ひつじ図書協会

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【天冥の標解説】ロイズ非分極保険社団とは何か?

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 「天冥の標」シリーズ前半に登場する巨大組織「ロイズ非分極保険社団」。保険を武器に暗躍するその実態について解説していく。

作中での活躍

 ロイズ非分極保険社団(以下、ロイズ社団)の初登場は「Ⅲ アウレーリア一統」。銀英伝のフェザーンラントよろしく、常に利益を追求する抜け目ない組織として描かれる。

 

 ロイズ社団の最大の特徴は、「保険」を武器にしていること。保険業を独占して莫大な利益を上げ、さまざまな星間企業を傘下において太陽系全体に大きな影響力を与える。メイドロボットから全自動艦隊まで取り扱うロボット企業MHDや、星間生鮮食品チェーンのミールストームもロイズ傘下の企業である。

 

元ネタ

 ロイズ社団の元ネタは、イギリスの保険市場ロイズ(The Society of Lloyd's)だ。とはいえ、巻末の用語解説でも「関係については諸説ある」と言われているように、共通点はあまりない。

 

 現実のロイズは300年近い歴史があり、さらに「保険会社」ではないのに保険を引き受けるという中々ユニークな存在である。

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なぜ「非分極」?

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そもそも「非分極」って?

 ロイズ社団に話を戻そう。ロイズ「非分極」保険社団、という名の通りに、ロイズ社団は常に「太陽系の非分極化」という目標を掲げる。「非分極化」とは「分極化」(対立する二つのものに分かれていくこと)をしない、つまり「均質化」を目指すということだ。

 

 太陽系全体で人々が同じものを食べ、同じ製品を使い、同じ文化を楽しむ。そんなローカル性が無くなり、全てが均質化された世界がロイズ社団の目指すところだ。

 

 「天冥の標」の前半は太陽系の非分極化を図るロイズ社団と、抵抗勢力との戦いの物語だ。アブノーマルな性的欲求にも応える「恋人たち」に対してはMHDが開発した倫理兵器を送り込み、「地元の味」を重視してローカル性を体現する小惑星農家に対してはミールストームの広域販売網を利用して潰しにかかる。

 

 ある意味でシリーズ前半のメインプレイヤーであるロイズ社団。その歴史について、次では解説する。

 

ロイズ社団の成り立ち

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全ては2222年にはじまった

 ロイズ社団の成立は2222年。まずはロイズ社団成立以前の情勢について見ていこう。

 

 「天冥の標」の未来史では、人類が本格的に宇宙に進出し始めた22世紀は、争いの世紀でもあったとされる。宇宙船の核融合エンジンは核兵器としても転用できたため、核が拡散し多くの死者が出たらしい。

 

 これを重く見た小惑星国家たちは23世紀初頭に「2222年第3次拡張ジュネーヴ条約」を締結する。締結された年号にちなみ、この条約は「クアッド・ツー」(「4つの2」という意味)と呼ばれる。

 

 クアッド・ツーの最大の特徴は、致命的宇宙戦闘の禁止を掲げ、「いかなる国家・集団・個人も、殺戮を目的とする物理攻撃・情報攻撃を、先制の形で行ってはならない」という条項を取り入れた点だった。

 

 つまり、いきなり敵船に向けて核ミサイルをぶっ放したり、敵船のコンピュータをクラッキングして核融合炉を暴走させたりしちゃダメ、ということ。

 

 とはいえ、ただ条約を結んだだけでみんなが条約を守ってくれるわけはないので条約実現化のために、違反者に制裁を加える運用監視機関が置かれることになった。それがロイズ非分極保険社団だったのである。そう、実はロイズ社団は保険とは関係ない目的で作られたのだ。じゃあなんで名前に「保険」がつくのかは聞いてはいけない

 

ロイズ社団の役割

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アストライアは正義の女神テミス(写真)の娘

 クアッド・ツーの違反者を罰するために、ロイズ社団には太陽系で唯一の致命的戦闘能力を持つことが認めらた。それこそが、太陽系最大級の戦艦であるアストライア級法廷戦艦だ。Ⅲ、Ⅵにちょくちょく登場する。

 

 その名の通り法廷戦艦には簡易法廷が付属していて、攻撃対象の行動がクアッド・ツー違反に相当するかをその場で裁判にかけることが出来る。そして、「違反」と判断されたら圧倒的火力で対象を無力化するわけだ。

 

 実際、「Ⅲ アウレーリア一統」では、セレス・シティ上空に停泊しているエスレルが海賊の攻撃を受けた時、ロイズの法廷戦艦が出動して戦闘が終結する。このように、クアッド・ツー違反が起こった時に法廷戦艦で現場に急行し、戦闘を止めさせて違反者を罰するのがロイズ社団の本来の役割だ。

 

ロイズ社団と保険の関係

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保険で太陽系を支配できる?

 ロイズ社団の本業はクアッド・ツーの運用監視ですが、ではいつから「保険」も扱うようになったのか?

 

 始まりは戦災被害者の補償だったとされている。戦争の被害にあった人々を支援するために、ロイズ社団に基金集金分配部門が設けられる。当然そこには大金が集まるわけで、その資金を使って基金集金分配部門は保険業務を始める。

 

 現実の保険会社も、多額の保険金支払いに対応できるように膨大な資金を蓄積している。多額の資金を抱えているロイズ社団なら、どんなことがあっても保険金を支払ってくれるという安心感があったのか、いつしかロイズ社団は「全てのものに箔をつけ、優越せずに治む」のスローガンを掲げて太陽系全体の保険契約を独占するまでに成長する。

 

 ぶっちゃけ、本来国家の監督下に置かれるべき保険事業を国家に制約されないクアッドツーの運用監視機関がやっちゃうことがそもそもヤバいし、太陽系の保険契約を独占するとか未来の太陽系には独占禁止法は無いのかよみたいな感じですがそこはスルー。

 

 次回は、なぜ「ロイズ非分極保険社団は非分極を目指すのか?」という肝心かなめの点について解説していく。

 

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