Sheep's Bizarre Book Review

邦訳:緬羊書評協会。文系大学生がSFを読むブログです。SFは文理の壁を越えます、多分。

チャレンジ企画 天冥の標×東大世界史 問題編

問題

宇宙開発は人類に有史以来はじめての完全なる無主の地をもたらした。初期の開発を主導したのは既存の国家や国際組織だったが、次第に小惑星帯を中心に勃興した新国家が人類社会の主導権を握っていった。これらの新国家群が宇宙ならではの独自の価値観や習俗を発展させる一方、利便性を求めて小惑星国家群の均質化を目指す勢力も登場し、両者は時に激しく対立した。

以上を念頭におきながら、22~24世紀における小惑星帯の国家群の勃興と、その在り方をめぐる対立について、ノイジーラント大主教国の例を中心に具体的に記述しなさい。解答は540字以内で記述し、必ず次の8つの語句を一度は用いて、語句を最初に使った際に下線を付しなさい。解答の際には、小川一水「天冥の標」の第3~6巻を参考にすること。

 

救世群 ノイジーラント ヴォルガ号事件

艦隊化ヒューマノイド ロイズ社団 MHC

ケープコッド自由連盟 ミールストーム

 

 

 最終更新:2021/03/04

企画説明

「天冥の標」と本企画の趣旨について

 「天冥の標」は小川一水の2009~2019年の長編SF小説です。パンデミックスペースオペラ、性愛、宇宙時代の農業、異星人との邂逅など多様なテーマを織り込みながら全10巻に渡るボリュームで1000年以上に及ぶ人類の未来史を描き、第40回日本SF大賞を受賞しました。

しかし、一口に「未来史を描く」と言っても、「天冥の標」はあくまで小説であり歴史の教科書ではない以上、本編を通読しただけで作品世界の歴史がはっきりと見えてくるわけではありません。作品世界の歴史=作品のバックボーンを捉えるには、長編小説におけるガイドブック的存在が必要になります。

本企画の目的の一つは、本編に付属する年表や、本文中で断片的に語られる作品世界の歴史についての記述を整理することで、そうしたガイドブック的な解説を「天冥の標」に加えることです。

また、そこに余計なひと手間ひねりを加えて天冥の標の作品世界の未来史の一部を、東京大学の世界史の入試問題の形を借りてまとめてみます。

 

東大世界史について

次に東大入試の世界史の基本的な説明を。東大世界史は三つの大問から構成されます。第一問は600字ほどの大型記述、第二問は60~90字ほどの記述問題の小問集合、第三問は一問一答です。本企画で使用するのは、このうち第一問の問題形態になります。

第一問はただ分量が多いだけの記述問題ではありません。リード文と指定語句を頼りに、出題者が示した歴史観に則って俯瞰的な視点から歴史を概観することが受験生に求められます。テーマも「東アジアの伝統的国際関係」(2020年度)、「19~20世紀のジェンダー史」(2018年度)、「エジプト5000年の歴史」(2001年度)のように広い範囲の地域あるいは時代を対象にしたものが多く出題されます。

 

「天冥の標」の中の未来史もまた、時には他の恒星系にも及ぶ広範な地理的広がりと、1100年という大きな時間的広がりを持ちます。受験生として東大世界史に関わった身としての、どうしても「東大世界史」という壁に作問者の側から挑戦してみたい!という思いと、入学後に「天冥の標」にドハマリした身として「天冥の標」の作品世界の雄大なバックボーンを整理してみたい!という思いが結びつき、このような面妖な企画を考え出した次第です。

 

注意とお願い

重大なネタバレを防ぐ観点から、本企画で扱うのは第三~六巻に含まれる300年間分のストーリーに限定します。とはいえ、企画の目的が本編にガイドブック的説明を加えるものである以上、記事を読む方が既に本編を読み終えていることを前提に書き進めます。そのため、未読の方はまずは本編を読まないと第二回以降の解説編を読んでも要領を得ないと思われますので、ご注意ください

また、本企画はあくまで「チャレンジ企画」です。実際の東大入試のレベルには遠く及ばない点も当然あることにご留意ください。現在、解答と解説は8割方完成していますが、既に「実際の東大の入試作成者ならこんな失敗はしないだろ」という齟齬もいくつか見つかっています(そうした点については別の記事にまとめる予定です)。関係者各位においては、「変な大学生がなんかやってるな」ぐらいの、暖かい目で見守ってくださいますようお願いします。

 

小説の中の歴史という虚構を、実在する入試問題の形態で説明するというかなり無茶のある企画ではありますが、どうか最後までお付き合いください。この企画が「天冥の標」と東大世界史の認知度の向上に少しでも貢献できれば幸いです。

 

解説編はこちら

 

bookreviewofsheep.hatenablog.com