ひつじ図書館

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銀河英雄伝説日記① 黎明篇 —SFの三国志

最終更新:2021/03/13

英伝のストーリーをざっと振り返りたい人向け。

 

記事を読む前に注意!

あらすじはネタバレ込みでがっつり書いています。

 

はじめに…

きっかけはSFマガジン

 なにしろ、この物語は五巻まで読んでもまだ全体像が見えてこない。同じ十巻構成の《銀河英雄伝説》が第一巻冒頭で、専制銀河帝国対民主制の共和国という明確な構図を打ち出し、以後十巻までその枠内で展開するのと対照的だ—*1 

SFマガジン小川一水特集号を読んでいてなんとなく目についたこの一文に背を押され、ついに手をつけました、「銀河英雄伝説」。

 

広くメディア展開されている作品なだけあって、存在はかなり前から知っていた。テレビでアニメ版の再放送をやっているのを見かけたり、ヤングジャンプにも連載されていたり。極めつけには友人が使うLINEスタンプの中にも紛れ込んでいたり。

 

store.line.me

 

面白そうだなとは思いつつも、ビッグタイトルに怖気づき手を出しかねていたところで、冒頭の一文に出会った。「天冥の標と同じ十巻構成」、そうか、じゃあ一か月もあれば読み終わるじゃないか、と拍子抜けし、さらに第一巻はPrime reading対象ですぐに読めるという至れり尽くせりな状況。これは読むしかない、ということで一息に読了した。

 

注意点

率直な感想を言うと、天冥の標と毛色が違った作品でとても面白い。銀河帝国自由惑星同盟の対立、そしてその陰で経済的支配力を蓄えるフェザーン自治領、という構図が「序章 銀河系史概略」で早くも明らかになる。前史から時系列順に丁寧に説明していく構成で、すっと物語の世界に入り込めたので、いきなり物語の中途から話が始まる「メニー・メニー・シープ」のエキセントリックな開幕に馴染んだ身としては、逆に面食らってしまった(別に天冥の標をディスっているわけではない)

 

 

bookreviewofsheep.hatenablog.com

 

ここで注意をしておくと、筆者はかなり天冥の標に入れ込んでいるので、ことにつけて「天冥の標と比べて~」という説示が挟まれると思うがその点はご容赦願いたい。大学に入ってから読んだ中で最大の衝撃を受けた作品として、天冥の標は筆者の中でSFのスタンダードとなってしまっているのだ。

 

さらに注意点だが、この記事のシリーズでは、遠慮なくネタバレをする予定。また、内容を論じたりといった「書評」的な要素もかなり薄れると思う。タイトルにもあるように、あくまで読書日記として21世紀の大学生が無邪気に「銀河英雄伝説」を読み進めていく様を綴っていきたいと思う。

 

前置きも済んだところで、本題の「銀河英雄伝説日記 黎明扁」の内容へと入っていきたいと思う。

 

 

銀河英雄伝説1 黎明篇」あらすじ

アスターテ会戦

銀河帝国のラインハルトと、自由惑星同盟ヤン・ウェンリー。二人の優れた用兵家がはじめて戦場で相まみえる「アスターテ会戦」から本作は幕を開ける。ラインハルトの意表を突く作戦で同盟軍は兵力差を覆され、全滅寸前に追い込まれる。上官の負傷で艦隊の指揮権を渡されたヤンは損害を最小限に抑えて退却を成功させ、ラインハルトに好敵手と目される。同盟首都ハイネセンに帰投したヤンは英雄に祭り上げられ、新設の第13艦隊の司令官として帝国と同盟をつなぐ唯一の軍事ルート上の要衝イゼルローン要塞の攻略を命じられる。

 

イゼルローン攻略、そしてアムリッツァ

ヤンは奇策を用いて要塞攻略に成功するが、この成功に味を占めた最高評議会は選挙戦略のために無謀な遠征を強行。ラインハルトは戦略的撤退を重ねて遠征軍を帝国領に深入りさせ、伸び切った補給線を絶って一転攻勢に転じる作戦をとる。物資不足に苦しみながら退却する同盟軍は恒星アムリッツァ近傍の戦いで遠征軍の三分の二を失うが、ここでもヤンは巧みな用兵で帝国の完全勝利を阻み、ラインハルトはヤンへのライバル心を露わにする。

 

アムリッツァ会戦後、母国に戻った両雄を待っていたのは銀河帝国皇帝崩御の知らせだった。ラインハルトはいずれは帝位を奪うべく、幼い新皇帝を擁立するリヒテンラーデ公クラウスと手を組む。一方ヤンはイゼルローン要塞司令官に抜擢された。そして、ひそかに両国の経済面を支配しつつあるフェザーン自治領領主ルビンスキーの影には、復権を目論む地球の勢力があることが判明したところで、黎明扁は幕を閉じる。

 

 

比較 天冥の標×銀河英雄伝説 

世界観の違い

正直、開幕から宇宙艦隊同士の大規模な会戦が行われるのが意外だった。天冥の標では宇宙空間での致命的戦闘を禁止する条約「クアッド・ツー」が存在することもあり、ミサイルやレーザーが飛び交う大規模な艦隊戦は第六巻まで行われない。さすがは銀河英雄伝説、本格スペースオペラなだけはある、といったところか。

 

そもそも本作は人類が恒星間植民を成し遂げ、銀河連邦を樹立した後の世界が舞台なので、恒星間植民を開始しようとするシーンで幕を閉じる天冥の標とは時代のずれがある。銀河英雄伝説は天冥の標の、いわば後の時代の話なのだ。天冥の標が29世紀でおおむね幕を閉じるのも*2銀河英雄伝説で銀河連邦が成立するのが29世紀の初めであるのを意識しての設定なのだろうか。

 

個人と国家

また、天冥の標のテーマが感染症と差別がもたらす分断の中で戦う「個人」の運命なのに対し、銀河英雄伝説は戦争に明け暮れる「国家」にスポットを当てている。独裁の銀河帝国が絶対悪であり、共和制の自由惑星同盟が善であるわけではない。長年の戦争の中で同盟側にも腐敗が広がっており、最高評議会は「人々の自由と平和のため」と叫びつつも無謀な遠征で2000万人もの兵士を死に追いやった。ヤンたち軍人は安全な場所から主戦論を声高に唱える指導者たちに常に頭を悩ませている。天冥の標でも多数の死者が出ることはあるが、このように「国家に殺された」ことが強調されることはあまりない。

 

「毛色が違う面白さ」といったが、両者を比較するならば天冥の標は水滸伝のように群像劇的で、銀河英雄伝説三国志のように国家同士の対立を主軸としている、と言えるだろう(少々強引だが)こう例えてみると、ヤンが軍人ではなく歴史研究家を目指していたという設定もなんだかしっくりくる。

 

第一巻では、野心家のラインハルトの銀河帝国、飄々としたヤンの自由惑星同盟、狡猾なルビンスキーフェザーン自治領、という構図が出来上がった。彼らが、そして彼らの国が今後どのような運命をたどるのか、楽しみだ。

 

 

※第一巻のレビューに誤植がひどいとのコメントがあったが、読んでいてほとんど確認できなかった。修正されたのだろうか。

※誤植の件は問題ないのだが、少し惜しいのは、装丁が簡素であること。電子版とはいえ、表紙ぐらいは天冥の標みたいに華麗な表紙をつけてもよかったんじゃなかろか...

※あと、第二巻のレビューに「キルヒアイスはもっと活躍してほしかった」という文言を見つけてしまったのだが、これはもしや…

 

次回の記事はこちら

bookreviewofsheep.hatenablog.com

 

 

 

 

 

*1:S-Fマガジン 2012年1月号(第53巻第1号)p24

*2:最後の断章を考慮に入れると32世紀になるが