ひつじ図書協会

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オーシャンズ×ミッションインポッシブル 「量子魔術師」(デレク・クンスケン)

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 「量子魔術師」(原題:The Quantum Magician)はデレク・クンスケンの2018年の作品。ワームホールを巡って「オーシャンズ」さながらのチームが活躍する、SFの「ミッションインポッシブル」です。 

作品情報

 「量子魔術師」(原題:The Quantum Magician)はカナダ人作家デレク・クンスケンの2018年の作品。日本ではまだ出版はされてないが、2作目、3作目もでており「The Quantum Evolution」というシリーズになっている。

あらすじ

  「世界軸」と呼ばれるワームホール・ネットワークを利用し、人類が遥か彼方の星系まで拡散した未来の世界。遺伝子操作で並外れた知能を得た種族「ホモ・クアントゥス」の一員である主人公ベリサリウス・アルホーナのもとに、ある依頼が舞い込む。

 

 依頼内容は、厳重に警備されたワームホール「パペット軸」を12隻の戦闘艦で突破すること。依頼主たちが持つオーバーテクノロジーの秘密を探りだしたベリサリウスは、ある目的を果たすために依頼を受けることを決める。

 

 宇宙戦闘機のGに耐えられる「ホモ・エリダヌス」、「ヌーメン」と呼ばれる創造主を崇拝する「ホモ・プーパ」、並外れた知能を持つ「ホモ・クァントゥス」ら異色のメンバーからなるチームをベリサリウスは結成するが…。

 

 

「オーシャンズ風ミッションインポッシブル」

 詐欺師などが主人公で、騙し騙されたりの展開が繰り広げられる話を、俗に「コンゲーム」ものと言います。「オーシャンズ」みたいな話、といえば分かりやすいでしょうか。

 

 「量子魔術師」は詐欺師が主人公で、尖ったメンバーでチームを結成して騙しの計画を実行するところが確かにコンゲームらしくはあります。とはいえ、肝心の詐欺計画に穴があったり、最後はゴリ押しで突破するようなところもありで、「騙し騙され」という感じはありません。

 

 どちらかというと、本作は「オーシャンズ」風の尖ったチームが繰り広げる「ミッションインポッシブル」だと思います。実際、二作目からは「騙し」の要素はほとんどなくなりますし。

 

真価は世界観にあり

 それでは本作の魅力はどこにあるのかと言えば、ずばり作り込まれた世界観にあります。「ホモ・クアントゥス」「ホモ・プーパ」「ホモ・エリダヌス」という3つの人類の亜種、半分人間で半分機械の諜報員など、登場人物の設定が非常に手が込んでおり、「知性には様々なあり方がある」というSFならではのメッセージが伝わってきます。

 

 登場する国家も、「サブ=サハラ同盟」「アングロ=スパニッシュ金権国」「パペット神政国家連盟」「金星コングリゲート」のように名前を聞くだけでも魅力的なプレーヤーたちが勢ぞろいです。

 

 設定や世界観についてはこちらの記事で詳しく解説していますが、正直「量子魔術師」はシリーズの世界観を一通り解説するための一種の前フリだと私は思っています。二作目からはこれらの設定を生かしてどんどん物語が進んでいきます。

 

続編「The Quantum Garden」

 本作は「The Quantum Evolution」というシリーズの一作目です。現在三作目の「The Quantum War」まで出ていますが、残念ながら日本語訳されているのは「量子魔術師」だけです。

 

 とはいえ、続編の「The Quantum Garden」は「量子魔術師」を超えた完成度なので、気になった方はkindleで英語版を買って読むか、こちらの記事へどうぞ。「闇のバックトゥザフューチャー」と言われたり、「TENET」のような展開もあるような盛りだくさんの作品です。