ひつじ図書協会

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学問の復興 「旅のラゴス」(筒井康隆)

 「勉強は楽しい」「勉強ができることは、幸せなことだ」…確かにそうですが、どうしても勉強が嫌になってしまう瞬間はありますよね。そんな時に読んで欲しい一作「旅のラゴス」(筒井康隆)を、私「sheep2015」が紹介します。

 

  「旅のラゴス」あらすじ

  この物語はラゴスという男の旅の物語。旅の舞台は人類が故郷の星の汚染から逃れてはるか昔に漂着した惑星。宇宙船や写真機などの高度な技術が失われ、それらの記憶も薄れかけている所謂ポストアポカリプスの世界だ。

 

 技術と科学を失った人類は、異星で生き抜くためにそれぞれに超能力を身に着けるようになった。テレポート、テレパシー、未来予知。これらの能力で引き起こされる事件が集まった事件が、各章で綴られていく。なんだか「七瀬ふたたび」と似ていますね。

 

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 物語はラゴスの旅の途中から始まり、背景説明がないまま淡々と旅は続く。ラゴスの旅の目的が明らかになるには、中盤の章「王国への道」を待たねばならない。

 

 

解説:勉強のため、ラゴスは旅する

 中盤の「王国への道」ではラゴスの旅の理由がようやく明かされます。目的地は「ポロの盆地」。ここには、かつての人類が知識を伝えるために大量の本を保管した図書館がありました。ラゴスの目的は、本を読んでかつての文明について学ぶことだったのです。

 

 ラゴスは遺された書物を貪るように読み、失われた学問体系をどんどん吸収していきます。先祖の日記と実用書から初めて、歴史と伝記、政治経済、社会科学、小説、医学史と科学史、そして法理論の順に15年に渡ってひたすらラゴスは読み続けます。

 

 15年も勉強漬けだったら途中で嫌になったり、息抜きに遊んでしまったりしそうなものですが、ラゴスはただただ楽しみながら勉強を続けます。本を読むということは先人が辿った知の道筋を辿ることであり、その意味でラゴスが本を読んでいくことで、失われた学問が再生されていくとも言えるでしょう。

 

「おれ」から「わたし」へ

 また「王国への道」は物語の大きな転換点にもなっています。前半ではラゴスの一人称は筒井作品によくみられるように「おれ」なのですが、章の途中、ラゴス二世の誕生と前後して彼の一人称は「わたし」へと変化します。身に着けた学問が、ラゴスの人格を変えたのでしょうか。

 

 また南へ南へと進んできたラゴスの旅もここを折り返し地点にして北の故郷へと帰る旅に変わります。「王国への道」とそこで描かれる「学問の再生」は「旅のラゴス」の真ん中に打ち込まれた重要なくさびであると言えるでしょう。

 

課題図書?大人向け?

 「パプリカ」のような清々しいおどろおどろしさや、「魚籃観音記」「偽魔王」のようなエログロ要素がない本作は、安心して課題図書にできる類いの本なのでしょう。その意味では、「時をかける少女」と同じく万人受けしそうな小説ではあります。

 

 かといって、作家の牙が抜かれて大人しくなった作品というわけでは全然なく、「旅」そして「学問の再生」という芯がきっちりと通っています。小中学生に限らず、「筒井作品はエログロばかりでけしからん」とのたまうような大人にこそ読まれるべき作品なのかもしれません。

 

 

 

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