ひつじ図書協会

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#1 「電話とビニールシートと帰省」【日記】

 こんにちは、お昼ご飯はおにぎりを頬張るsheep2015です。今回も、前回に続いて新社会人生活の中で感じたことなどを、小説の一節といっしょに記録してきます。それではどうぞ。

「あなたは、狂っている」

 最初からヘビーですね。タイトルは忘れてしまったのですが、「電話」についての星新一のショートショートにあったフレーズです。

 

 隣の席の同僚が、電話を取った途端に黙り込んでしまった。なんの電話だったか聞いてもはぐらかすばかりで答えてくれない。気になった主人公は、会社にかかってくる電話を片っ端からとるようになる。

 

 だが、何度電話をとってもそんな電話は来ないし、例の同僚もどんな電話だったのか一向に答えてくれない。気になってたまらなくなった主人公は、他人の電話でさえ鳴れば奪い取ってとるようになっていく。変人扱いされたが、どうしても真実を知りたい主人公は電話をとることを止めなかった。

 

 そんなある日、主人公に一本の電話がかかってきた。相手はただ一言こういった。

 

あなたは、狂っている。

 電話が切れて、思わず主人公は黙り込んでしまうのだった。

 

 新入社員に振られる仕事の定番といえば、電話応対だそうです。私も例外にもれず、電話が鳴ったら1コール以内に取るように言われて、電話応対に励んでいます。

 

 最初はちょっと抵抗があっても、1日に何十本ととるうちに慣れてくるものです。そして慣れてくれば、もう早押しクイズのように、何が何でも自分が電話をとろうと競争のような気持ちで電話に飛びついていました。そんなときに、冒頭の一節がふと思い浮かびました。

 

 電話を取ろうと遮二無二になっている自分は、周りからはどう見えるか?新入社員が調子にのって、「狂っている」ように見えるのではないか?なんだか星新一に諭された気がして、それからはちょっと落ち着いて電話対応をするようになったのでした(なるべく早くとるようにはしていますが)

 

「『ビニールシートです。雨水を集めるために。』と答えればいいんだよ」

 オーストラリアのSF作家グレッグ・イーガンの短編「七色覚」より。常人には見えない世界を見る「七色覚」を手に入れた主人公が、落ちぶれて応募した仕事の面接で言われたセリフです。

 

 「四色型色覚」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?簡単にまとめると、「常人には見分けられない色を、見分けることができる能力」だそうです。人間の目は赤、緑、青の三色に対応した、三種類の細胞(錐体細胞)が、光に対してそれぞれ反応をすることで色を見分けています。この錐体細胞の種類が増えることで、もっと微妙な色の違いを見分けられるのが、「四色型色覚」です*1

 

 主人公は、目に埋め込まれた網膜インプラントの設定を改変して、錐体細胞が対応する光の波長の種類を増やして常人とは全く違う世界が見られるようになります。四色型色覚を超えた「七色覚」を手に入れたのです。

 

 微妙な色の違いを見分けて、駄目になりかかっている果物や花を一目で見分けられたり、カードについている微妙な汚れを見分けてポーカーでイカサマをしたりできるようになりますが、その能力を仕事にうまく生かすことはできずに職を転々とし、ある日の面接でこんな質問をされます。

 

 「船が沈没しかけていて、あなたには救命ボートに持ち込む品物を、ひとつだけ手に取る時間しかありません。ビニールシート、鏡、羅針盤。どれを選びますか?」
 

 投げやりに「これ、荷積みの仕事の面接なのにそんなこと聞く必要ある?」と聞くと、「答えはビニールシートだよ、ググればすぐわかる定番質問だぞ。不採用ね、君。」みたいに返されるのでした。

 

 別に私が採用面接でこんな質問をされたわけではないのですが、研修でやった「砂漠で生き残るために、次のアイテムの中から必要なものを話し合って決めましょう」というグループワークで、これを思い出して、「レインコートです、雨水を集めるために」と言いました。

 

 そしたら、「砂漠に雨がふるわけないだろ!」と一蹴され、一番必要なのは水だという結論になりましたが(そりゃそうか)


「あー、その『東京に来た』とか『実家に帰る』とかっていう言い方がいや。君は、まだ札幌にいるのに、もう東京に住んでいるみたい」

 最後は、早瀬耕の短編「忘却のワクチン」より。東京の企業に就職して、地元札幌を離れることになった主人公が、もう「東京の人」になっていることをガールフレンドが指摘するシーンです。

 

 ゴールデンウイークに帰省した時に、「それじゃあそろそろ帰るわ、明日から仕事だし」と言ったら、「そう、あんたにとってはもう、『帰る』って感覚なのね…」と母親に寂しげに言われてしまいました。

 

 自分も就職して地元を離れているのですが、最初は寂しく感じてもだんだん赴任地に心が移ってしまって、「帰る」みたいな言い方をしてしまうものです。

 

 ただ、家族や恋人からすれば、やっぱりいつかは地元に「帰って」きてほしいと思うものなんですね。「忘却のワクチン」の主人公と同じく、「何気ない言葉で彼女の不安を煽ってしまった」ことを反省しました。

 

 ちなみに「忘却のワクチン」は、大学の時にレポートでも取り上げたこともあるので個人的には愛着のある作品です。

 

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 というわけで、今回はここまで。次回は、自炊がらみの話などもできればと思います。それでは。

 

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