Sheep's Bizarre Book Review

邦訳:緬羊書評協会。文系大学生がSFを読むブログです。SFは文理の壁を越えます、多分。

劉慈欣「球状閃電」 ネタバレあらすじ

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 邦訳未出版の劉慈欣「球状閃電」のネタバレあらすじです。下記の英訳版をもとにしているので、邦訳が出版された場合には内容に食い違いが生じるかもしれません。また、私の英語力が及ばず勘違いしている部分もあるかもしれないのでその点はご了承ください。

 

 
ネタバレなしの記事はこちらから↓
 

 

研究者たち

 陳*1の14歳の誕生日の夜、陳一家の目の前に球状の雷のような物体が突如として出現した。物体がまばゆい光を放った次の瞬間、陳の両親は消滅した。灰にまみれた無傷の衣服だけを残して。

 

 成長し学者としての道を歩み始めた陳は両親を殺した球電*2の研究を始め、球電の軍事転用を計画する軍の科学者林雲(リン・ユン)とタッグを組んだ。球電研究に生涯を捧げた陳の恩師张彬(チャン・ビン)や、旧ソ連の球電研究者たち先達は軒並み球電のメカニズム解明の困難さを諭し、研究から身を引くことを勧めるが二人は研究を続ける。

 

 陳たちはヘリコプターを使った実験で球電を作り出すことに成功し、さらなる分析のために物理学者の丁儀(ディン・イー)を研究チームに迎えた。丁儀の活躍で、球電の正体は「マクロ電子」とも呼ぶべき巨大な電子であることが明らかになる。捕獲したマクロ電子を射出して、標的を焼却するという球電兵器のコンセプトも固まり、林雲はさっそく球電兵器を扱う特殊部隊「曙光」を創設した。

 

球電の特殊性

 一方で丁儀は球電兵器の奇妙な振る舞いを発見した。誰も見ていない状態で標的に向かって発射された球電弾は、命中率が極端に下がるのだ。丁儀は球電兵器が観測者の有無によってその効果を変えるという仮説を示す。

 

 ある日、誰も観測していなかったはずの球電弾の命中率が不自然に向上する。機密保持のために曙光部隊の演習は曇りの日を選び行われていた。にも拘わらず、雲の隙間から敵国の人工衛星が演習を捉えていたのだ。球電兵器の存在が知られたことを受け、野外演習は中止される。

 

軍事転用

 いまや機密事項となったマクロ電子の研究を陳たちが進める中、原子力発電所で環境テロリストの籠城事件が発生し、林雲は事態の鎮圧のために球電兵器の投入を進言する。球電兵器は恐るべき威力を振るい、人質の子供たち諸共テロリストたちを灰にした。残された被害者の体の部分で一番大きいのは手首だった。

 

 球電兵器がもたらす惨禍にショックを受けた陳は球電研究から身を引き、気象学の研究に転身した。陳はマクロ電子を探知する際に用いた技術を応用し、竜巻を早期発見し消滅させるシステムを開発するという大きな業績を上げる。

 

 一方、中国は「敵国」との戦争に突入した。ある日軍に呼び出された陳は、中国側の空母が巨大な竜巻に巻き込まれて沈没したと知らされる。敵国は陳の研究成果を応用して、人工竜巻を発生させ敵を攻撃する新兵器を作り出していたのだ。中国側も新兵器である球電兵器を投入するも、敵国は球電兵器への防御方法を熟知しており攻撃は失敗する。

 

    劣勢の中で林雲は、新たに発見されたマクロ原子核を使った核融合兵器を開発するが、その威力を恐れた軍の上層部からマクロ核融合の実験にストップがかかる。

 

核融合

 自身の研究が兵器として利用され自国に多大な損害を与えたこと心を痛めた陳は、失意の日々を送っていた。そんなある日、身の回りの電子機器が全て使用不能になるという怪現象が発生する。調査を進めると、中国北西部を中心とした半径1300キロにも及ぶ地域で同様の現象が起こっているという。混乱する陳の前に球電研究を続けていた丁儀が現れ、真相を明かした。

 

 上層部の決定に逆らい、林雲はマクロ核融合の実験を強行してしまった。球電兵器もそうなのだが、マクロ核融合はそのエネルギーを特定の物質に選択的に伝える性質を持っていた。そして実験に使われたマクロ原子核は、電子機器のチップにエネルギーを伝えるものが選ばれていたのだ。

 

    周囲の物体を無差別に破壊する通常の爆弾に比べ、物質を選択的に破壊するマクロ核融合爆弾はエネルギーを効率的に伝えるため、効果範囲が格段に広い。陳が体験した電子機器の失調は、はるか離れた場所で起こったマクロ核融合爆発の影響だったのだ。そして丁儀は、爆心地のすぐそばにいた林雲が爆発に巻き込まれ姿を消したと告げる。

 

未知の観測者

 マクロ核融合の脅威は敵国にも伝わり、戦争は終わる。陳は研究から離れ平穏な生活を送っていたが、ある日球電研究の中でかかわりがあったSETI@home(地球外生命体発見のためのプロジェクト)の関係者からの連絡を受ける。

 

    観測者が存在しないはずの地下鉱山で行った球電の実験で、かつて曙光部隊が経験したような現象が起きたという。考えられる仮説は一つ。超越的な観察者*3という形で、異星人が既に地球に到達しているということだ。こうして物語は「三体」につながっていく。

 

 

おまけ:球電の設定について

  本作で示される球電のメカニズムは、量子論も絡めたかなり挑戦的なものです。英語で読んだせいもありますが、個人的には釈然としない点も多くありました。球電が特定の物質と「共振」するとはどういうことなのか、球電で破壊された生物は「シュレディンガーの猫」のような状態になるとは具体的にはどういうことなのか…などなど。

 

 気になったので、球電やマクロ電子に言及している部分を日本語訳して理系の友達に検証してもらったところ「アイデアは面白いけど、不自然な点が多い。」という答えが返ってきたりで、球電の設定に関しては私はかなりもやもやしています。

 

 とはいえ、物理をろくに修めていない文系大学生が本作の設定を考証するのにも限界はあるので、今回はとりあえず球電に関する設定を列挙しておくだけに留めます。興味がある方がいましたら、科学的な検証を加えてみてください。

 

 

①球電の正体は巨大な電子=マクロ電子である

 

②マクロ電子はミクロ粒子と同じくらいに量子論的効果の影響を受ける

・球電弾の命中率は観測者の有無によって左右される

・球電に消滅させられた者は「シュレディンガーの猫」のような存在になる

 

③マクロ電子は「共振」する物質に選択的にエネルギーを伝える

 

④マクロ電子と同様に、マクロ原子核も存在する

 

 

 参考:

 本作を読んでから少しだけ量子論をかじったのですが、前述の友達に教えてもらった下記のサイトがとてもわかりやすかったです。興味のある方はどうぞ。

 

www1.odn.ne.jp

 

 

 

www.bookreview-of-sheep.com

 

 

 

 

*1:本作は陳の一人称で進行する。陳は登場人物からは「陳博士」と呼ばれるだけで、名前は分からずじまい。

*2:ちなみに気象学の分野では「球雷」という呼称が一般的らしい。

*3:「三体」を読んだ方ならピンと来ているでしょうが、智子のことです。