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映画「デューン/砂の惑星」解説:原作小説をもとに、10の疑問に答えます。

 映画「デューン/砂の惑星」を始めてみた人が疑問に思っただろうことを、フランク・ハーバードの原作小説をベースに解説していきます。

 

香料(スパイス、メランジ)ってなんなの?

 「摂取するといろいろすごいことができるようになる物質」です。具体的には、未来予知が出来るようになったり、年をとるのを遅らせたりできます。

 

 メランジが高値で取引されている理由は、上記のような抗老化作用もそうですが、何よりも宇宙を航海するのに必要不可欠な物質だからです。超光速で移動する宇宙船を操縦する航海士*1は、メランジがもたらす予知能力を利用します。具体的には、メランジを大量に摂取して予知した安全な航路へと船を進めるわけです。

 

 メランジの産地は全宇宙の中でも惑星アラキスこと、「デューン」の砂漠のみです。またメランジには摂取し続けると目が青くなるという性質があり、身近にメランジが大量にある環境で生活している原住民フレメンは、みな「イバートの目」と呼ばれる青い目を持ちます。

 

 またメランジには中毒性もあり、目が青くなるまでメランジ中毒が進むと、アラキスを離れて生きることができなくなります。

 

ベネ・ゲセリットってなに?

 冒頭でポールに「ゴム・ジャッバールの試練」を課した「教母」ガイウス・ヘレネ・モヒアムや、ポールの母親ジェシカが所属する勢力です。特殊な教義に従って様々な鍛錬を実行する一種の修道会であり、「クウィサッツ・ハデラック」(後述)を生み出すために帝国の政治の影で暗躍しています。

 

 ベネ・ゲセリットの構成員は単に「ベネ・ゲセリット」と呼ばれたり、あるいは「ベネ・ゲセリットの魔女」と呼ばれます。「魔女」と呼ばれるのは、様々な奇怪な力を身に着けているからです。ジェシカがハルコンネンの兵士を操った「繰り声(からくりごえ)」などがその代表格です。

 

 また、訓練されたベネ・ゲセリットは嘘を見破る力を持つため、「読真術師」という一種の人間噓発見器として活躍します。たとえばガイウス・ヘレネ・モヒアムは皇帝付きの読真術師です。ハルコンネン男爵が直接ポールたちを手にかけなかったのはガイウス・ヘレネ・モヒアムに「お前がポールを殺したのか」と聞かれて、真実を見抜かれるのを恐れたから、というわけです。

 

 ベネ・ゲセリットの能力は、スター・ウォーズシリーズの「フォース」のように映像でみて分かりやすいものではありません。そのため、映画をみるより原作小説を読んだほうがしっくりくると思います。映画ではカットされてしまいましたが、アトレイデス公爵がアラキスで催した晩餐会で、胸に一物抱えた出席者たちの思惑を、ジェシカがベネ・ゲセリット仕込みの「観法」で暴いていくシーンなどは、映画にはない名シーンです。

 

クウィサッツ・ハデラックってなに?

 ベネ・ゲセリットが生み出そうとしている、並外れた力を持った存在のことです。具体的には、「過去、現在、未来すべてのことを見通すことができる」力を持つ人間、「あらゆる場所に、同時に存在できる人間」です…といっても、私自身もどういうものかははっきりとはわかっていないので、「ギルドの航海士よりも、すごい予知能力を持つ人間」くらいに考えておいて大丈夫だと思います。

 

 ベネ・ゲセリットは何世紀も前から特殊な才能を持った人間の遺伝子をかけあわせていくことでクウィサッツ・ハデラックを生み出そうとしています。果たしてポールは、ベネ・ゲセリットが求めた「クウィサッツ・ハデラック」なのかどうか、それは「デューン part2」で明らかになります。

 

なんで撃ち合わないで、ナイフで戦うの?

 一言で答えると、「シールドにレーザーがあたると大爆発するから」です。「デューン」の世界にも「レース銃」*2と呼ばれる、スター・ウォーズでの「ブラスター」のような銃がありますが、レース銃でシールドを撃つと大爆発が起きる仕組みになっているようです。爆発の威力は撃った側にも及ぶようで、共倒れになってしまうわけですね。

 

 また、このレース銃=シールド爆発は場合によっては核爆発にも匹敵する威力を持つため、相手がシールドを使っている場合にはレース銃を使うことができません。ポールがガーニー・ハレックと剣術の訓練をするシーンでは、二人ともシールドを起動して格闘していました。こうなると、レース銃を使って共倒れになるわけにもいかず、ナイフで戦うしかなくなるわけです。

 

 また、ポールが剣術の訓練のシーンで言われていたように、シールドは速度の速いものは弾き、遅いものは通します。だから、速度の調整が利かない弾丸ではなく、ゆっくりとした一撃でシールドを突破してダメージを与えられるナイフを使っているのだと思われます。

 

 そうなると、「アラキス襲撃のシーンで、アトレイデス公爵はシールドを使ってたのに麻酔弾撃ちこまれてたじゃん!あれは何?」という話になりますが、あれは「低初速の麻酔針」だから、シールドを貫通できる、という理屈になっているようです。

 

C-3POみたいな、しゃべるロボットが出てこないのはなんで?

 「デューン」の世界では、かつておこった機械との戦争「バトラーの聖戦」の後、「考える能力を持つ機械」を作ることがタブーになっているからです。そのため、「デューン」にはAI(人工知能)が登場せず、代わりに次に紹介する、計算力と記憶力を特殊な訓練で強化した人間「メンタート」を使っています。

 

 AIが禁じ手になっているから、すべてを人間がやらねばならず、だからこそ人間の能力を拡張するメランジが宇宙で最も貴重な物質になっている、というわけです。

 

スフィル・ハワトが白目剥いていたのはなんで?

 スフィル・ハワト(アトレイデス公爵の側近の、白髪で恰幅のいいおじいちゃん)はアトレイデス家3代に仕える参謀であり、「メンタート」でもあります。メンタートとは、一言でいうと「人間コンピュータ」です。原作では「演算能力者」と表記されることもあります。原作の用語集では「きわめて高度な論理演算ができるように訓練されたものたち」と解説されています。

 

 ハワトが白目を剥いていたのは、自分の頭の中の膨大なメモリを漁るためだったのでしょう。ちなみにアトレイデス家だけでなくハルコンネン家もメンタートを使っており、パイター・ド・フリース(アトレイデス公爵の最後の攻撃に巻き込まれて死んでた人)がハルコンネン方のメンタートです。

 

 貴重なメンタートを失ったハルコンネン男爵は、後任のメンタートとして思いもよらぬ人物を抱き込むのですが…。

 

レディ・ジェシカって何者なの?

 レト・アトレイデス公爵の愛妾にして、ベネ・ゲセリットです。公爵としては正式に結婚することも考えていましたが、他家との政略結婚の可能性を残すためにそれはできなかったようです。ちなみにベネ・ゲセリットは代々の皇帝の妃にもなっています。

 

 ベネ・ゲセリットのクウィサッツ・ハデラック創造計画のために、アトレイデス公爵の娘を生むように命令を受けていましたが、それに背き男児ポールを出産したという過去があります。 

 

ハルコンネン男爵が浮けるのはなんで?

 太りすぎの体を支えるために、重力中和装置を体に埋め込んでいるからです。原作では「浮くような足取りで歩く」と描写されますが、映画での長いローブをたなびかせて浮かび上がる男爵は、より怪物らしさが出ていていいと思います。

 

ポールたちがサンドワームに見つかったのはなんで?

 「砂太鼓」を踏んでしまい、足音がサンドワーム(砂蟲)に感知されてしまったからです。砂蟲は、砂漠を歩く人間の足音を感知すると容赦なく襲い掛かってきます。そのため、フレメンたちは砂漠を歩くときには、不規則なリズムで歩くことで足跡を風などの自然の音に偽装します。   

 

 また、アラキスの砂漠の中には様々な特殊な地形があります。「砂太鼓」もその一つで「砂が特殊な形で押し固められた地形で、表面をたたくと、太鼓のような音が鳴り響くというものです。だから、砂太鼓を踏んでしまったポールたちは砂蟲に音を聞きつけられて見つかったのですね。

 

続編はどうなるの?

 2023年秋ごろに公開される予定でしたが、ハリウッドでのストライキの影響で公開が延期され、2024年3月15日に「デューン 砂の惑星 PART2」として公開されます。ちなみに、監督は最終的には原作小説の2作目「デューン 砂漠の救世主」まで映像化したい、と語っているそうで、PART3まで続く可能性も大だと個人的には思っています。

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 というわけで、映画「デューン/砂の惑星」を始めてみた人が疑問に思っただろう(と私が思ったこと)10の疑問を解説しました。他にもこんな疑問があります、という方がいましたらコメント欄で知らせてください。

 

「DUNE part2」についてはこちらから!

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*1:宇宙での移動は、「航宙ギルド」が牛耳っています。続編「砂漠の救世主」に登場するギルドの航海士は、メランジの摂取のし過ぎで体が変異し、タンクに入れられて移動する半魚人のような姿になっています。

*2:原作では「持続波レーザー射出装置」と解説されています。ちなみに訳注によると、「レース lase」は「レーザー laser」の訳だそうです。