Sheep's Bizarre Book Review

邦訳:緬羊書評協会。文系大学生がSFを読むブログです。SFは文理の壁を越えます、多分。

デレク・クンスケン「量子魔術師」紹介

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最終更新:2021/03/19

 

「オーシャンズ」、「コンフィデンスマン」のような所謂コンゲームを題材にしたSF作品…と思いきや、結構設定が凝っていたりして奥が深い作品。

 

「オーシャンズ」が好きな人、量子論にちょっと興味がある人、凝った世界観を味わいたい人向け。

 

原語版 The Quantum Magicianはカナダ人作家デレク・クンスケンの2018年の作品。日本語版は2019年に金子司訳で出版された。

 

はじめに

読み込むほど味が出てくる一冊。ただ、作中の地理関係を頭に入れておかないと混乱するのに加え、600ページに渡るボリュームの大きさやハードSFゆえのとっつきづらさもあり、始めて読むと戸惑うところも多いかもしれない。筆者も本作の魅力が理解できたのは二周目からだった。

 

実を言うと筆者自身も理解できていない部分があるので、改めて整理する意味も込めて今回は作品の舞台設定からじっくりと解説をしていこうと思う。ただし、量子現象やワームホール、遺伝子操作などの設定に関わる考察は行わない(というか筆者の知識では考察のしようがない)

 

「量子魔術師」紹介

「量子魔術師」の世界と物語の始まり

本作では、「銀河英雄伝説」のように宇宙船は一時的なワームホールを誘導してワープで移動する。しかし、何百光年もの超長距離を移動するには先史文明が残した恒久ワームホール「世界軸(アクシス・ムンディ)」が使用され、強大な力を持つ「パトロン国家」たちがこれらを管理している。パトロン国家の支配下にある「クライアント国家」は、ワームホールの使用を制限され、新たなワームホールや先進技術を発見次第それらをパトロン国家に献上する義務を課されている。

 

クライアント国家の一つ「サブ=サハラ同盟」が、辺境への遠征中に革新的なドライブ機構を発明したことに物語は端を発する。サブ=サハラ同盟はクライアント国家「金星コングリゲート」への報告義務を無視し、独立を期して内密に研究を進め、亜光速推進が可能なドライブ機構を搭載した強力な宇宙艦隊の建造に成功する。

 

サブ=サハラ同盟艦隊の故郷への帰途の途中には「パペット神政国」の管理するワームホール「パペット軸」が立ちふさがる。戦艦12隻と共にワームホールを強行突破するために、艦隊を指揮するイェカンジカ少佐は天才詐欺師として名を馳せる主人公ベリサリウス・アルホーナに協力を依頼する。

 

 

図解「パペット軸」

他のワームホールと同様に、パペット軸には厳重な警備体制が敷かれている。サブ=サハラ同盟の遠征艦隊は辺境の地「ポート・スタッブス」側から、「パペット・フリーシティ」側へと抜けようとするが、まずポート・スタッブス側の入り口は要塞化された二つの小惑星「ヒンクリー」「ロジャース」によって警備されている。

 

またパペット・フリーシティ側の出口は「準惑星オラー」の地底にあり、地上に出るには四つの装甲化された門扉を潜り抜けねばならない。さらに作戦実行時には遠征艦隊の動きを察知したコングリゲートが致命的戦闘力を持つ「ドレッドノート型戦艦」をも送り込み、さらに厳戒な警備体制が整えられる。以上までを模式化したのが以下の図だ。

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「量子魔術師」の世界

 

「量子魔術師」前半のあらすじ 

前半は、遠征艦隊からの依頼を受けたべリサリウスが特殊技能を持つアウトサイダーたちを集めてチームを結成する…といういかにもオーシャンズチックなストーリーだ。ベリサリウス自身が「ホモ・クアントゥス」という量子現象を解明するために脳に改造を加えられた極めて高い知性を持つ異色の存在なのだが、他のメンバーたちも負けず劣らず特殊なものたちばかり。それではベリサリウスのチームを紹介していこう。

 

個性豊かなチームメンバーたち

遺伝子改造により高圧環境下でも生存可能になった、アザラシのような見た目の「ホモ・エリダヌス」のスティルス。「ヌーメン」と呼ばれる創造主を生理的なレベルで崇拝するよう改造された「ホモ・プーパ」(パペット)のゲイツ=15。最先端技術の粋を集めてつくられたものの、聖ヤコブの生まれ変わりとしての自我に目覚めお払い箱にされた高性能AIセント・マシュー。そしてもう一人のホモ・クアントゥスにしてベリサリウスの元カノのカサンドラ。以上が人間の亜種たちのメンバーだ。

 

人間のメンバーたちもまた特殊なバックグラウンドを持つ。元コングリゲート軍下士官にして刑務所暮らしをしていた爆発物の専門家、マリー。数々の遺伝子組み換え生物を生み出す遺伝学者デル・カサル。そしてベリサリウスの詐欺技術の師であり、不治の病に冒されているウィリアム。

 

紆余曲折あって以上の8人のメンバーが集まり、後半からはいよいよ詐欺計画が動き出すのだが、文字数の都合もあるので続きは次回で。

 

 

 

ネタバレ解説はこちら

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