ひつじ図書館

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宇宙における愛の意味とは 三体Ⅲ 死神永生(劉慈欣)

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 今更な気もしますが、「三体Ⅲ 死神永生」を読んで思ったことを備忘録代わりにまとめておきます。ネタバレメガ盛りです。ご注意ください。

 

「藍色空間」 の活躍

「死神永生」そして「球状閃電」へ

 果たして第三部「死神永生」では何が起こるのか。三体人が何らかの形で「呪文」を無効化して「三体人vs地球人」という図式が復活するのか、あるいは重力波システムがETOの残党によって作動させられ、人類が三体人もろとも破滅の危機を迎えるのか。そして、外宇宙へと消えた「藍色空間」と「青銅時代」に乗った新人類はどのような形で未来の人類の前に姿を現すのか?

 

 前作「黒暗森林」の考察記事でこんなことを書きましたが、まさか「藍色空間」(と「万有引力」)の乗組員たちが重力波送信を実行するとは… 。

 

 重力波送信や「四次元のかけら」との邂逅などの紆余曲折を経て、「藍色空間」の乗組員たちが新しい「世界」へと乗り出していくのが感慨深いですね。地球の人類たちが紀元が変わるごとにコロコロ態度を変えるのに対して、「藍色空間」の乗組員たちは始終一貫した姿勢を貫いていて好きです。

 

「エディプスの恋人」

 執剣者羅辑によって三体文明とのかりそめの平和が保たれていた「抑止紀元」には「社会の女性化」とも言える現象が起きます。 戦いや名誉を求める「男らしい」西暦人は排斥され、最大の功労者であるはずの羅辑でさえ「呪文」で一つの世界を滅ぼした罪で訴追されます。一見すると女性のようにしか見えないファッションが流行り、執剣者の座が程心に渡り、智子は優雅に着物を着こなします。

 

 まるで「エディプスの恋人」(筒井康隆)のような展開です。「エディプスの恋人」では作中での神的存在が男性から女性に交代することで、社会が女性化しました。「死神永生」で執剣者が羅辑から程心に交代するのと重なりますね。

 

 こうした「社会の女性化」は、「宇宙における愛の意味とは」というテーマにも繋がっていきます。

 

「愛」は敗北したのか?

 「黒暗森林」は家族愛が地球を救う「愛の勝利」を謳う一面を持っていたのに対して、「死神永生」は一見「愛の敗北」を示しているようにも見えます。

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  程心は、名も知らぬ赤子を抱いて抑止紀元の世界への愛を自覚し、執剣者に立候補しました。しかし執剣者としての役割を果たすことには見事に失敗します。15分しか続かなかった執剣者としてのキャリア、そして心的ショックによる失明、「愛の敗北」は十分示されたかに見えますが、さらに追い打ちがかかります。

 

 「藍色空間」の乗組員による重力波送信後、光速推進ドライブの開発が人類の一つの目標となります。程心からの資本提供を受けた西暦人のウェイドは光速推進実用化まであと一歩のところまで行きますが、土壇場で程心は研究をストップさせました。反物質を使って人類文明を脅迫し、研究を続けようとするウェイドに程心は反発したのです。この時、程心の心にあの赤ん坊の姿があったことからも、一見人類の暴走を愛が止めた、「愛の勝利」だったかに見えましたが…。

 

 「掩体紀元」が始まってから67年目、異星文明からの暗黒森林攻撃が「双対箔」という形で太陽系を襲います。そして皮肉にも、双対箔がもたらす二次元化を逃れる唯一の手段は、程心が愛をもって開発をストップさせた光速推進でした。愛はまたしてもしくじったのです

 

 愛と社会の女性化との、象徴的存在である程心の二つの失敗。「宇宙の中では愛など何の意味も持たない」そんなドライな結論を「三体」は示しているようにも見えます。

 

 しかし、太陽系の二次元化を逃れた後に程心はこんな言葉をかけられます。

人類世界がきみを選んだのは、つまり、生命その他すべてに愛情をもって接することを選んだということなんだよ。たとえそのためにどんなに大きな代償を支払うとしてもね。(中略)きみはやっぱり、間違ったことはしていない。愛はまちがいじゃないからね。

 

 暗黒森林の宇宙を生き残るために、愛は役に立たないかもしれない。しかし、愛は間違いではない。愛についてそんな結論を出した後、「死神永生」はさらに先へと進んでいきます。

 

 

「2001年宇宙の旅」

 時々、「この小説は一体どこまで行ってしまうのだろう」と読んでるときに不安になる小説と出会うことがあります。例えばそれは「はてしない物語」だったり、「火星年代記」であったり、「2001年宇宙の旅」だったりするのですが「死神永生」はまさにその類いの作品でした。

 

 太陽系の二次元化から脱出した程心と艾AAは雲天明が程心に贈った星へと向かいます。人類が滅んで主人公だけが生き延びるというぶっ飛んだ展開だったけど、雲天明と程心が再会してハッピーエンドかなと思いきや、まだ一波乱あります。

 

 光速が極端に低速化する曲率航跡の中に囚われたことで程心と関一帆は1890万年の未来に飛ばされ、程心は雲天明が用意した「時の外」に到達します。そこで智子とも再会し、程心は「時の外の過去」を執筆。最後は、宇宙が無限膨張して死んでいくのを止めるために、程心たちが「時の外」を出て元の宇宙に回帰するシーンで終幕。

 

 …読んでいた時の感覚を「2001年宇宙の旅」に例えると、程心の太陽系脱出までがハルの反乱で、「時の外」到達以降が主人公のボーマンが「星の門」をくぐった後、という感じでした。読みはじめた時には想像もしなかったほど遠い場所まで連れていってくれる、そんな小説でした。

 

 

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