「Ⅰ メニー・メニー・シープ」の主要キャラ3人の系譜を、ネタバレを可能な限り抑えてまとめてみた。
セアキ・カドム
まずはセナーセーの町医者、セアキ・カドムの系譜から。
「Ⅱ 救世群」で登場した医師の矢来華南子が、作中に登場する中では彼の一番遠い先祖である。「Ⅱ 救世群」では彼女のパートナーの児玉圭吾の方が登場回数は多いが、後述のように矢来華南子の方があとから名前が出てくる機会が多い。
矢来華南子の子孫が、「Ⅲ アウレーリア一統」に登場するセアキ・ジュノ。ここで初めて「セアキ(瀬秋)」という姓が登場する。「Ⅱ 救世群」の最後でフェオドール・フィルマンから矢来華南子が受け取ったAI「フェオドール」をジュノが受け継いでいることからも、血のつながりが分かる。
Ⅳ、Ⅴではしばらくセアキ家の人間は登場せず、「Ⅵ 宿怨」でアイネイア・セアキが久しぶりの登場。父はリエゾン・ドクターのディトマール・セアキ。母はなんとMHD社筆頭執行責任者の、ジェズベル・グレンチェカ・メテオール。
セアキ・ジュノもそうだったが、救世群と社会の間の橋渡し役をするというリエゾン・ドクターの宿命なのか、セアキ家の人間は救世群の敵と近いところにいることが多い気がする。
アイネイア・セアキはロボットのフェオドールと共に「スカウト」のメンバーとして「新世界ハーブC」で生き延び、同じくスカウトのミゲラ・マーガスと結婚する。その子孫が、「メニー・メニー・シープ」に登場したセアキ・カドム*1ということになる。
アイネイアは結局医師にはならなかったが、彼の死後セアキ家は「思い出したように医者を輩出し」カドムの代にはすっかりセアキ家は医者の家系になっている。初代(?)の矢来華南子も医者だったことを考えれば、一種の先祖返りと言えるだろう。
コラム:カナコの系譜
ちなみに矢来華南子の名前は、救世群関係でちょくちょく再登場したりする。
まず、救世群の始祖言行録では彼女は「水の給い手カナコ」として出てくる。「Ⅱ 救世群」で、ジョプは矢来華南子に渡されたペットボトルをずっと大切に持っていた。このエピソードを元に、彼女は「水の給い手」として聖人化されたのだろう。
また、救世群が発明した手桶にも「カナコ」という名前が付けられている。「低重力下でも水を汲みやすい蓋つきの手桶」という触れ込みのこの道具、恐らく「水の給い手」というイメージから華南子の名がついたと思われる。
アクリラ・アウレーリア
お次は、セナーセーを治める「海の一統」の跡取り息子アクリラ・アウレーリアの系譜。
初めて登場するアウレーリア家の人間は、「Ⅲ アウレーリア一統」のアダムス・アウレーリア。遺伝子改造によって真空でも生きられるようになった「酸素いらず」の一員であり、強襲砲艦エスレルを駆って海賊を討伐する男の娘艦長だ。
アダムスが子孫を残したかは不明だが、弟のカロラ・アウレーリアがいたためかアウレーリア家の血筋は途絶えることなく「Ⅵ 宿怨」のオラニエ・アウレーリアに受け継がれる。
アダムスが立ち上げた恒星間移民計画「ジニ号計画」をアウレーリア家は連綿と受け継ぎ、ついにオラニエの代でレーザー光帆船ジニ号が建造される。オラニエはスカウトたちと共に「新世界ハーブC」に到達し、「海の一統」の街セナーセーを築く。
セナーセーでアウレーリア家は代々「艦長」の称号を受け継ぎ、その7代目が「メニー・メニー・シープ」に登場するキャスラン・アウレーリア。そして、その息子がアクリラ・アウレーリア...というわけだ。
ちなみに、セアキ家にフェオドールが付き従っているように、アウレーリア家にもアダムスの代からずっと、ロボットメイドのカヨが付き従っている。およそ500年以上にわたってアウレーリア家に仕え続ける、ベテラン中のベテランだが…。
イサリ・ヤヒロ
最後は、セナーセーに現れた怪物イサリの系譜。言葉は話せるが、はたして人間なのかどうかも疑わしい彼女にも、ちゃんとしたルーツがある。
彼女の系譜は、「Ⅱ 救世群」に登場する檜沢千茅に遡る。一介の女子高校生だった千茅は、冥王斑に感染して生還したことをきっかけに「冥王斑患者群連絡会議」を立ち上げ、救世群の始祖になる。晩年には孫娘のダイアとともに救世群の月面開発事業にも参加している。
彼女の血筋は*2「Ⅲ アウレーリア一統」に登場する救世群の議長グレア・アイザワに受け継がれる。「忘却炉」ドロテアを巡る騒動の発端ともいえる人物で、セアキ・ジュノの姪に当たる。1巻から7巻まででは珍しく、2巻連続で登場する。
救世群の議長には原則として女性が就任するが、「Ⅵ 宿怨」の時代には男性のモウサ・ヤヒロが第34代議長になっている。副議長のロサリオ・エル・ミシェル・クルメーロと強硬路線を進めるモウサ。彼の娘たちが、イサリとミヒルの姉妹である。
???(ネタバレ防止)
救世群の副議長には代々「クルメーロ」という姓が与えられる。「Ⅱ 救世群」のラスト、コスタリカのココ島の隔離施設で檜沢千茅が出会ったメキシコ人のボスが恐らくその起源。
これ以降、救世群の副議長は血縁によらず、能力によって選任されるようになる。外部から救世群に入ってきた人材が登用されることもしばしば。
グレア・アイザワの代には、彼女の夫でもあるルシアーノ・クルメーロ・ロブレスが副議長である。グレアの影に隠れて目立たないが、実務処理能力は確かだとセアキ・ジュノには評価されている。救世群の始祖言行録改ざんを行った張本人だが、ドロテア事件後の厳しい状況をのり越えるためのやむを得ない措置だったのだろう。
そして、「Ⅳ 機械じかけの子息たち」ではルシアーノの弟、キリアン・クルメーロ・ロブレスが主人公になる。軌道娼界ハニカムで「恋人たち」と過ごした彼は、救世群と「恋人たち」の交流の礎を築いた。
子孫こそ残さなかったものの、キリアンのアイデンティティは「メニー・メニー・シープ」のある登場人物に引き継がれている。「Ⅷ ジャイアント・アーク」でその人物が誰だか判明するので、まだの方はこの「種明かし」を楽しみにしながら読み進めてみて欲しい。
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