ひつじ図書協会

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個人的にオチが好きな筒井康隆作品

 こんにちは、sheep2015です。今回は個人的に好きな終わり方をする筒井康隆作品を3つほど紹介します。当然結末にも触れるのでネタバレ注意です。

 

「ヤマザキ」

 本能寺の変の直後、信長の死をいち早く知った羽柴秀吉は、いわゆる「中国大返し」で畿内に急行し、山崎の戦いで明智光秀に勝利した。筒井康隆の短編「ヤマザキ」はこの歴史的事実を題材にした本格歴史小説である。

 

 …というのは大嘘です。はじめは至極普通の歴史小説なのですが、途中でいきなり秀吉が「電話」を取り出してからはもうむちゃくちゃ。電気カミソリで髭をそりだすやら、新幹線に兵を分乗させて畿内へ向かうやら、秀吉は時代背景を無視してやりたい放題を始めます。

 

 そして迎えた山崎の戦い、電話やら新幹線やら歴史小説にあり得ないはずのものが出てくるのを見て呆然としていた側近に、ついに秀吉が声をかけます。

「そちはきっと、この『説明』を求めておるのであろう。

 おお、ようやく説明が始まるのか、と読者が思った矢先、秀吉はこう続けます。

だが、よく聞け。あいにく『説明』はないのじゃ。うむ」彼はうなずいた。「説明は、何もないのじゃ」

 そして、明智の軍勢に向かって秀吉が突撃していくところでおしまい、というのが「ヤマザキ」のオチです。

 

 途中までは普通の歴史小説のように進むので、まずいきなり現代世界のガジェットが登場して読者は度肝を抜かれます。そして最後にその「説明」をするのか、と思わせておいて「説明はないのじゃ」と登場人物の口から言わせてもう一度読者の度肝を抜くという、隙の生じぬ二段構えが光るオチです。

 

「急流」

 時間の経過が加速していくという異変を巡るドタバタ劇。朝に家を出ても会社に着くころにはもう夜になっている。新聞の刊行は時間の加速に間に合わず、週刊から月刊、そして最後は年刊になってしまう。

 

 無理にダイヤを守ろうとして超スピードで運行する鉄道や、放送時間が短くなってもコマーシャルはカットできないのでコマーシャルだらけになるテレビ番組など、時間の加速に翻弄される人間たちがひとしきり描かれます*1

 

 時が無制限に加速していく中で、最後はこんな結末を迎えます。

 そして2001年がやってきた。

 2001年から先に、時間はなかった。そこでは時間が滝になって、どうどうと流れ落ちていたのである。(作者傍白・そんなばかな)

 

 「そんなばかな」というオチなのですが、それを敢えて作者本人が言ってしまうのがなんとも筒井康隆チックなオチです。

 

「偽魔王」

 筒井康隆作品の中に、不良外科医たちがむちゃくちゃな手術をする「問題外科」というスプラッター物があります。それに勝るとも劣らないスプラッター小説がこの「偽魔王」です。

 

 ある日、悪魔たちは「成績をあげるため」に暴力団員の猿田を新しい魔王として迎えます。魔王になった猿田は、手下の悪魔と、目を付けたとある家族を使役しながらとてもここには書けないようなエログロスプラッター満載のやりたい放題を始める…というのが大まかなあらすじ。

 

 そしてそんな阿鼻叫喚な展開が頂点に達した時、部下たちのやりすぎを止めるために上役の悪魔が介入し、悪魔と、悪魔に憑りつかれた一家は動物に変えられてしまいます。

 

 元悪魔の動物たちは、家族の中で唯一悪魔に魂を売り渡さなかった亭主の元に引き取られます。この亭主が動物の世話をするシーンで「偽魔王」は幕を閉じます。

 五匹が仲よく台所で餌を食べている。ほほえましい光景ではあるが、誰がどのけものかわからないというのがやはり心にかかってしかたがない。なんとか、わかる方法はないものかなあ。でも、もうラスト・シーンなんだよなあ。ちえ。おかしな結末だなあ。

 

 それまでのスプラッター三昧が中々どぎついものだっただけに、ホラー映画を観ていてようやくスタッフロールが始まったときのような安心感を与えてくれるオチです。

 

まとめ

 「ヤマザキ」「急流」、「偽魔王」と個人的にオチが好きな筒井康隆作品を紹介してきましたが、この3つの作品に共通しているのはどれも「メタなオチ」を迎えることです。

 

 「ヤマザキ」では歴史小説に現代的なガジェットが登場したことの「説明」について秀吉が言及しますし、「急流」ではラストシーンの直前に時間加速の原因について「この作者の作風から考えて、原因はもっと馬鹿ばかしい、非常にナンセンスなものだと思うよ」なんてセリフを主人公の同僚が言います。

 

 そして「偽魔王」でも

 しかしこれ、変な話だなあ。作者はいったいどういうつもりでこんなもの書いたんだろうなあ。教訓もなければ風刺もない。単にスプラッタアやりたかっただけなのかなあ。

なーんて独白が先ほどの引用箇所の直前にあったりと、どの作品でも自分がフィクションの中にいることを知っている登場人物が、作者や作品自体について言及するというメタ発言をします。

 

 メタ発言だけなら、多くの作家さんが作品に盛り込んでいます。しかしその中でも筒井康隆が一線を画しているのは、メタ発言で締める前に、メタ発言をしている暇もないくらい突拍子もないドタバタ劇で登場人物たちを翻弄させることだと思います。

 

 この「筒井康隆流のドタバタ劇」と組み合わされるからこそ、「メタなオチ」が秀逸なものになるのではないか、と思う次第です。

 

 今回紹介した作品のうち「ヤマザキ」「急流」は「最後の喫煙者」に収録されています。「偽魔王」にも匹敵するスプラッタ「問題外科」も収録されていておすすめです。

 

 また、「偽魔王」は「薬菜飯店」に収録されています。「薬菜飯店」は「ジョジョの奇妙な冒険」に登場するスタンド「パール・ジャム」の元ネタとも言われる表題作も収録されています。

*1:人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」にも時間が加速するエピソードがあります。時間加速の中で起こるドタバタの中のいくつかには、「急流」と同じようなものがあり、もしかして参考にしたのかな?とか思ったり。