今週のお題「SFといえば」
こんにちは、この夏は山に籠るsheep2015です。今回は、一昔前のSF紹介本「SFハンドブック」を紹介します。
「SFハンドブック」とは?
1990年に早川書房編集部から出た、SFのガイドブック的な本です。年代別のSFの歴史や、翻訳者やSF愛好家がSFについての想いを綴る「マイ・ベストSF」、そして編集部イチオシの作品の紹介やSFの用語解説など、内容は多岐に渡ります。
SFかじった人ホイホイ
まず注目してほしいのは執筆陣の豪華さ。浅倉久志、伊藤典夫*1、山岸真*2のような海外SFの名翻訳者はもちろん、大森望や牧眞司のような名の知れたSF評論家が目次に名前を連ねます。
紹介される作品も、有名タイトルがずらり。
- 夏への扉
- 幼年期の終わり
- 「銀河帝国興亡史」シリーズ
- アルジャーノンに花束を
- 火星年代記
- 「デューン」シリーズ
- 虎よ、虎よ!
- リングワールド
- アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
- ソラリスの陽のもとに
「オールタイム・ベスト」として挙げられているこれら10作品を見ただけでも、SFを少しでも知っている方なら「あ、聞いたことあるタイトル!」となるのではないでしょうか。
個人的には一番刺さったのが、「山の上の交響楽」などで知られる中井紀夫の「アルジャーノンに花束を」の紹介文です。予備校で見つけたある落書きの思い出を発端に話を展開し、最後は「この本がもたらしてくれる感動にくらべたら、学校の成績が落ちることぐらい屁でもない。」と〆る名文。こういう紹介文が書けるようになりたいもんです。
…というように、SFをかじった人なら一度は名前を聞いたことがある翻訳者/評論家/作家が、有名作品を解説してくれる、そんな幸せなハンドブックこそ「SFハンドブック」なのです。
1990年代のSF観
「SFハンドブック」には「マイ・ベストSF」というコーナーがあります。各々がSFとの出会いのようなものを語りつつ好きなSF作品を挙げるコーナーなのですが、ここに当時のSF観のようなものが良く表れていて面白いのです。
ある人は、「サイボーグ009」や「ワンダー3」のようなアニメがSFへの入り口だったといい、ある人は大学生の時に参加したSF大会の思い出を語り、ある人は進駐軍(時代を感じる)でもらったSF小説が印象的だったと振り返り…と結構しっちゃかめっちゃかですが、中でも印象的な二人の文章を紹介したいと思います。
一つ目は、「ポーの一族」「11人いる!」などの作品で有名な漫画家の萩尾望都の文章。
10代の頃、私は来るべき日本の未来が本当にキライだった。実利のみで哲学や精神面が希薄で。(中略)だから、その頃読んだアジモフはじめ、アーサー・C・クラーク、ハインラインなどは未来に対して、新たな価値観を示してくれ、新たな発想を促してくれた。決められたもの、いま在るものだけが、絶対ではないということ。それは、私にとっては希望の星になった。
もう一つは、全100巻以上に渡る長編大河小説の「グイン・サーガ」の作者栗本薫の文章。
それに何よりもあの「昔」のSFはいかにも初々しかった。書く人も読む人も「SF」が低く見られていると憤り、SFのために、SFに市民権を得させたく、SFに少しでも水準の高い名作をつけ加えたく、純粋にSFが好きだからSFをかつぎSFを書き、読んでいた。
「11人いる!」にも「グイン・サーガ」にも確かにSF的な側面はありますが、個人的にはあまり萩尾望都や栗本薫といっても「SF」というイメージは無く、だからこそこうやってSFについて熱く語ってくださっている文章を読むのは新鮮で、とても良かったです。
ちょっと注意
紹介されている作品は海外SFばかりで、日本SFはありません。また、当然ですが時代が古いのでグレッグ・イーガンや劉慈欣のような昨今のビッグネームの作品は紹介されていません。とはいえ、逆に考えれば海外の古典SFを知るには最適の書と言えるかもしれません。
現に、こちら↓の企画で選んだ本はほとんどが「SFハンドブック」で名前を知った作品だったりします。
※ここからは個人の感想です
実は、私が「SFハンドブック」を読んで一番心に響いたのは、先ほども引用した栗本薫の『書く人も読む人も「SF」が低く見られていると憤り』という部分でして…。
こうした、SFというジャンルが持つ一種の「劣等感」は現在にも通じているところがある気がします。なぜなら、いくら「三体」や「プロジェクト・ヘイル・メアリー」がヒットしたからといっても、ミステリーや時代小説に比べるとSFはまだジャンルとしての力が弱いからです。
あくまで個人的なイメージなのですが、「普段どんな本読んでいるの?」と聞かれた時、たとえば「ミステリー読んでる」と答えれば、「ああ、宮部みゆきとかいいよね~」と会話が続くのに、「SF読んでる」と答えると「へーそうなんだ~(微苦笑)」で会話が終わる気がします。
今や「SFハンドブック」が出版されてから30年の時が経ち、日本SFでも数多くの名作が生まれ、また海外作品でも「三体」を皮切りに中華SFにも注目が集まっています。そして「SFハンドブック」自体もアップデートされつづけ、「新・SFハンドブック」や「海外SFハンドブック」などが出版されています。
こうしてSFが広まり、進化していく中で、いつの日かSFが「低く見られ」ることがなくなり、「SF読んでます」と言った時に
「ああ、小川一水とかいいよね~!天冥の標、マジで最高だった!」
…みたいな会話ができる日が来るのを楽しみに、本ブログではこれからもSFを紹介し続けていく所存です。