Sheep's Bizarre Book Review

邦訳:緬羊書評協会。文系大学生がSFを読むブログです。SFは文理の壁を越えます、多分。

山本弘「輝きの七日間」—SF寓話

2011年4月から2012年10月にかけて、「S-Fマガジン」に全18回にわたって連載(2011年8月号は「喪われた惑星の遺産」に差し替え)。

単行本化が中止されたため、今回記事を書くにあたってSFマガジンのバックナンバーを参照した。

 

「輝きの七日間」あらすじ

ベテルギウスがもたらした奇跡

2024年12月。ベテルギウス超新星爆発を観測していた各地のニュートリノ観測機関が未知の粒子を捉える。時を同じくして、ネット上に次々と画期的なアイデア、学説が提出され始めた。戦場からは銃声が消え犯罪率が低下し、差別意識も姿を消した。人々は急に自分たちの認識が広がり、論理的思考力が増しているのを実感する。後に「輝きの七日間」と呼ばれる奇跡の一週間の始まりだった。

「オリオノン」と名付けられた新粒子には生物を聡明化させる効果があった。一部の人々は聡明化の影響で今まで拠り所にしてきた信条の間違いに気づき絶望し、自殺者が増加する。一方で科学者たちは冷静に現象の分析を続け、オリオノンの飛来は一週間で終息し、聡明化現象もそれと同時に終わると発表する。

何もしなければ、一週間後には犯罪、環境問題、差別、戦争が蔓延する世界が戻ってくる。自分たちが再び愚かになる前に何をしておくべきなのか。輝くベテルギウスの下で、世界各地の人々は動き始めた。

 

感想—「高い知性」を何に使うか

知能が向上するという設定を持ち出されれば、大抵は科学技術の大幅な進歩を予想するかもしれない。しかし作者はオリオノンを、今まで見て見ぬふりをしてきた諸問題に人類の目を強引に向けさせる装置として使った。この点からも分かるように、本作には現在の世界への作者の強い危機感と焦りがあらわれている。

環境問題、差別、貧困、飢餓、戦争。これらの問題の深刻さと、火急の対応の必要性を聡明化した登場人物たちは力説する。正論ではあるが、エンターテインメント性に欠ける内容でもあり、「説教臭い」と反発する読者も多いだろう。しかしながら、地球温暖化や南北問題といった諸問題は確固として存在し、対策が必要であるのは紛れもない事実だ。そして多くの人々はこれらの問題を見て見ぬふりをしている。

作者は激情にはしることなく客観的に世界の諸問題を取り上げ、もしも人類がそれらを正面から扱ったら何ができるかを淡々と示していく。本作はSFの姿を借りた、人類への警告を込めた寓話だと言えると思う。

 

「輝きの七日間」に到達するまで

冒頭で述べたように、単行本未収録の作品なので現時点ではSFマガジンのバックナンバーを参照するしかテキストに触れる手段はない。18冊分買い揃えるのも骨なので筆者は図書館に頼ったが、中央公論AERAと異なりSFマガジンを収蔵している図書館は限られる。自分の大学の図書館もないと知ったときはかなり落胆したものだ。

近場の図書館がコロナ禍の影響で閉館したり、遠くの図書館まで足をのばしても目当ての号が無かったりと紆余曲折を経て、筆者は結局国会図書館に辿り着いた。雑誌閲覧室でSFマガジンに埋もれるのは至福の経験だったが、実際には最寄りの図書館で取り寄せてもらうのが現実的な方法だと思う。

単行本を買えば読めるというわけではないので手に取るためのハードルは高いが、当時のSFマガジンを漁りがてら是非とも読んでみてほしい。