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人類見せ場なし—劉慈欣「三体Ⅱ 黒暗森林」あらすじ

最終更新:2021/04/22

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劉慈欣の「三体」シリーズの二作目「黒暗森林」のあらすじ。

「死神永生」に取り掛かる前に今までのあらすじを見返しておきたい方向け。

ネタバレをがっつり含むので、未読の方は要注意。

 

 

「三体Ⅱ 黒暗森林」あらすじ

前作「三体」のおさらい

文化大革命に父を殺され、人類に絶望した科学者葉文潔(イェ・ウェンジエ)が発したメッセージに応えて異星の侵略軍「三体艦隊」が地球に向かってきつつあり、さらに先行部隊として「智子(ソフォン)」なる極小兵器が既に地球に到達している。

 

智子は高い諜報能力を持ち、地球側の情報は全て敵に筒抜け。さらに智子はミクロレベルの干渉を行い人類の科学技術の発展を阻害する上に、三体文明に同調する地球人組織ETO(地球三体協会)もまた智子を介して三体人と通じている。三体艦隊の到着まであとおよそ4世紀。どうする人類。

 

智子(ソフォン)vs面壁者

…という圧倒的に人類に不利な状況から始まる本作。最初に言っておくと、人類の「見せ場」はラストシーンを除いてほとんど皆無だ。

 

智子が人間の思考の中身までは読み取れないことを利用し*1、人類側は4人の「面壁者」に強大な権限を与え彼らの頭の中で防衛計画を練らせる。

 

面壁者は自分のアイディアを誰にも漏らさず、地球人でさえ面壁者の真の意図を知らないまま防衛計画は進められる。しかし4人の面壁者の計画はETOの刺客「破壁者」によって次々と看破され、そのたびに面壁者は精神崩壊して自殺したり、民衆のリンチで亡くなったりと悲惨な末路を辿る。

 

主人公格の羅辑(ルオ・ジー)もまた、面壁者の一人だったが「星に呪文をかける」という不可解な計画を実行した後、三体世界の魔の手にかかり、人工冬眠につくことを余儀なくされる。

 

「水滴」の脅威

羅辑が200年あまりの眠りから目覚めると、社会は一変していた。冬眠前の絶望ムードとは打って変わり、平和と繁栄の時代が到来していたのだ。面壁計画が失敗した後、人類は「大峡谷」と呼ばれる絶望と混乱の時代を経て、技術レベルを智子の妨害が許す限界まで向上させていた。

 

強大な宇宙艦隊まで建造した人類の間には、三体世界与しやすしという楽観的展望が広がり、寛容の心から太陽系の一部を三体人に提供するという「陽光計画」まで持ち上がっていた。

 

羅辑が目覚めて間もなく、三体艦隊の先遣隊が太陽に到達する。先遣隊はただ一機、鏡のようにつややかに輝く探査機「水滴」のみ。宇宙艦隊は水滴の拿捕に成功し、丁儀(ディン・イー)ら科学者が観察を行うが、なにやら様子がおかしい。

 

次の瞬間、水滴が猛烈なスピードで動き出し、次々と宇宙艦隊を破壊していく。三体文明への勝利を確信していた人類は、「水滴」単騎に1000隻規模の艦隊を文字通り粉砕される。人類の見通しの甘さと、三体艦隊の恐るべき実力が示された瞬間だった。

 

最後の戦い

人類が絶望に沈む中、羅辑が仕込んでいた計画「呪文」の実験が成功したことが判明する。「呪文」がかけられた星が何者かによって破壊されたことが観測されたのだ。人類は羅辑を救世主と頼み全ての希望をかけるが、「呪文」の実験以降は羅辑は目立った行動もとらず、的外れの計画に傾倒する始末。人類社会は羅辑に失望し、社会には絶望ムードが色濃くなる。

 

ついにはすっかり落ちぶれた姿になって住処を追い出された羅辑。彼は、人知れずたった一人で三体世界との最後の戦いへと赴く。

 

次回、考察回

bookreviewofsheep.hatenablog.com

 

 

 

 

 

*1:三体人は他者に対して思考を隠すすべを持たず、欺瞞に対して全く耐性を持たない。面壁計画はこの性質を突いたものでもあるが、三体側はETOのメンバーから「破壁者」を選び、彼ら彼女らをして面壁者の計画を暴かせることで対抗した。