Sheep's Bizarre Book Review

邦訳:緬羊書評協会。文系大学生がSFを読むブログです。SFは文理の壁を越えます、多分。

銀河英雄伝説日記⑧乱離篇—残酷な真実

最終更新:2021/03/13

英伝のストーリーをざっと振り返りたい人向け。

 

記事を読む前に注意!

あらすじはネタバレ込みでがっつり書いています。

 

前回の記事はこちら

 

bookreviewofsheep.hatenablog.com 

 

銀河英雄伝説⑧乱離篇 あらすじ

巨星墜つ

ヒルダをはじめとする腹心たちが反対する中、皇帝ラインハルトはヤン・ウェンリーと雌雄を決するためにイゼルローン回廊に軍を進め、「回廊の戦い」が始まった。兵士と艦船の損害もさることながら、帝国軍側ではファーレンハイト、シュタインメッツの二人の上級大将が、ヤン艦隊からも艦隊運用の面でヤンを支えたフィッシャーが戦死する激しい戦いとなる。

 

抗戦を続けるヤン艦隊の前に、皇帝の発熱もあり帝国軍は一時軍を退き、和平を申し出る。交渉のために帝国軍の元へ向かうヤンだったが、その道中で地球教徒たちの襲撃に遭う。危機を察知したユリアン、シェーンコップたちが駆け付けるも間に合わず、「魔術師」と呼ばれた男は生涯を閉じた。

 

残された人々

好敵手を失い、ラインハルトは失意のうちにイゼルローン回廊から軍を退く。帝国は正式にフェザーンに遷都し、旧自由惑星同盟領の総督にはロイエンタールが任じられた。そしてトリューニヒトが高等参事官の地位を得てハイネセンに舞い戻る。

 

ヤン暗殺の黒幕は、弾圧を生き延びた地球教とルビンスキーだった。彼らは帝国内務省次官のラングを抱き入れ、さらなる混乱を引き起こすべくロイエンタールを次の目標に定める。

 

一方エル・ファシル新政府はヤンという大きな求心力を失って解散し、少なからぬ軍民がイゼルローンを去った。残った人々はユリアンを軍司令官に、フレデリカを政府主席に据えてイゼルローン共和政府、通称「八月政府」の樹立を宣言するのだった。

 

 

感想—何百万の死と一人の死

のちにユリアン・ミンツが述懐したように、「ぼくたちはヤン・ウェンリーにたよりきっていた。彼が不敗であることはむろんのこと、不死であるとすら信じていた」のである。けっしてそうではないことを、やがて彼らは思い知らされるのだが、(怒濤篇第五章「蕩児たちの帰宅」)

 

誰にも意外だったのは、ユリアン・ミンツの残留であったろうが、ヤンは彼のいわば最大の側近を同行させなかった。霊感と呼ばれる便利なものが時間外勤務をおこなったのか、(乱離篇第五章「魔術師、還らず」)

 

ヤンの死の前兆はいたるところにある。そもそもタイトルが「乱離篇」で目次にも「魔術師、還らず」と入れている時点で作者も隠すつもりはないのだろう。ネタバレされてた身には気が楽で良かった。

 

名のある軍司令官たちが何人も倒れた本巻だが、ひねくれた読者としては彼らの死を悲しんでいいものか、という気持ちもある。司令官たちが戦場で鎬を削るたびにそのうちの何人かが墓誌に名を連ねていくが、実際にはその何十万倍もの数の兵士たちが命を落としている。そして往々にして何百万という名もなき兵士たちの死よりも、たった一人の軍司令官の死の方が人の心を動かす。この理不尽さが戦争というものなのかもしれない。