ひつじ図書協会

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HAL9000、RD、ART…船と一体化したAIが登場する小説を紹介

 こんにちは、sheep2015です。今回は、「船と一体化した人工知能のキャラクター」を、SF小説を中心に紹介していきます。

 

 

RD(怪盗クイーン)

 はやみねかおるの「怪盗クイーン」シリーズに登場。「怪盗クイーン」シリーズは、「蜃気楼」の異名を持つ怪盗「クイーン」とその相棒「ジョーカー」が、インターポールや巨大財閥を相手取りながら、世界各地の秘宝を盗みまわる冒険小説。「夢水清志郎の事件簿」シリーズと並ぶ、はやみねかおるの代表作です。

 

 RDは、クイーンが拠点(というより家?)として使っている飛行船「トルバドゥール」に搭載されているAIです。船の操縦はもちろん、炊事や掃除などの船内の管理や、クイーンの作戦のバックアップなど幅広く活躍します。人間とのやり取りは、船内のスピーカーや通信機経由。細かい作業(クイーンが自室に取り付けた南京錠をピッキングしたり…)をするときにはロボットアームを展開します。

 

 真面目な性格なので、奔放なクイーンに振り回されるのがシリーズのお決まり。クイーンが無茶な思い付き(「お月見がしたい」「船の中を極寒にしてこたつでぬくまりたい」など)をするたびに、ハッキングされて船内環境の管理権限を奪われるのがお約束です。

 

 もともとは日本の研究所で軍事利用目的で生み出されましたが、開発者の願いもあってクイーンによって盗み出されて、トルバドゥールに搭載されたという来歴を持ちます。

 

ART(マーダーボッド・ダイアリー)

 マーサ・ウェルズの「マーダーボッド・ダイアリー」に登場。「マーダーボッド・ダイアリー」の主人公は、人間と話すのが苦手で、連続ドラマ視聴が趣味の警備ロボット、通称「弊機」。自分のことをへりくだって「弊機」と呼ぶ引っ込み思案な性格ですが、警備ロボットなだけあって戦闘はお手のもので、敵システムを無力化する凄腕のハッカーでもあります。

 

 ARTは「弊機」が忍び込んだ宇宙船に搭載されていたAIです。密航目的で乗り込んだ弊機とは押し問答の末、なんだかんだで友人になります。搭載されている船が研究調査用であるため巨大な演算リソースを持っており、ハッキングの腕前も弊機が恐れるほど。

 

 性格は無礼ですが面倒見がよく、たまたま乗り込んできた弊機が人間社会に紛れ込めるようにアドバイスをしたりと、いい意味でのおせっかい焼きです。「お前の反応を見ていると、登場人物の感情がわかりやすくなる」という理由で、弊機と一緒に連続ドラマをみるシーンにはほっこりさせられます。

 

 ちなみに「ART」という名前は、弊機が「不愉快千万な調査船」(○○○hole research transport)の頭文字をとってつけた名前。普段は乗組員たちから別の名前で呼ばれていることが、続編の「ネットワーク・エフェクト」で判明します。

 

HAL9000(2001年宇宙の旅)

 キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」に登場。なお、この映画はのちにアーサー・C・クラークによって小説化されています。「2001年宇宙の旅」は、人類文明誕生のカギを握る謎の遺物「モノリス」の秘密を探るために、宇宙船ディスカバリー号で木星(小説では土星)へと向かうSF小説です。

 

 HAL9000(ハル)は、宇宙船ディスカバリー号に搭載されているAIです。ディスカバリー号の操縦や地球との交信を一手に担っており、乗組員をチェスで負かすなど抜群の知性を見せます。しかし、ハルには「乗組員と協力してミッションを遂行する」「ミッションの真の目的は乗組員には隠す」という矛盾した命令が与えられており、この矛盾が原因で、ハルは次第に狂っていき…

 

 キューブリック監督の映画では、ハルがしゃべるシーンで画面に大写しにされる赤いカメラアイがなかなかに不気味な印象でしたが、アーサー・C・クラークの小説版では乗組員との会話シーンも増え、映画よりは少しフレンドリーな印象になっています。

 

セント・マシュー(量子魔術師)

 デレク・クンスケンのSF小説「量子魔術師」に登場。「量子魔術師」は、知能を大幅に強化された改造人類「ホモ・クァントゥス」である主人公が、仲間を集めて大がかりな詐欺計画を実行するという、「オーシャンズ」のようなSF小説。

 

 セント・マシューは主人公に招集された仲間の一人で、巨大銀行によって生み出された最新鋭のAIです。銀行の経営判断を補助することが期待されていたものの、どういうわけか「自分はキリスト教の聖人、マタイの生まれ変わりである」という自己認識に目覚め、失敗作として閉じ込められていたところを主人公に救われた過去を持っています。

 

 普段は小さな礼拝堂にこもってAI相手に布教活動を行っていますが、招集にこたえて電子戦担当要員としてメンバーに加わります。敵側のシステムをハッキングしたり、携帯端末を通して指示を出したりと後方支援に回ることが多いですが、時には自ら宇宙船を操縦して仲間の危機を救うシーンもあります。

 

それ以外のAIたち

 上記に挙げた4人のAI以外にも、乗り物と一体化したAIはSFには多々登場します。

 

 異星人との戦争を兵站という切り口で描いた「星系出雲の兵站」(林譲治)では、戦闘艦に「ダメージコントロールAI」が搭載されています。通称は「ダメコンAI」で、敵の攻撃で深刻な損害を負い、とっさの判断が求められる際に人間に代わって戦闘艦を制御するAIなのですが、いかんせん融通が利かないことが多いAIです。「ダメコン」は「ダメダメコンピュータ」の略称だった…?

 

 また、人口が激減した地球で土地を賭けてギャンブルをする「タイタンのゲーム・プレーヤー」(フィリップ・K・ディック)では、人間と会話できる「ラシュモア効果」という機能が自律自動車に搭載されています。その中の一人、マックスは

「歩けばいいじゃないか、その足はなんのためについているんだ」

と持ち主に言ってのけたりと、毒舌が特徴的なキャラクターです。

 

 毒舌つながりだと、ドラえもんの長編「のび太の海底鬼岩城」(藤子・F・不二雄)に登場する水中バギーも毒舌AIです。海底ピクニックのためにドラえもんが取り出した秘密道具の一つで、内臓コンピュータにより人間と会話ができるバギー。しかしとにかく口が悪く、テキオー灯がきれて死にかけているジャイアンとスネ夫に

「死ぬんですか。人間って案外死ぬときはあっけないものなんですね。」

というセリフを吐いたりと余すところなく毒舌っぷりを見せつけます。しかし、最後には思わぬ形でドラえもんたちを救うなど、「のび太の海底鬼岩城」という作品を代表するようなキャラクターです。 

 

 

 ということで、船と一体化したAIたちを紹介してきましたがいかがだったでしょうか。「ONE PIECE」に登場する「ゴーイングメリー号」しかり、船には何かと思い入れやドラマが生まれるものです。そういったことを踏まえて、作家たちは人格を持ったAIを船に搭載するのではないかな…とsheep2015は勝手に思っています。