Sheep's Bizarre Book Review

邦訳:緬羊書評協会。文系大学生がSFを読むブログです。SFは文理の壁を越えます、多分。

最強の「スタンド」使い? 乙一「The Book」

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最終更新:2021/03/18

荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険」の第四部「ダイヤモンドは砕けない」のスピンオフ作品。「夏と花火と私の死体」の乙一が、「本」にまつわるスタンドを持つ謎の殺人犯を追う仗助たちを描く。

 

ジョジョの奇妙な冒険」のファン、

成功したノベライズを見てみたい人、

ミステリーが好きな人

向け

 

 

「The Book」あらすじ

追う側と追われる側と

ジョジョの奇妙な冒険第四部「ダイヤモンドは砕けない」の後日談を、ミステリー風に描いた乙一の作品。乙一作品によくあるように*1、本作もまた複数のストーリーを同時に追う構成になっている。一つ目は第四部の登場人物たちが血塗れの猫をきっかけに殺人犯を追っていくストーリー。二つ目は本作オリジナルキャラの犯人の素性や能力が次第に明かされていく犯人側のストーリーだ。

 

三つ目の物語

そして三つ目がオリジナルキャラ「飛田明里」のストーリー。ビルの挟間で何か月も過ごした彼女の壮絶な物語は、一体彼女の物語は仗助たちと犯人にどう関わっていくのか。そして被害者を「屋内で交通事故に遭わせた」犯人の能力の正体とは何なのか。最後の最後まで息をつかせない展開が続く。

 

 

「The Book」解説

最強の「スタンド」使い?

本作で特筆すべきは「スタンド」の扱いのうまさだ。「ジョジョの奇妙な冒険」で第三部から登場した設定「スタンド」は、登場人物が守護霊のような存在を持ち、それらが持つ特殊能力を使って戦うというもの。敵味方の「スタンド使い」たちが互いの能力を駆使して戦うスタンドバトルが本編の醍醐味の一つでもあるが、本作のスタンドは

 

 いきなりでもうしわけないが、背後霊とか守護霊とかそういう類いのものがボクたちには取り憑いていた。(p75)

 

というつつましい紹介と共に登場する。スタンドバトルもクライマックスまで起こらず、スタンドたちは過度に存在を主張しない。

 

二次創作やノベライズをする際、この手の魅力的な設定を自由に使えるとなるとその便利さゆえについつい濫用してしまうのが人の性だ。しかし作者はうまく手綱をとって「スタンド」という設定を使いこなしている。ある意味作者は作中の人物にも劣らない最強の「スタンド」使いと言えるかもしれない。

 

成功したノベライズ

第四部で登場したスタンドが活躍する場面ももちろんあるが、どちらかと言えば重点が置かれるのは犯人のスタンドの全貌を解き明かしていくプロセスだ。漫画では絵面が映えるスタンドバトル中心、ノベライズではスタンドが発現した経緯や能力に気づくまでのプロセスが中心、というように描く内容の面で原作漫画とノベライズでうまく住み分けがされている。

 

また犯人のスタンドの特性も小説という媒体ならではのもので、ある種メタフィクション的な面白みがある。総じて言えば、ノベライズが陥りがちな「原作の文字起こし」という落とし穴を軽々と飛び越えて、「小説でなければ出来ないジョジョ」を実現させた作品と言えるだろう。

 

 

溢れる原作愛と億泰愛

基本的に原作を読んでいなくても十分楽しめるが、ジョジョを履修しておくとニヤリとできる箇所も散りばめられており、原作のファンならより一層楽しめること請け合いだ。吉良吉影が勤めていたカメユーデパートも登場するし、ディオのあの名言のパロディも登場する。

 

ストーリーも原作の要素をふんだんに盛り込んだ上でよく練られている。例を挙げれば、物語の舞台になる杜王町は「ベッドタウンとして急速に発展した」と原作でさらりと紹介されていたと思う。この設定が、本作では飛田明里がビルの挟間に落とされることにも関わる重要な背景として生かされており、余すところなく原作の設定を使い切っている感がある。                

 

また登場人物の面では、虹村億泰が終盤で中々の活躍を見せる。あと一歩で敵に出し抜かれて勝利を逃したり、仗助にスタンド能力を逆手に取られて撃退されたりと、ありていに言えば本編の億泰は戦闘ではあまり良いところが無かった。しかし本作ではスタンド「ザ・ハンド」が底知れない能力を持った不気味なスタンドとして描かれ、また本体も相手の裏をかく戦い方をするなど、猪突猛進型だった本編の頃から一皮むけた億泰を見ることができる。

 

純粋なミステリー小説としても、またジョジョのノベライズとしても非常に面白い作品であり、原作ファンであるかどうかにかかわらず一度は読んでみることをお勧めする。

 

 

 

*1:犯人とそれを追う主人公を並行して描くのは、「GOTH」や「暗黒童話」「ワンダーランド」でも見られる乙一作品の典型ともいえる手法だ