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#天冥名セリフ 【Ⅲ アウレーリア一統】

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 #天冥名セリフ で募集され、最終巻の帯を飾った「天冥の標」の名セリフたちの解説です。今回は「Ⅲ アウレーリア一統」からお送りします。なお、ネタバレ全開です。

 

一統身命を身許に擲ち、怒り、溜め、撃ち放せ!大気なくとも大地あり!(アダムス・アウレーリア、p67)

 惑星間輸送船ウシュマーン号を襲った海賊船を追撃する、ノイジーラント大主教国の戦闘艦エスレル。船内の「酸素いらず(アンチ・オックス)」を率いる艦長アダムス・アウレーリアがかけた突撃の合図である。

 

 最後の「Lose O2,we stand.(ルッゾツー・ウィースタン)」は酸素いらずが唱える聖句として、この後何度も登場する。「酸素は切れたが、俺たちは生きているぞ」「大気なくとも、吾ら立てり」「空気を読まずに、一人立つ」など色々訳されているが、意味はともかくとして酸素いらずたちの気概を示す、一種の掛け声のようなものと思えばいいだろう。

 

 ちなみに、終盤に同じような突撃の合図をもう一度アダムスがかけるが*1、その時は勢いに満ち溢れたこの時とは正反対の、落ち着いた響きになっている。比べてみるとアダムスの成長が分かって感慨深い。

 

 

私たち、まだどっこも行ってないじゃないですか。こんな、太陽系の中だけでちまちまやってるから、もう終わりだなんて考えになるんですよ!(ジニ・ワギ、p230)

 ノイジーラント大主教国エスレル会派の本拠地、小惑星セナーセー。アダムスたちに同行して足を踏み入れたセアキ・ジュノは、エスレルの掌砲長ゼルムスからノイジーラントの歴史とその奇矯な実態を教授される。

 

 独自の宗教を掲げる小惑星国家としての独立、国是としての同性婚の推奨、そして「酸素いらず」化と傭兵国家としての成長。ゼルムスは、太陽系社会の安定化と共にいずれノイジーラントは衰退していくという見通しを示して話を締めくくるが、そこにエスレルの乗組員ジニが割って入り、冒頭のセリフを吐く。

 

 ジニはこの後、宇宙海賊エルゴゾーンの首領イシスの策略で冥王斑に感染し、命を落とす。しかし、ノイジーラントの新たな活路として恒星間移民を掲げたジニの遺志は受け継がれ、アダムスはこの後、系外恒星探査計画を立ち上げる。そして200年後、この計画は「Ⅵ 宿怨」に登場する「ジニ号計画」として形になったのだった。

 

 

しかしわれわれは海賊的ではあっても海賊ではない。(カレン・ミクマック、p359)

 イシスは冥王斑ウイルスを使ってエスレルを攻撃し、アダムスたちは窮地に陥る。アダムスは人質として単身イシスの元に赴き、致命傷を負いながらもジュノやフェオドールの活躍でイシスを倒すことに成功した。

 

 回復の床にあるアダムスを、恋人であるエスレルの副長ミクマックが見舞う。ミクマックは、イシスが法や権威に背いて自分たちの側に寝返るようにアダムスを誘惑したことを知り、アダムスを諭す。ルッゾツー・ウィースタンの聖句を掲げ、法や権威に縛られないで行動する酸素いらずと、海賊を分けるものは一体何か?

 

 その答えを告げないままミクマックはセナーセーに帰り、イシスのクローンの核攻撃に巻き込まれて命を落としてしまった。しかしアダムスは、後に思わぬ人物からその答えを教えられることになる。

 

 

どうして自分がそんな目に遭うのかって、呪わしいでしょう。人も神も何もかも遠ざけたくなるでしょう。(グレア・アイザワ、p384)

 セナーセーへの核攻撃で伴侶を失い、主教の座も剥奪されて失意に沈むアダムスの元に、救世群の女議長グレアが現れる。旗艦エスレルが冥王斑に汚染されたこともあり、行く先々で避けられるようになったアダムス。彼が救世群と同じ境地に墜ちたことをグレアは喜び、冒頭のセリフを言うのだった。

 

 「誰が」ずい、とアダムスのそばに影が立ち上がった。(中略)「やめるか、こんなに気味のいいこと」アダムスはシーツを蹴って後ずさろうとする。相手は心から嬉しそうに涼しげな笑いを漏らす。「それが私の境地。救世群の境地。囲まれて奪われて突き落とされ叩かれる。苦しくて、痛くて、息もできないでしょう」

 

 華麗な装いで太陽系を股にかける「酸素いらず」の艦長だったアダムスは、エスレルの沈没という挫折を経て、生まれついて差別される救世群の境遇を本当に理解したのだった。

 

 

重要よ、知らないことを知るというのはね。それが無意味であればあるほどいい。意味を求めると濁るから。(デイム・グレーテル、p424)

 主教座を剥奪されても外地に留まるアダムスの元に、ノイジーラントの国家元首、デイム・グレーテルがやってくる。121歳もの高齢で、何も分からない老人かと思われていたデイム・グレーテルは、アダムスを焚きつけエスレルの船外で壮絶な戦いを繰り広げる。彼女こそ、かつてエスレルを操りイシスと戦った張本人だったのだ。

 

 勝利したアダムスに、デイム・グレーテルはこの言葉を告げる。空気を読まずに独自の理念で動くが、その行動の根底には「未知への愛」があるのが「酸素いらず」である。これこそ海賊と酸素いらずの最大の違いだと、デイム・グレーテルは言う。そしてそれは、ミクマックがアダムスに遺した問いの答えでもあった。

 

 立ち直ったアダムスは、再びエスレルの指揮権を授けられる。そして、イシスとの決着をつけ、救世群の暴走を止めるために木星近傍を漂う宇宙遺跡ドロテア・ワットへ向かうのだった。

 

 

カタログをお送りします。あなた方の羊がお健やかになりますように。(ダダーのノルルスカイン、p552)

 グレア・アイザワを操りドロテアを起動するミスチフの企みは、フェオドールの活躍で阻止された。しかし、ミスチフの、そしてオムニフロラの手が太陽系にも伸びてきていることを知ったノルルスカインは、「太陽系クラウドが壊滅的な打撃を喰らっても生き延び」ることが出来るように、対策を打つ。

 

 その対策こそが、人類の次に太陽系に広く普及している生体リソースである羊をハードウェアとして活用することだった。ノルルスカインはガルトヘッピゲン会派の老人とコンタクトをとり、遺伝子損傷を防ぐという名目で羊に機械を埋め込むことを提案し、このセリフを言う。

 

 「生物なのに生まれつき体の中に機械が埋まっている」「電波を発する」など、「Ⅰ メニー・メニー・シープ」の時点から何かがおかしかった「天冥の標」世界の羊たち。その謎が解き明かされる、記念すべきセリフである。

 

次回:【Ⅳ 機械じかけの子息たち】篇

前回:【Ⅱ 救世群】篇 

 

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*1:p463