デニス・E・テイラーのSFシリーズ「われらはレギオン」の4作目、「われらはレギオン4 驚異のシリンダー世界」の紹介&感想です。「リングワールド」みたいで、とても面白かったです。
ストーリー
アザーズ*1撃破と人類の地球脱出を完了し、一息つくボブ。しかし、彼は自分のコピーたちについて深刻な悩みを抱えていた。
複製を繰り返すたびに、ボブのコピーたちはますます多様化した。そして今や、「最優先指令」を振りかざす「宇宙艦隊」や、AIの開発に血道をあげる「スキッピーズ」など、オリジナル・ボブとはかけ離れた派閥が生まれつつあった。
変わっていく「ボブの宇宙」を見かねて、ボブは行方不明になったベンダーを探してうさぎ座イータ星系へ旅立つ。そこで彼が目にしたのはベンダーのコアが取り外された宇宙船と、恒星を取り巻く巨大なシリンダー状構造物だった。
ボブはシリンダー状構造物「ヘブンズリヴァー」内にベンダーが捕らえられていると考え、「ボブの宇宙」から調査メンバーを募る。ボブの招集に応え、超リアルなTRPGセッションにめり込む派閥「ゲーマーズ」のリーダーガンダルフや、スキッピーズの一員ヒュー、そして元生物学者の複製人ブリジットたちが集まった。
しかし「宇宙艦隊」は「異星文明には干渉するべきでない」という「最優先指令」を持ち出してヘヴンズリヴァーへの潜入に反対する。そして、ボブたちがドローンを使って調査を進める一方で不穏な動きを続け…。
用語解説
本作は、「われらはレギオン」三部作に続く、シリーズ4作目となる。ここまでのシリーズについての簡単な説明は以下の記事を見てもらうとして、ここでは「われらはレギオン4 驚異のシリンダー世界」で初めて出てきた用語を中心に解説する。
ヘヴンズリヴァー
本作の主な舞台になる、うさぎ座イータ星系でボブが発見した超巨大構造物。見た目は巨大なチューブで、恒星をらせん状にぐるっと取り囲んでいる。シリンダー状の区画が何個も繋がっているという、「天冥の標」の「スカイシー3」*2を思わせるつくり。
内部は二重構造で、内殻が回転して疑似重力を生んでいる。外殻は静止しており、隕石や宇宙線を遮蔽する役割を果たす。内部の世界は、シリンダーの中心部に設けられた棒状の光源で照らされており、ちゃんと昼と夜の区別がある。
「ボブの宇宙」
複製を重ね、何千人規模で数を増やしたボブたちの共同体のこと。通称、「ボビヴァース」(「ボブ」と「ユニヴァース」を組み合わせた造語)。個々のボブたちは各星系に散らばっているが、超光速通信技術「SCUT」を活用したネットワーク「ボブネット」によって遅延なしで繋がっている。
ボブたちは普段はボブネット上に定期報告、通称「ブログ」を書いて近況を知らせ合っている。しかし、「ヘヴンズリヴァー」の発見のような一大事が起きると「ボブ総会」が招集される。総会はボブネットを利用したオンライン会議。オンライン会議とはいっても、ボブたちはVR空間で生活しているのでビデオ会議とはくらべものにならない、臨場感あふれる会議になる。
総会は司会がエアホーンを鳴らし、それに対してボブたちがブーイングを浴びせるというお決まりの行事(?)で始まる。意味はよく分からん。そういうものだ。
宇宙艦隊
複製を重ねて、変化したボブたちの派閥の一つ。「スター・トレック」シリーズの宇宙艦隊の乗組員の制服とよく似た服装をしており、「最優先指令」を金科玉条にしている。
「最優先指令」とはスター・トレックシリーズに登場する設定の一つ。シリーズのwikiサイトであるMemory Alphaによると、
最優先指令(Prime Directive)とは宇宙艦隊一般命令・規則の一般命令1条の指令条項であり、宇宙艦隊は他文明の内政干渉及び自然な発展の妨害や干渉を行ってはならないという最も優先されるべき束縛原理の一つである*3。
だそうだ。
要は、「行った先で出会った文明に一切干渉してはいけない」ということ。「宇宙艦隊」を名乗るボブたちは「ボブの宇宙」全体に対してこれを守り、そして人類文明とも関わりを断つように要求している。
スキッピーズ
恒星をエネルギー源に動く巨大なコンピュータ「マトリョーシカ・ブレイン」を作ろうとしているボブたちの一派。ヘヴンズリヴァー潜入計画に参加したヒューがメンバーの1人。もっとも、仲間内では音声では発音できない符号で呼び合っており、「ヒュー」という名前は対外的にしか使わないらしい。
「出来上がったばかりのコンピュータの性能試験」という名目で、ヘヴンズリヴァーの捜査に加わるがその真の意図とは…?
ゲーマーズ
VRを使ったリアルなTRPGセッションにのめり込むボブたちの一派。ヘヴンズリヴァー潜入計画の、外殻突破の部分を担当したガンダルフがメンバーの1人。普段はVRで可能な限りリアルにしたTRPGのセッションを楽しんでいる。
「楽しければなんでもいい」というような気性を持っているらしく、ヘヴンズリヴァー潜入計画に参加したのも使命感というよりは単純に面白そうだったかららしい。実際、義体の潜入が成功した後は積極的には計画にコミットしなくなり、ビルにツッコまれている。
ボブたちの変化
ボブたちは、複製されるごとに少しずつパーソナリティが変化する。これは複製浮動と作中で言われている。本作では、何回も複製浮動を重ねて、オリジナルからすっかり変わってしまったボブたちがテーマになる。
変化したボブたちの派閥の中でも、最も過激とも言える「宇宙艦隊」がそのいい例だ。彼らは「スター・トレック」シリーズに登場する「最優先指令」を振りかざして、全ボブに対して文明に干渉しないことを要求する。そして、この「文明」の中には人類文明も含まれる。
ボブたちが複製をしはじめたばかりの頃、彼らは滅亡しかけの異星人「デルタ人」に出会った。
デルタ人に干渉するかどうか議論する中で、SFオタクらしくやはり「最優先指令」が持ち出されるが、ボブはこう言い返す。
百年後にやってきた人たちに、ぼくたちが見つけた唯一の知性を持つ種族はあなたたちが来る一世紀ちょっと前に滅んだと説明するとき、それはぼくたちがテレビドラマの架空の規則を遵守したからだと伝えたなら、その人たちはきっと納得してくれるだろうな。
しかし、時を経て「宇宙艦隊」たちは「スター・トレック」の乗組員のような服装をして、「最優先指令」を声高に主張するようになった。この一事だけでも、どれだけボブが変わってしまったかがよくわかる。
蛇足:「リングワールド」との比較
突然だが、未知の文明が作った巨大な居住空間を探検する話を、私は勝手に「巨大構造物もの」と呼んでいる。
そして、巨大構造物ものの筆頭とも言えるのが、ラリイ・ニーヴンのSF小説「リングワールド」だ。
恒星をぐるりと取り囲む巨大なリング状の構造物「リングワールド」を探検するというストーリーなのだが、やはり本作と比較せずにはいられない。出版社側もそう思ったらしく、「われらはレギオン4」の帯には「リングワールドを超える巨大世界」なーんて文字が躍っている。
というわけで、ここからはsheep2015の全くのきまぐれで、「リングワールド」と「われらはレギオン4」を比べてみようと思う。
ぶっちゃけた感想を言ってしまうと巨大構造物ものとしての「われらはレギオン4」は、「リングワールド」を超えられていないように感じた。
「恒星の周りをらせん状にめぐるシリンダー」よりは、「恒星にかけられたリング」の方がシンプルでイメージしやすい。それにリングワールドの地表では、リングの一部が地平線をまたぐアーチのように見えて非常に「映える」のだが、残念ながらヘヴンズリヴァー内部の世界にはそこまでの「映え」はない。
が、当の巨大構造物の中身、つまりその中に営まれている文明について言えば、「われらはレギオン4」には非常に優れているものがある。
ヘヴンズリヴァーにはクインラン人というカワウソのような異星人が住んでいる。彼らはヘヴンズリヴァー内の環境を最大限に利用して、牧歌的なユートピアを作っているのだが、その社会にはどこか不自然なところがある。
ヘヴンズリヴァーに秘められた高度な技術とは釣り合わない原始的な文明レベル、反抗したものは「散らされる」という謎の噂、そして住民の不自然な怒りっぽさ。
「リングワールド」と違って文明がちゃんと残っている分、これらの謎をボブたちが解いていく過程がとても面白い。ボブたちはクインラン人そっくりの義体を作り、ヘヴンズリヴァーに潜入する。そして時にはクインラン人の追手たちと大立ち回りを演じながら、「管理者」と呼ばれる謎の存在の正体に迫っていく。なんともわくわくするではないか。
結論としては、巨大構造物ものとしては「リングワールド」に、異星文明の調査ものとしては「われらはレギオン4」に軍配が上がると思う。だから何だという話だが、たまたま「われらはレギオン4」の発売直前に「リングワールド」を読んでいて、記憶が新しかったので比べてみた次第。