ひつじ図書館

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Love Train  伴名練「なめらかな世界と、その敵」

最終更新:2021/03/21

2019年の伴名練の短編集「なめらかな世界と、その敵。」のあらすじ、感想です。

 

並行世界ものが好きな人、

愛のあるSFを読みたい人向け。

 

 

読んだきっかけ

2019年の上半期はほとんど「天冥の標」ばかり読んでいたのですが、日本SF大賞の候補作の中に本作が含まれていることを知り、いっちょ読んでみるか、と思ったのがきっかけでした。「天冥の標」のような長編SFとはまた違う、小ぶりながらも魅力ある作品世界に魅了されたのをよく覚えています。
 
 

「なめらかな世界と、その敵」あらすじ

表題作「なめらかな世界と、その敵」は、人々が並行世界を自由に行き来できる能力「乗覚」を持つ世界の物語。この世界の住人は、今いる世界線に飽きたら、いつでも別の世界線へと「乗り換える」ことができます。

 

「ジョジョの奇妙な冒険」に登場するスタンド「D4C」のような能力を全ての人が持っている世界と考えればわかりやすいかもしれません。ただ、ファニー・ヴァレンタインとは違い、並行世界を行き来するのは自らの意識だけです。乗り換えた先の世界線には「もう一人の自分」はおらず、並行世界から物を持ち込むことは出来ません*1

 

主人公の女子高校生は学校で授業を受けながら家のベッドの上でゲームをプレイしつつ、バイト先の店で先輩とおしゃべりをするというごく「普通」の日常を送ります。しかしそんなある日、乗覚を失った転校生がやってきて…というのが大まかなあらすじです。

 

 

愛のあるSF

表題作「なめらかな世界と、その敵。」は百合SFとしての側面も持ちますが、他の短編でも「愛」が隠れたテーマになっています。

 

本作には様々な愛を紡ぐ人々が登場します。夫婦の愛、姉妹愛、祖国愛、異性、同性への愛。作者が「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」と称されているように、メタレベルでも愛に溢れた短編集です。多様で深い愛を感じることができる本作、是非大切な人への贈り物にいかがですか、と言いたいところですが、一つ注意しておきたいことがあります(ここから思い出語りです)

 

 

電車内で包装をはがすな

筆者は2019年冬にクリスマスプレゼント用に本作を手に取ったのですが、買う前に表題作だけでもと思って目を通してしまったのが運の尽きでした。店員さんにギフトラッピングにしてもらって、家に持ち帰ってみたものの、続きが気になってしょうがない。

 

いやいや、これは人に贈るものだから、と我慢していたものの、ついにクリスマス当日にバリバリと包装をはがして貪るように読んでしまいました。それも移動中の電車の中で。始めは読み終わったらまた包みなおして贈ればいいや、と思っていましたが、「ゼロ年代の臨界点」の中で「ネットワークの中に生まれる知性」というワードを見たとたんに理性が吹き飛びました。

 

冒頭でも書いた通り半年前に「天冥の標」を読み終えたばかりだったので、「ダダー」と全く同じこの設定が琴線に触れてしまったのでしょう。この時点でもう本作を手放すまいと思ってしまい、結局この年のクリスマスプレゼントは無しになったのでした。皆さんも、「これは!」という本を人に贈るときには自分が読む用と贈る用で二冊用意するよう、くれぐれもお気を付けください…。

 

 

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

  • 作者:伴名 練
  • 発売日: 2019/08/20
  • メディア: Kindle版
 

 

*1:情報は持ち込むことができ、これが作中で悲劇を起こす