「七瀬シリーズ」の二作目。テレパスである主人公「火田七瀬」が他の超能力者たちと出会い、そして超能力者を抹殺しようとする組織に狩りたてられる姿を描く。
「七瀬ふたたび」あらすじ
前作「家族八景」では、七瀬の超能力=テレパス が表面上は何の問題もない家庭の闇を描くための「舞台装置」に留まっていた。しかし本作では透視、念動力、未来予知などの種々の超能力が主役に躍り出る。
とはいえ超能力を使ってなんでも解決する、というような安直な展開にはならず、登場人物たちが自らの能力ゆえに、超能力でもどうしようもできない問題に巻き込まれていってしまうところが味わい深い。
もちろん、前作同様にテレパスを用いた暴力的なまでに赤裸々な心理描写は健在である。「家庭」という縛りが無くなったおかげで、電車の中、キャバレー、カジノ等様々な場所で様々な思惑を持った人間の姿が、七瀬のテレパスによって文字通り「欲望をむき出しに」描かれる。
また、超能力者たちの出自や個性も様々で、能力故に肉親から疎まれる者や逆に肉親のためにしか能力を使えなかったもの、はたまた能力を悪用するものまで多様な超能力者たちが登場する。
「七瀬ふたたび」の思い出
初めて「七瀬ふたたび」にふれたのはたしか小学生の時で、母親が見ていたドラマ版だったと思う。序盤の列車が土砂崩れに巻き込まれるシーンが怖かったのと、母親に「この恒夫って人、このあと急に未来が予知できなくなって、実はそれは自分が近々死ぬからだったってわかるんだよ」という、さりげなくそれでいてショッキングなネタバレをされたことを覚えている。このドラマ版の印象がかなり強く、読んでいる間七瀬の姿が仲間由紀恵で脳内再生されていたのだが、先日確認してみたら七瀬役は別の女優だったようだ。何故。
もう一つだけ思い出を語らせてもらうと、本作を読んだのは第一志望の大学の受験会場だった。試験が終わったあと、2時間くらいの謎の待ち時間がある大学だったので浪人生としての経験を活かし暇つぶし用に本作を持参したわけだ。
ちなみに浪人中は筒井康隆に凝ってて、「旅のラゴス」「パプリカ」「薬菜飯店」なども読んでいたのをよく覚えている。
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今思うと「七瀬ふたたび」は試験は終わったものの合格発表まで中々解放感に浸れない、奇妙な緊張状態の中で読む本としては最適だったと思う。七瀬の「ヘンリー、その男を自殺させてやりなさい」というセリフと、恒夫の今際の際のセリフがぐっときたのもその緊張状態と無関係では無いだろう。
筒井作品の中では人気シリーズになるだけありそこまでアクが強くなく静かな感動を味わえるので、あまり精神状態を励起させたくないとき、それこそ試験後や気持ちを静めたいときなどにおすすめの一冊である。
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