ひつじ図書館

本と映画の感想ブログです。SFおおめ、恋愛すくなめ。

バーティミアス(ジョナサン・ストラウド)

本をリレー形式で繋げて紹介する「読書リレー」企画。第23回の今回は、孤独な少年魔術師が権力と良心の間を揺れ動く物語「バーティミアス」(ジョナサン・ストラウド)を紹介します。

 

前回の「ゲド戦記」の記事はこちらから

www.bookreview-of-sheep.com

 

「バーティミアス」とは

「サマルカンドの秘宝」「ゴーレムの眼」「プトレマイオスの門」の三部作からなるファンタジー作品。魔術師たちが支配する大英帝国を舞台に、魔術師見習の主人公ナサニエルが悪魔のバーティミアスを相棒にして様々な事件に立ち向かっていくというストーリー。

 

近代的な生活の中に魔法が織り込まれている世界観、魔法使い見習の子供が主人公なこと、イギリスが舞台になっていることなど「ハリー・ポッター」と似ている点が結構ありますが、違いははっきりとあります。

 

ハリポタとの違い

魔術師は悪魔を使う

ハリポタだと魔法使いたちは自分自身の魔法力を使って魔法をかけます。魔法力を持たない人は「マグル」と呼ばれ、魔法を使うことはできません。

 

一方「バーティミアス」では魔法を使うのに特別な才能は要りません。一般人と魔術師の大きな違いは、悪魔を召喚するための技術と知識を持っているかどうかです。魔術師自身も多少は魔法を使うことは出来ますが、悪魔たちの使う魔法にはとても及びません。

 

つまり魔法の使い方の点で、ハリポタは「自分自身の魔法力を使う」、バーティミアスは「強大な力を持つ悪魔の力を借りる」という違いがあります。

 

主人公に友達がいない

ハリーは友達がたくさん、ナサニエルには友達がいない。これが大きな違いの一つです。ハリポタの世界だと魔法使いの育成は結構オープンに行われていて、ホグワーツ魔法魔術学校でみんなでワイワイ勉強しながら魔法使いの卵たちは一人前を目指します。

 

一方のバーティミアスの世界では、魔術師の世界は閉鎖的。魔術師たちは一般人に召喚の技術を漏らさないために、弟子と師匠の一対一で、小さい頃からみっちりと教育します。だから、ハリーにロンやハーマイオニーを始めとする友達がたくさんできる一方で、ナサニエルはずーっと孤独なままです。

 

魔術師が一般人を虐げている

もう一つの大きな違いが、「バーティミアス」では魔術師が一般人を虐げていること。ハリポタの世界では、魔法使いは魔法を使えない人々=マグルから身を隠しており、基本的には魔法使いはマグルに関わりません(例外もいますが)

 

一方「バーティミアス」の世界では魔術師たちは召喚した悪魔たちの力を使ってがっちり一般人を支配しています。政府の要職は魔術師が独占し、悪魔の存在を知らない一般人を虐げて、魔術師たちは贅沢ざんまい。

 

「ハリポタ」だと魔法力がある人はそこそこいて、いわば魔法使いはパンピーです。一方で、「バーティミアス」の魔術師は小さい頃から英才教育を受けた超エリート。

 

この辺の「魔法使い/魔術師の社会的立場」の違いが、ハリーとナサニエルの違いによく表れています。

 

主人公の魅力

ハリーは基本的に「いい子」でしたが、ナサニエルは違います。ナサニエルは友達がいなくて、出世欲が強くて、高慢で、バーティミアスに助けてもらって何とかやっているようなキャラクターです。

 

しかし、友達いなくて学校では本ばっかり読んでいて放課後は中学受験の塾で勉強漬けだった小学生の私は、ナサニエルにはハリー以上に共感できました。クラスの輪の中に入らないような子供にとって、とても感情移入しやすい主人公だと思います。

 

あと、もう一つのナサニエルの魅力が、「悪人になりきれない」ところ。

 

「バーティミアス」の世界だと、魔術師は一般人を虫けらみたいに扱って同僚の魔術師をハメて出世していくもの、みたいな風潮があります。ナサニエルもそんな風潮にどっぷり染まり、時には「正義のヒーロー」と言えないような行動をします。

 

しかし、それでも時に良心の呵責に苦しめられて、悪人になり切れないところがナサニエルにはあります。

 

そうやって出世欲と良心の間で揺れ動くヤツだからこそ、第三部「プトレマイオスの門」のラストで人々を救おうと決断して体を張るナサニエルはかっこいいです。正義の味方の象徴みたいなハリーが人を救おうとしても、ここまで感動しないでしょう。

 

 

バーティミアスの魅力

ナサニエルの相棒の悪魔バーティミアスも魅力的なキャラクターです。ひとことで言えば「お調子者」で、彼の軽口は本文に大量に付けられた注でたっぷり楽しむことが出来ます。

 

この注が、結構ユーモアに富んでいて面白いのです。悪魔のレベルの話や魔法の説明などの注らしい注もありますが、ほとんどは彼流のジョークや武勇伝。この注を読むのも「バーティミアス」の楽しみの一つです。

 

「バーティミアス」シリーズの外伝作品である「ソロモンの指輪」でも彼の注は健在で、むしろ切れ味が増しています。

 

では、性格は置いておいて能力はどうかと言うと、イマイチパッとしません。悪魔の階層でいえばバーティミアスは中級クラスの「ジン」で、それなりに年齢も重ねているベテランのはずなのですが…

 

実力はベテラン級でも、作中では自分より上位の悪魔と戦うハメになったり、低レベルの悪魔との戦いでもドジってひどい目に遭ったりと、中々いいところを見せられません。

 

つまり、ナサニエルと同じくバーティミアスも完璧とは程遠いキャラクターです。中堅どころの実力はあるけれど、自分よりも強い敵の前ではどうしようもない。そんな不完全な二人がタッグを組んで、不可能を可能にしていく。「バーティミアス」はそんな物語です。

 

次回予告

「ハリー・ポッター」と散々比較しながら「バーティミアス」について語ってきたので、次回は「ハリー・ポッター」を紹介します。今の若い世代の多くが子供の頃にハマった作品だと思いますが、読み返すと緻密な伏線に驚かされるシリーズです。

 

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