ひつじ図書館

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【天冥の標解説】#1 ロイズ非分極保険社団とは何か?

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小川一水「天冥の標」シリーズの前半に登場する巨大組織「ロイズ非分極保険社団」。今回はそんな「保険」を武器に暗躍する珍しいタイプの悪役について解説していきます。

 

 

作中での活躍

ロイズ非分極保険社団(以下、ロイズ社団)の初登場は第三巻「アウレーリア一統」です。銀英伝のフェザーンラントよろしく常に利益を追求する抜け目ない組織として描かれています。

 

ロイズ社団の最大の特徴は、「保険」を武器にしていること。太陽系の保険業を独占し、保険契約を通じて各国に影響を及ぼします。

 

ロイズ社団が支配するのは保険業だけではありません。メイドロボットから全自動艦隊まで取り扱うロボット企業MHDや、星間生鮮食品チェーンのミールストームなどの星間企業を傘下におさめ、第六巻「宿怨」ではロイズ社団は太陽系の事実上の支配者になります。

 

なぜ「非分極」?

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そもそも「非分極」って?

ロイズ「非分極」保険社団、という名の通りに、ロイズ社団は常に「太陽系の非分極化」を目指します。「非分極化」とは「分極化」(対立する二つのものに分かれていくこと)をしない、つまり「均質化」を目指すということです。

 

太陽系全体で人々が同じものを食べ、同じ製品を使い、同じ文化を楽しむ。そんなローカル性が無くなり、全てが均質化された世界がロイズ社団の目標です。

 

そんなロイズ社団の方針には当然多くの人々が抵抗します。その抵抗勢力の代表が

致命的感染症「冥王斑」の患者群「救世群」(第二巻)

ノイジーラントの酸素いらず(第三巻)

「ハニカム」を運営するアンドロイド「恋人たち」(第四巻)

パナストロの小規模農家(第五巻)であるわけで。

 

つまり「天冥の標」の前半は太陽系の非分極化を図るロイズ社団vs抵抗勢力との戦いの物語、とも言えます。そんなシリーズ前半のメインプレイヤーであるロイズ社団の歴史について、次は解説していきます。

 

ロイズ社団の成り立ち

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全ては2222年にはじまった

ロイズ社団の成立は2222年です。まずはロイズ社団成立以前の情勢について見ていきましょう。

 

人類が本格的に宇宙に進出し始めた22世紀は、争いの世紀でもありました。宇宙船の核融合エンジンは核兵器としても転用できたため、核が拡散し多くの死者が出ます。

 

これを重く見た小惑星国家たちは23世紀初頭に「2222年第3次拡張ジュネーヴ条約」を締結します。締結された年号にちなみ、この条約は「クアッド・ツー」と呼ばれます。

 

クアッド・ツーの最大の特徴は、致命的宇宙戦闘の禁止を掲げ、「いかなる国家・集団・個人も、殺戮を目的とする物理攻撃・情報攻撃を、先制の形で行ってはならない」という条項を取り入れた点でした。

 

つまり、いきなり敵船に向けて核ミサイルをぶっ放したり、敵船のコンピュータをクラッキングして核融合炉を暴走させたりしちゃダメ、ということ。

 

とはいえ、ただ条約を結んだだけでみんなが条約を守ってくれるわけはない。そこで条約の実現化のために、違反者に制裁を加える運用監視機関を置くことにしました。

 

そして運用監視機関として設立されたのがロイズ非分極保険社団でした。そう、実はロイズ社団は設立当初は全然保険に関係ない組織だったです。

 

ロイズ社団の役割

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アストライアは正義の女神テミス(写真)の娘

クアッド・ツーの違反者を罰するために、ロイズ社団には太陽系で唯一の致命的戦闘能力を持つことが認められました。それこそが、太陽系最大級の戦艦であるアストライア級法廷戦艦です。

 

その名の通り法廷戦艦には簡易法廷が付属していて、攻撃対象の行動がクアッド・ツー違反に相当するかをその場で裁判にかけることが出来ます。そして、「違反」と判断されたら圧倒的火力で対象を無力化するわけです。

 

第三巻「アウレーリア一統」では、セレス・シティ上空に停泊している主人公の乗艦「エスレル」が海賊の攻撃を受けた時、ロイズの法廷戦艦が出現して戦闘が終結するシーンがあります。

 

このように、クアッド・ツー違反が起こった時に法廷戦艦で現場に急行し、戦闘を止めさせて違反者を罰するのがロイズ社団の本来の役割です。

 

ロイズ社団と保険の関係

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保険で太陽系を支配できる?

ロイズ社団の本業はクアッド・ツーの運用監視ですが、いつから「保険」も扱うようになったのでしょうか?

 

始まりは戦災被害者の補償でした。戦争の被害にあった人々を支援するために、ロイズ社団に基金集金分配部門が設けられます。当然そこには大金が集まるわけで、その資金を使って基金集金分配部門は保険業務を始めます。

 

保険会社は、いつ多額の保険金を支払うことになってもいいよう多額の資金を貯めています。多額の資金を抱えているロイズ社団なら、どんなことがあっても保険金を支払ってくれるという安心感があったのか、ロイズ社団の保険事業はみるみる拡大していきます。

 

そしてついにロイズ社団は「全てのものに箔をつけ、優越せずに治む」のスローガンを掲げて太陽系全体の保険契約を独占します。

 

ぶっちゃけ、本来国家の監督下に置かれるべき保険事業を国家に制約されないクアッドツーの運用監視機関がやっちゃうことがそもそもヤバいし、太陽系の保険契約を独占するとか未来の太陽系には独占禁止法は無いのかよみたいな感じですがそこはスルー。

 

 

次回は、なぜ「ロイズ非分極保険社団は非分極を目指すのか?」という肝心かなめの点についてはこちらで解説していきます。現実のロイズについても触れるのでぜひ。

 

 

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