーや時代小説に比べるとSFはまだジャンルとしての力が弱いからです。

 

 あくまで個人的なイメージなのですが、「普段どんな本読んでいるの?」と聞かれた時、たとえば「ミステリー読んでる」と答えれば、「ああ、宮部みゆきとかいいよね~」と会話が続くのに、「SF読んでる」と答えると「へーそうなんだ~(微苦笑)」で会話が終わる気がします。

 

 今や「SFハンドブック」が出版されてから30年の時が経ち、日本SFでも数多くの名作が生まれ、また海外作品でも「三体」を皮切りに中華SFにも注目が集まっています。そして「SFハンドブック」自体もアップデートされつづけ、「新・SFハンドブック」や「海外SFハンドブック」などが出版されています。

 

 こうしてSFが広まり、進化していく中で、いつの日かSFが「低く見られ」ることがなくなり、「SF読んでます」と言った時に

「ああ、小川一水とかいいよね~!天冥の標、マジで最高だった!」

…みたいな会話ができる日が来るのを楽しみに、本ブログではこれからもSFを紹介し続けていく所存です。

 

www.bookreview-of-sheep.com

*1:海外SFの古典を開くと、高確率で遭遇する翻訳者の二大巨頭

*2:グレッグ・イーガンの翻訳を一手に引き受けているイメージがある

海外SFとの遭遇

 こんにちは、久々の対面試験の到来に戦々恐々としているsheep2015です。今回は「sheep2015と海外SFとの遭遇」についてです。

 

 sheep2015が2022年の4月までに読んだ著名な海外SFについて、読んだ順に「どのようにその作品と出会ったのか」を語ります。最近の若者と往年の名作との出会いの一例をお伝えできれば幸い。

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