私sheep2015が読み散らかした本を、テーマ別に紹介する企画第三弾。今回は「猫」をテーマに6つの小説とエッセイを紹介していきます。
!注意!
最後の2作品は、猫好きにはトラウマになりかねないので気を付けて読んでください。
猫にかまけて
ココア、ゲンゾー、ヘッケ、奈々。奔放な4匹の猫たちに翻弄される作者町田康の毎日を、軽妙な語り口で描いた名エッセイ。
面白いのが、猫たちの考えていることを作者が「翻訳」するところ。例えば、作者が原稿を書いていて構ってくれないのをココアが抗議しているとき、彼女の声を「翻訳」するとこうなります。
まーた。訳の分からぬアホーな原稿などというものを書いている。そのような無意味なことはいい加減やめて、早くわたしを膝にのせたらどうなの?というか、いったいわたしはいつまでこうやって膝に乗せろといちいち言わなければならないのかしら?(以下略)
面白おかしい「翻訳」の他にも、猫たちの奇行に「急降下爆撃」「時計の水漬け」等ユニークな名前をつけるなどセンスが光ります。安易に猫の「かわいさ」を描いて読者に媚びようとしないところが個人的には好きです。
猫との生活をユーモアたっぷりに描く一方で、生き物を飼う上で避けることが出来ない「ペットの死」も作者は隠さずに描いています。面白い面も、悲しい面もあわせて「猫と暮らすことのリアル」が伝わってくる名エッセイです。
吾輩は猫である
「猫」と「小説」と言えば、まず頭に浮かぶ作品。猫の視点から見た人間を描いた夏目漱石のデビュー作で、俳句雑誌「ホトトギス」に1905~06年にかけて連載されました。
大部分が人間たちの話なので、猫要素は過度に期待しない方がいいかも。肩の力を抜いて、猫が描き出す登場人物の俗物っぷりを楽しみましょう。
とはいえ、俗っぽい話ばかりかと思いきや、見かけると思わず首を吊りたくなってしまうという松の木についてのエピソード「首懸の松」のようにちょっと怖い話も登場します。
青空文庫で無料で読めるので、移動時間などを使って少しずつ読んでいくのも乙なものではないでしょうか。
ルドルフとイッパイアッテナ
「ルドルフ」という名前の猫の手記を作者の斉藤洋が代理で本にした、という体裁の児童文学作品。
飼い主の女の子と幸せな毎日を送っていた黒猫のルドルフは、ある日うっかり長距離トラックに乗って見知らぬ町へ連れてこられてしまいます。途方に暮れるルドルフの前にあらわれた野良猫は、こう名乗ります。「俺の名前は、いっぱいあってな…」
とりあえず野良猫を「イッパイアッテナ」と呼ぶことにしたルドルフ(おいおい)。彼から文字の読み書きとネコとしての生き様を学びながら、次第に新しい町に馴染んでいき、新しい友達もできます。
同じ猫目線で書かれた小説でも、ルドルフが文字を学んで成長するのが「吾輩は猫である」とは違うところです。
ブチ猫のブッチーに邪魔されながらも公園の砂場で何度も文字の練習をして、ルドルフは本を読めるようになるまで成長します。そしてそのおかげで、故郷へ帰る方法を見つけます。
しかし故郷へ帰る前の晩、イッパイアッテナにある事件が起こり…。
夏への扉
海外SFの名作として名高い、ロバート・A・ハインラインの作品。
エンジニアとしては一流だけど、会社経営には疎く、相棒に裏切られて会社を追い出されてしまった主人公。彼は愛猫のピートと一緒に冷凍睡眠で未来の世界に行こうと企てます。
冷凍睡眠サービス会社に頼み込み、首尾よく一人と一匹分の契約を締結。しかし、眠りにつく前夜に起こったトラブルのせいでピートと離れ離れになってしまいます。
主人公が会社を追い出されるまでのくだりが、法律用語も出てきたりで妙に現実的。ザ・「狡猾なホワイトカラーに騙される技術屋」という感じで不憫です。
未来の世界でも、エンジニアとしての才覚を生かして何とかやっていく主人公。しかしある日、冷凍睡眠前に自分が温めていたアイディアに基づく発明品を見つけ、特許の名義を調べてみる。するとそこには、思いがけない名前が…
ちょっとご都合主義的な展開もありますが、読んだ後に爽やかな気分になれる作品です。最後には猫のピートの行方もわかるので猫好きにも安心。
番外編:パジャマとゆりかご
英語には、「cat's pajamas(猫のパジャマ)」「cat's cradle(猫のゆりかご)」というイディオムがあるのをご存じですか?それぞれ「とびきりのもの」「あやとり」という意味だそうです。
面白いことに、この2つのイディオムはそのまま小説のタイトルにもなっています。
「猫のゆりかご」はカート・ヴォネガット・ジュニアの出世作となったSF小説。「ボコノン教」なる不思議な宗教と、世界の終わりについてのシニカルな小説です。猫は登場しません…
「猫のパジャマ」は、レイ・ブラッドベリの短編。路上に放置されていた野良猫をきっかけに出会った、ある男女のお話です。猫はちゃんと登場します。
それでは、幕間も終わったところでホラーばかりの後半戦にいきましょう。冒頭にも言ましたが、猫好きのトラウマになりそうな小説ばかりなのでご注意を。
黒猫
怪奇小説作家エドガー・アラン・ポーの短編。
温厚で動物好きな主人公は、色々な生き物を飼っています。中でもお気に入りは黒猫のプルート。しかし、酒のせいで主人公は動物たちをいじめるようになり、ついにはプルートをも手にかけてしまいます。
主人公の性格が変わったきっかけは酒ですが、「やってはいけないというだけで、やってしまいたくなる」という恐ろしい天邪鬼も原因の一つだと作中では語られます。とはいえ、プルートを虐待するシーンはかなりえぐく、胸が痛くなります。
しばらくして、主人公はプルートに似た猫を酒場で見つけ、家に連れて帰ります。しばらくはその猫を可愛がる主人公でしたが、次第に猫の胸の斑点が、あるものの形に変わっていき…
ラストシーンがとにかく怖いです。小学生の頃に読んでトラウマになりましたが、同時にエドガー・アラン・ポーにハマるきっかけにもなったのでおすすめの一作です。猫好きにはすすめるのは躊躇われますが。
ペット・セマタリー
「IT」や「シャイニング」のスティーブン・キングのホラー小説。
ルイス一家が引っ越してきたのは、メイン州はラドロワ。家の目の前にはトラックが行きかう危険な道路が通っていましたが、親切な隣人ジャドにも恵まれ幸せな日々を送る一家。しかし、ある日飼い猫のチャーチがトラックに跳ねられてしまいます。
チャーチの死を娘にどう説明するか、途方に暮れるルイスにジャドが声をかけます。裏庭から続く小道の先にある、道路で死んだペットのための霊園「ペット・セマタリー」。その奥に、ある秘密の場所があるとジャドは言うのですが…
ペットや親しい人が死んだとき、もしも生き返らせることができたらどんなにいいか、と誰もが思います。その思いが、「ペット・セマタリー」では恐ろしい結果を招きます。
色々と怖いものが登場する本作ですが、「死」を頑なに拒絶してヒステリーを起こすルイスの妻が個人的には一番怖いです。死を直視するのは怖いが、さもなければもっと怖いことが起こるぞ、と警告するかのような小説です。
最後に
というわけで、「猫」をテーマに5つの小説と1つのエッセイを紹介しました。
犬と違い、猫は独立志向が強いと言われます。だからこそ、「夏への扉」のピートや、今回は紹介できませんでしたが「不思議の国のアリス」のチェシャ猫のように、猫は読者の記憶に残ることが多いのではないかな…と思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。他にもいろいろなテーマ別に小説を紹介しているので、よろしければどうぞ。