ひつじ図書協会

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オタク「たち」による宇宙開拓記「われらはレギオン」デニス・E・テイラー

「名はレギオン。大勢だから」

 マルコによる福音書、第五章。イエスの前に現れた悪霊に取りつかれた男は、名を尋ねられてこう答える。

 

 我らが主人公、ボブも大勢いる。もとは1人だった。1人のSFオタクだった。そして増えた。複製人(レプリカント)となって。

 

 SFオタクのボブはある日、交通事故に遭って命を落とす。しかし、奇跡的に無傷だったボブの頭脳は、彼の遺言通りにコールドスリープによって未来に送られた。

 

 そして、未来の世界でボブは知らぬ間にAI探査機の頭脳として選出され、あれよあれよという間に不死のAI「レプリカント」として宇宙へ飛び出すことになる。

 

 目星を付けた星系に行って惑星探査を行い、資源を集めて自分自身のコピーを作ってまた別の星系へ向かって…を繰り返しながら、居住可能惑星を探すのが本来の役目のはずだった。

 

レプリカントは忙しい。

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 実際には、滅亡しかけの人類の世話を焼いたり、他国が作り出したレプリカントと戦ったり、異星文明をこっそり手助けしたり、惑星のテラフォーミングをしたり、「アザーズ」という凶悪な敵を防いだり…などなど追加の任務が続々と出てくる。

 

 ボブは自分のコピー(オリジナルと完全に同じではなく、人格は違う存在になる)と共に、おおわらわで任務にあたる。

 

 ボブたちに課せられた使命は軽いものではない。核の冬を迎えた地球から、何千万人もの人類を救いださねばならない。我儘ばっかり言う人類にブチ切れたり、他国のレプリカントとの戦いで命を落としたり、ボブたちは何度もつらい目に遭う。

 

 でもそんな状況でも、ボブたちはジョークを飛ばしあうことを忘れない。任務の暇を見つけては、趣味として人型アンドロイドを開発したり、超光速通信技術を開発したり、時には人と恋に落ちたりと充実した生活を送る。そんなボブたちを見ていると、なんだか元気が湧いてくる。

 

ドラクエ3のような楽しさ

 数が増えたボブたちは、「ボブネット」を構築する。これはボブの最初のコピーの1人、ビルが開発した超光速通信技術「SCUT」を使ったネットワーク。SCUTを使えば、25光年以内なら遅滞なく即時の通信ができる。つまり、ボブたちが拠点を築いた各星系にルーターとしてSCUTを設置することで、全てのボブたちを遅滞なく繋ぐネットワークが完成するのだ。

 

 ビルはボブたちが各星系に散らばっていったあとでSCUTを開発したので、通常の通信手段でそれぞれのボブにSCUTの設計図を送り、現地のボブが装置を組み立てることで徐々に各ボブがボブネットに組み込まれていく。

 

 こうやってボブネットが広がっていく様子が、ゲーム「ドラゴンクエスト」で例えるなら、新しい町がルーラ*1に登録されていくのを見るようですごくワクワクする。

 

分別のあるオタク

 SFオタクたるボブは、事あるごとにSFネタをぶっこんでくる。基本的に、何かに名前を付ける時は大抵SFの登場人物の名前が使われると思っていい。

 

 「スター・トレック」や「スター・ウォーズ」は言わずもがな、「DUNE/砂の惑星」、「2001年宇宙の旅」、「All you need is kill」のような名作を始め、日本語圏では馴染みが薄いSF作品のネタでもお構いなしにぶっこんでくる。

 

 元ネタが分からないと、「オタクくんさぁ…」とちょっと呆れること必定。実際私もそうなった。

 

 とはいえ、多分自分が同じ境遇に置かれたらボブと同じことをするだろうなぁ、という自覚はある。だから、まぁいいか。いずれにせよ、ボブの初代のコピー、ライナスがインディアン座イプシロン星系に到着するシーンで「量子魔術師じゃん!」と興奮してしまった自分には、ボブのSFネタを責める資格はない。

 

 それに、ボブはちゃんと現実とフィクションを区別できている。滅亡しかけの異星人「デルタ人」を発見して、彼らに干渉するかどうかをボブたちが議論するシーン。議論の中で、「スター・トレック」シリーズの、異星文明には干渉しないという原則「最優先指令」が持ち出されるが、ボブは激しく反対してこのような皮肉を返す。

 

百年後にやってきた人たちに、ぼくたちが見つけた唯一の知性を持つ種族はあなたたちが来る一世紀ちょっと前に滅んだと説明するとき、それはぼくたちがテレビドラマの架空の規則を遵守したからだと伝えたなら、その人たちはきっと納得してくれるだろうな。

 

 結局ボブたちはデルタ人を保護することを決める。いずれにせよ、このセリフ一つをとっても、ボブは作品に入れ込むあまりフィクションと現実の区別がつかなくなるようなことはない、分別をわきまえた人間だということが分かる。

 

最後に

 ボブたちは果たして人類を救うことが出来るのか。そして、行く先々の資源を食い尽くす凶悪な敵「アザーズ」との決着は、ボブの恋の行方は?盛りだくさんな内容を含んだ三部作を、是非楽しんでほしい。

 

 現在、英語圏では三部作の途中で消息を断ったルークにまつわる4作目も出ているらしいので、翻訳を楽しみに待ちたいと思う。

 

追記:4作目「驚異のシリンダー世界」が、4/5から発売されました。やったぜ。感想は下の記事からどうぞ。

 

www.bookreview-of-sheep.com

 

 

 …それにしても、「レギオン」とか「レプリカント」とくると、どうしても「ニーア レプリカント」を思い出してしまう…。

 

*1:瞬間移動魔法。いったん登録した町なら、ルーラを唱えればすぐに訪れることが出来る