ひつじ図書協会

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星にリングをかけるというロマン ラリイ・ニーヴン「リングワールド」

 ラリイ・ニーヴンのSF小説「リングワールド」の紹介&感想です。SFファンの間で名作として名高いこの作品、初めて手に取りましたが評判に違わぬ傑作でした。

あらすじ

 既知宇宙「ノウンスペース」の全てを見てしまい、飽き飽きしていた主人公のルイス。そんな彼の前に、数年前に人類の前から姿を消したパペッティア人が現れ、一枚の立体写真を見せる。そこに映っていたのは、恒星をぐるりと囲む巨大な構造物「リングワールド」だった。

 

 ルイスは、パペッティア人の使者ネサス、凶暴な種族であるクジン人、そして「幸運」の血統の出だという地球人のティーラ・ブラウンと共にリングワールドへ旅立つ。巨大な空中都市や殺人植物と出会いながら驚異の世界を冒険するうちに、ルイスはパペッティア人たちが巡らせていたある計画を知るのだが…。

 

リングワールドの構造

 構造物としてのリングワールドは一言でいうと「居住用の巨大なリング」だ。リングの内側は都市が点在する広大な居住スペースになっており、高速で回転するリングが生み出す遠心力で、疑似重力が生み出されている。

 

 また、大気をリング上から逃がさないようにリングの縁には壁があり、昼と夜を作るためにリングと恒星の間には巨大な遮光板シャドウ・スクエアがある。文庫版の表紙に描かれたリングワールドは、奥のリングが所々欠けているように見える。この欠けてる部分が、シャドウ・スクエアで作られた影=夜の部分だ。

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古代文明の超技術というロマン

 リングのちょうど真ん中あたりに降り立ったルイスたちは、リングワールドから脱出するために壁を目指して旅をする。その途中でラピ〇タもかくやという空中都市や、リングワールドを維持するための監視技術など驚異のテクノロジーを目にする。

 

 しかし、肝心のリングワールドの創造主は中々姿を現さない。そればかりか、ルイス達の前に現れる都市はどれも荒廃しきったものばかり。文明が死に絶え、かつての高度な技術の産物であるリングワールドだけが生き残っているのだ。

 

 多分、これが「リングワールド」の魅力の秘密だ。「失われた古代文明の超技術」。マヤのピラミッドや、ナスカの地上絵、イースター島のモアイを見た時と同じようなワクワク感を、「リングワールド」は与えてくれるのだ。

 

「星にリングをかける」他作品

 リングワールドの設定と似ているなと思ったのが、小川一水の「天冥の標」シリーズに登場する「涼気の繭」(チンラ・エグウェ)。

 

 リングワールドは「恒星の周りに設置された1本のリング」だが、「涼気の繭」は「惑星の周りに設置された20本のリングの集合体」だ。

 

 「涼気の繭」は、リングワールドのように居住目的のものではなく、惑星を超新星爆発から守るための一種の障壁で、20本全部で惑星全体をすっぽりと覆う構造になっている。

 

 とまぁ、リングワールドとの共通点は「天体の周りを回るリング」ぐらいなのだが、「リングワールド」を読んでいる間に頭から離れなかったので一応紹介しておく次第。

 

ダイソン球とリングワールド

 蛇足にはなってしまうが、SFでは定番のガジェットとして「ダイソン球」というものがある(らしい)ので、それについて触れておきたい。

 

 一般に知られているダイソン球とは、恒星が発するエネルギーを余すところなく活用するために、恒星を完全に覆う球殻をつくるというアイディア*1(注を必読)。太陽を中心に超弩級サイズのピンポン玉をつくり、その内側に張り付いて暮らす、といえばわかりやすいか。

 

 リングワールドの設計思想が「恒星が発するエネルギーを最大限利用するために、恒星の周りをリングでぐるりと取り囲む」というものだったことを考えれば、ダイソン球をちょっと控えめにしたのがリングワールドだともいえる。

 

 ダイソン球自体はSFでは定番のアイデアらしいが、私は寡聞にして「我らはレギオン」でしか目にしたことはない。「我らはレギオン」ではあらゆる星系から金属を収奪していく種族「アザーズ」の最終目的が、ダイソン球を建造することだった。

www.bookreview-of-sheep.com

 

 いずれにせよ、並外れた工学技術によってつくられた驚異の世界というのは、ロマンがあるものだ。

 

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「居住用の巨大構造物」つながりで↓

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*1:

ダイソン球の考案者である物理学者のフリーマン・ダイソンが想定していたのは、上述のような「恒星をすっぽりと覆うピンポン玉」とは違っていたらしい。

 

 ダイソン本人としては「恒星を取り囲むように配置されたいくつもの居住空間群」のようなものを思い浮かべていたらしい。しかしそれが、前述のようなひとつながりの構造物として誤解されてしまい、「ダイソン球=恒星をぐるっと囲む構造物」と認識されてしまったのだとか。

 

 ダイソンが思い描いていたような居住空間群は「ダイソン群(ダイソン・スウォー厶)」と呼ばれている。