池井戸潤の2020年の作品。テレビドラマでお馴染みの「半沢直樹」シリーズの5作目。第一作「オレたちバブル入行組」の前日譚。
「アルルカンと道化師」あらすじ
東京中央銀行大阪西支店で融資課長を務める半沢直樹に、M&A仲介が依頼される。ターゲットの仙波工藝社は美術系の出版社で、出版不況に苦しめられてはいるが会社の売却に至るほど経営はひっ迫していない。また買い手は半沢にも知らされておらず、不自然に良い買収条件も相まって、半沢は支店長がごり押しするM&Aに疑念を抱く。
社長の仙波友之と協力して裏を探るうちに、「アルルカンと道化師」というモチーフを描き一世を風靡した天才画家「仁科譲」の作品が不審なM&Aと深く関わっていることが明らかになっていく。「アルルカンと道化師」の誕生の秘密とは、そしてM&Aの裏に隠された半沢の宿敵宝田の思惑とは。
タイトルについて
アルルカンとは、ピエロとともに伝統的なイタリア喜劇に登場する人気のキャラクターである。ずる賢いアルルカンと純粋なピエロとの対比は、画家たちが好んで取り上げるテーマのひとつになっている。(p17)
本作のタイトルの由来は、作中の仁科譲という画家が独特のタッチで描き人気を博した「アルルカンとピエロ」というモチーフだ。
「道化師」はともかく「アルルカン」は聞き慣れない。が、「アルルカン arlequin」を英語読みにすると「ハーレクイン harlequin」になるので、「アルルカンと道化師」という対比は「ハーレクインとピエロ」とも言い換えられる。
見慣れないように見えて、実は「バットマン」のハーレイ・クインとジョーカー*1のコンビのように身近なモチーフが元ネタになっている、にやりとさせられるタイトルだ。
はじめてでも楽しめる一作
「実直な取引先と半沢直樹」vs「出世のことしか考えていない銀行内部の有力者」というお決まりの構図は健在。しかし今回は謎の自死を遂げた画家仁科譲の代表作「アルルカンと道化師」の由来を探るという謎解き要素が加わり、定番の勧善懲悪の展開とあわせて一粒で二度おいしい。
実は筆者は「半沢直樹」シリーズを読むのはまだこれで二作目だ。ドラマ化もされた人気タイトルということもあり、「オレたちバブル入行組」だけ読んで逆張り精神で敬遠していたのだが、何気なく手に取ってみたら一気に読み切ってしまった。始めて小説版の半沢直樹を読むという人でも楽しめる内容になっているので、ぜひ手に取ってみて欲しい。
*1:ピエロのような風体をしたバットマンの敵役。筆者にとってはクリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」のジョーカーが一番なじみが深い。これはヒース・レジャーの怪演が印象的だったのもあるが、嘘字幕シリーズで見慣れてしまったせいでもある。