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「量子魔術師」はここまで進んでいる!シリーズ最新作「The Quantum War」紹介

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 「The Quantum War」はデレク・クンスケンの「Quantum Evolution」シリーズの三作目。シリーズ一作目「The Quantum Magician」は「量子魔術師」として日本語にも翻訳されている。

 

 ※「量子魔術師」のネタバレを含みます。

シリーズのあらすじ

 天才詐欺師として名を馳せるベリサリウス・アルホーナ。彼は遺伝子操作で高い知能を獲得した種族「ホモ・クアントゥス」だった。そんな彼の元に弱小国家のサブ=サハラ同盟の遠征部隊から依頼が舞い込む。

 

 依頼内容は、パペット神政国家連盟が所有するワームホール「パペット軸」を12隻の戦闘艦に突破させるというもの。報酬は遠征部隊が開発した革新的な推進機構「インフラトン・ドライブ」のサンプルだった。

 

 依頼を受けたベリサリウスは、遺伝子操作を施された3つの種族、狂った高性能AIなどからなる異色のメンバーを集める。ベリサリウスの秘策とは、そして未知のテクノロジーを持つ遠征部隊の秘密とは?(「量子魔術師」

 

 パペット軸突破作戦を成功させ、遠征部隊をも出し抜いたベリサリウス。しかし、作戦の成功が原因で大国「金星コングリゲート」はホモ・クアントゥスを脅威と認め、彼らの故郷「ギャレット」を核攻撃で星ごと破壊する。

 

 一方、パペット軸を突破して故郷に帰還した遠征部隊を迎え、サブ=サハラ同盟は宗主国コングリゲートへの反乱を起こした。インフラトン・ドライブという強力な武器を生かし善戦するが、コングリゲートの圧倒的物量の前に次第に追い詰められていく。

 

 共に窮地に立たされたベリサリウスとサブ=サハラ同盟。両者は再び手を組み、事態を打開する鍵を手に入れるため過去へと向かう。しかし、その背後にはコングリゲートの恐るべき半機械の諜報員「スケアクロウ」が迫っていた。(「The Quantum Garden」

 

 ホモ・クアントゥスの安住の地を見つけたベリサリウスのもとを、かつての仲間スティルスが訪ねてくる。コングリゲートとサブ=サハラ同盟の戦線で異常が起こったという。

 

 コングリゲートはベリサリウスの仲間だった遺伝学者デル=カサルを誘拐し、ホモ・クアントゥスの研究を進めさせていた。そして、彼の研究成果を利用して、捕虜にしたホモ・クアントゥスを兵器化して戦線に投入してきたのだ。

 

 暴走するコングリゲートを止めるため、パペット神政国家連盟とアングロ=スパニッシュ金権国は、過去の因縁を精算してサブ=サハラ同盟に協力を申し出る。同胞たちを救うため、再び依頼を受けたベリサリウスはコングリゲートの本拠地金星へ向かう。

 

 ベリサリウスは今度こそホモ・クアントゥスに安寧をもたらせるか、そしてサブ=サハラ同盟の反乱の行方は?(「The Quantum War」)

 

「量子魔術師」のプレーヤーたちが再集合

 ベリサリウス、カサンドラ、セント・マシュー、スティルス。「量子魔術師」でベリサリウスが集めたチームメンバーのうち、「The Quantum Garden」で再登場を果たしたのはこの4人だけでした。

 

 「The Quantum War」ではデル=カサルとゲイツ=15、そして爆弾姐さんことマリーが再登場し、死亡したウィリアムを除く「量子魔術師」のチームメンバーがふたたび一堂に会します。

 

 一堂に会するのはベリサリウスのチームメンバーだけではありません。パペット神政国家連盟は新しいヌーメンを作り出せるデル=カサルを取り戻すために、そしてアングロ=スパニッシュ金権国はコングリゲートの一強化を防ぐためにサブ=サハラ同盟と一時的に手を組み、作戦をバックアップします。

 

 これまで登場したプレイヤーたちが勢ぞろいして、新たな脅威に立ち向かうという展開がシンプルに熱いです。

 

明かされる金星コングリゲートの内実

 コングリゲートが完全な悪者になる本作ですが、スケアクロウの副官の目から彼らのひっ迫した内情も描かれます。コングリゲートが遺伝子操作を嫌うことや、ホモ・クアントゥスを滅ぼそうとするのにもっともな理由があることが分かるため、「悪の大国コングリゲートをフルボッコにする」という安直な構図を避けられています。

 

 ちなみにコングリゲートの設定に関しては別作品「The House of Styx」がベースになっているようですが、私はまだ読んでないのでよくわかりません。障害をもって生まれた子供を「petit saint」として大切に扱ったり、血縁主義に凝り固まったような体制だったり、色々面白そうなんですけどね。

 

続編もある、多分

 タイトルに「War」とあるように、コングリゲートとサブ=サハラ同盟の戦争は作中で佳境を迎え、結末では一つの区切りがつきます。とはいえ、まだ続編が出る可能性はあると思います。

 

 ロザリー=ジョンズ=10(「量子魔術師」の冒頭の一幕でベリサリウスに協力したパペット)が見る謎の夢の正体や、インディアン座イプシロン星系のスケアクロウを始めとするワームホールの中に消えた者たちの行方など、まだまだ未回収の伏線はあります。

 

 作者は「量子魔術師」の後書きで「三部作にするとなんかいい感じだよね」みたいなことを言っていますが、四作目のあることを期待したいですね。

 
シリーズを通しての設定の解説はこちらから

www.bookreview-of-sheep.com