Sheep's Bizarre Book Review

邦訳:緬羊書評協会。文系大学生がSFを読むブログです。SFは文理の壁を越えます、多分。

ベストセラーの裏側に 「カササギ殺人事件」アンソニー・ホロヴィッツ

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 「小説の中にある小説」を巡って起こる事件を、主人公たちが追う。そんなマトリョーシカのようなミステリー「カササギ殺人事件」(2018、アンソニー・ホロヴィッツ、山本蘭 訳)を紹介します。

 

あらすじ

 売れっ子ミステリー作家アラン・コンウェイの最新作、「カササギ殺人事件」の原稿が届いた。アランの担当編集者スーザンはさっそく原稿を読み始める。

 

 物語の舞台はイギリス、サマセット州の小さな村。村に屋敷を構えるサー・マグナス・パイの使用人、メアリ・ブラキストンの葬儀から物語は始まる。階段から落ちて頭を打って死んだ彼女だったが、村にはメアリは息子に殺されたのだという噂がひろがっていた。不穏な空気が漂う中ついに警察が介入し、名探偵アティカス・ピュントが村にやってくる。

 村人たちの秘密が書かれていたメアリの日記、葬儀にやってきた見知らぬ人物、村の医師の薬棚から消えた毒薬、双子のサー・マグナス兄妹の因縁。疑心暗鬼がうずまく村で、アティカス・ピュントの手によって驚くべき真相が明かされようとしていた…。

 

  読み終えたスーザンは出版社のCEOのチャールズに連絡を取った。原稿にはあるとんでもない不備があったのだ。アランはなぜこんな原稿を書いたのか、調査を進めるうちにスーザンはアランが「アティカス・ピュントシリーズ」に込めていた思いと、ある計画に近づいていく。

 

 

「カササギ殺人事件」感想

 あらすじが随分ぼんやりとしたものになりましたが、ネタバレ防止のためなのでご容赦ください。是非ともネタバレなしで読んで欲しい作品なので。

 

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あまり登場しないが、その名前が重要な役割を果たすカササギ



業界の裏話

 作中の小説「カササギ殺人事件」の王道を征く魅力もさることながら、何といっても本作の見所はミステリー作家が描きだす「出版業界のリアル」です。

 

 作家志望者たちはスーザンら業界人を成功した特別な人種だと思いこんで原稿を送る一方で、一介の会社員であるスーザンたち編集者は彼らが送りつけてくる小説にうんざりしているという矛盾。警察関係者はミステリーの中の、作り物めいて巧妙な殺人事件のナンセンスさに辟易してスーザンを罵倒します。極めつけには、売れっ子のアラン本人が「アティカス・ピュントシリーズ」にはもう飽き飽きしている始末。

 

王道の魅力とちょっぴりの皮肉

 本作は出版業界を題材にしたノンフィクションではないので、これが業界の真の姿だ!というつもりはありません。とはいえ、アガサ・クリスティやモンゴメリなどの売れっ子作家たちが、ファンの求めに応じて「ポアロ」や「赤毛のアン」を書き続けるのにうんざりしていたことを思うと、こんな夢のない「業界裏話」にも妙に納得させられてしまいます。

 

 王道の英国式ミステリーを披露して読者を魅了する一方で、飛びついた読者にベストセラーの裏側を見せつけるという皮肉がちょっぴり効いた、面白い作品でした。続編も出ているので読んでみたいですね。

 

 

 

 

 続編のタイトルは「Moonflower Murders」。「カササギ殺人事件」の原題は「Magpie Murders」で、そろってきれいに韻を踏んでます。