こんにちは、午前0時から4時まで「球状閃電」を読んでいたsheep2015です。今回は、劉慈欣による「三体」の前日譚的長編「三体0 球状閃電」について書いていきます。
…といっても、感想は前に英訳版で読んだときに書いているので、今回はこの作品についての思い出などの自分語りが多めです。ちなみにネタバレありです。ネタバレなしがいいという方はこちら↓をどうぞ。
コロナと球電
さっそく、「球状閃電」をめぐる思い出を語らせてもらうと、まず最初にこの小説を読んだのは2年前の2020年の夏でした。コロナ禍で暇を持て余していた中、何か建設的なことをやらねばならん!!と思い、そうだ、英語で小説を読もう!と思い立って丸善の東京本店で「BALL LIGHTNING」を買ったのが8月の終わりごろ。
なんでまた「球状閃電」を選んだかというと、当時発売された「三体Ⅱ 黒暗森林」の訳者後書きで、大森望氏が本作について触れていたからです(単純…)「quantum superposition」(量子の重ね合わせ)なんて語句を調べながらコツコツ読んでいったのは良い思い出です。
丁儀が登場するまではなかなか面白くならなくて苦痛でしたが、丁儀が球電の正体を解き明かしてからはどんどん面白くなって一気に読みました。読了できた時には、それはもううれしかったです。自分の趣味のために英語を使ったのが初めてだったので、学校で英語を勉強しててヨカッタ、と心底思えました。
とはいえ、読み終わると不安になってくるのが「自分は正しく内容を理解できていたのだろうか」ということで、正直日本語訳が出ると聞いた時にも素直には喜べませんでした。ブログに記事まで書いたのに、いざ蓋を開けてみたら内容を勘違いしてばっかりでした、となったらどうしよう…と。
結局、ほとんど読み間違いはなかったのですが、一点だけ重大な勘違いがありました。それが、「史強と石剣」です。
史強と石剣
本作終盤、林雲がマクロ核融合実験を強行しようとするシーンで「石剣(シー・ジェン)」というキャラクターが登場します。実験を止めるために派遣されてきた特別チームの副長で、林雲の暴走を止めるためにミサイルの発射を要請するキャラなのですが…。
てっきり、このキャラクターが史強(シー・チャン)だと勘違いしていたんですよね…。
言い訳をすると、石剣は英語表記だとShi Jian。一方、史強はShi Qiangなので似てるっちゃ似てるんですが。中国語で発音した時のアクセントも違うし、そもそもこの時点で史強が准将なんていう高い地位についているはずがないんですよね。
ということで、以前の記事で、史強が「球状閃電」に登場する、みたいなほのめかしをしましたが、登場しません。私の勘違いでした。訂正してお詫びします。
球電と原爆
以前の記事では、劉慈欣が球電兵器と原爆を重ね合わせていることにふれましたが、日本語版を読んで改めてそう感じました。マクロ核融合兵器の実験が行われるのは、中国初の核実験が行われたロプノール周辺ですし、林雲との因縁があるロシアの兵器専門家は、こんな「警告」を林雲に贈ります。
恐怖の兵器、それはいつかあなたの同胞や家族に、あるいはあなたが抱いている赤ちゃんのやわらかい肌の上に降りかかってくるかもしれない。それを防ぐ最善の方法は、いまの敵や将来の敵よりも早く、その兵器をつくりだすこと!
母の死をめぐる悲惨な体験から兵器に異常なまでの関心を持つようになり、「やられる前に、やる」ために球電兵器開発に血道を上げる林雲の悲壮な姿が、読んでいるうちに鮮やかに思い浮かんできました。それだけに、彼女が軍隊以外の自分の居場所を見い出せた、終章「量子の薔薇」には救われた気がします。
作中における球電の正体について
ここから先、核心にふれる重大なネタバレがあります!!
「球状閃電」における球電の設定についてまとめると、以下のようになります。
①球電の正体は巨大な電子=マクロ電子である
②マクロ電子は量子と同じくらいに量子論的効果の影響を受ける
③マクロ電子は「共振」する物質に選択的にエネルギーを伝える
④マクロ電子と同様に、マクロ原子核も存在する
⑤球電で破壊されたものは「幽霊」になる
①はその通り、球電の正体は雷によって励起されたマクロ電子である、ということ。②の「量子論的効果」とは作中で「確率の雲として存在する」と表現されるように、観測されることではじめてマクロ電子の位置が確定する、ということ。
③は、マクロ電子はそれぞれ破壊するものが違い、ICチップだけを破壊するものや血液のみを破壊するものなど様々な種類が登場します。④は、マクロ原子核を利用した「マクロ核融合」が終盤で起こるのでわかりやすいかと思います。
そして最後の ⑤球電で破壊されたものは「幽霊」になる。 は、球電の犠牲者は「観測されると消えてしまう存在」になる、ということです。見る
作中の「奇現象」(英訳版だとStrange Phenomena)という章で起こる現象はたいていこの「幽霊」が原因です。久しぶりに主人公が実家に帰ったとき、誰もいないはずなのに掃除がされていたりものが動いていたりしたのは、彼の両親が「幽霊」となってまだ家に住んでいたからです。球電の実験場で見えない羊の声がしたのも、球電の動物実験に使われた羊が「幽霊」としてその場に残っていたせい。
…以上のような球電の性質が、科学的にあり得るか、ということについては触れないでおきます。そもそも私は量子論のことは分かりませんし。劉慈欣もあとがきでこういっています。
球電の正体は、この小説で描かれたものとはまったく異なるだろう。そもそも球電の真実の姿を解明することはSFの役目ではないし、わたしはそんな能力を持ち合わせていない。われわれSF作家にできるのは、自分の想像したものを描くことによって、SF的なイメージを想像することだ。
実際、「観測されることで軌道が変わる兵器」「SF的な意味での幽霊」といった、本作の「SF的なイメージ」はとても面白いですし、わくわくさせられます。本作の球電の正体は、いささか面白すぎるきらいもありますが、それはそれでいいんじゃないかな、と改めて思った次第です。