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バックトゥザフューチャー×TENET。【量子魔術師 続編 】「The Quantum Garden」

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 「The Quantum Garden」(デレク・クンスケン,2019年)は、「量子魔術師」(The Quantum Magician)の直接の続編。

 

前作「量子魔術師」についてはこちらから。

前作までのあらすじ

 遺伝子操作で高度な知能を授かった種族ホモ・クアントゥスのベリサリウス・アルホーナはある日、弱小国家「サブ=サハラ同盟」第六遠征部隊に所属するイェカンジカ少佐から極秘の依頼を受ける。

 

 依頼内容は、厳重警戒のワームホール「パペット軸」を12隻の戦闘艦で突破すること。ベリサリウスは依頼をこなすために、人類の亜種たちを集めた異色のチームを結成する。

 

 チーム内に裏切り者も出る中で計画は成功し、第六遠征部隊はパペット軸を突破。さらに彼らは文明世界の最大勢力「金星コングリゲート」が所有するワームホール「フレイジャ軸」を奪い、母国の独立を回復することに成功した。

 

 しかし、依頼をこなしたベリサリウスは、第六遠征部隊を出し抜いて彼らが隠し持っていたタイムゲートを抜け目なく奪っていたのだった。

  

The Quantum Garden あらすじ

 パペット軸の一件で、ホモ・クァントゥスの能力が軍事転用できることが知られてしまった。ホモ・クアントゥスを重大な脅威と認識した金星コングリゲートは、彼らの故郷「ギャレット」に核を撃って星ごと壊滅させる。

 

 ベリサリウスたちはタイムゲートでギャレット壊滅前の時間軸に戻り、ホモ・クァントゥスたちを説得してギャレットを脱出させる。しかし、今まで大国*1の庇護の元で生きてきた彼らには、ギャレット以外の居場所はない。ベリサリウスはホモ・クァントゥスの新たな安住の地を見つけなければならなくなった。

 

  一方、サブ=サハラ同盟はフレイジャ軸でコングリゲートと苛烈な戦いを繰り広げていた。圧倒的な兵力差に加え、コングリゲートは反物質兵器をも戦線に投入してくる。おまけに、同盟政府の中では内輪揉めの兆しも見え始めていた。

 

  パペット軸での快挙から一転、追い詰められたベリサリウスとイェカンジカ。タイムゲートの盗難で対立していた両者は再び手を組む。ホモ・クァントゥスを、そしてサブ=サハラ同盟を救うため、ベリサリウスたちは再びタイムゲートをくぐり、過去へと向かう。

 

 向かうのは39年前。第六遠征部隊がタイムゲートを発見した直後の時間軸だ。

 

第六遠征部隊の成長

 前作を超える面白さです。英語で読む不自由さを感じさせないくらいにワクワクさせてくれる作品でした。

 

 「過去に戻って、現在の自分が成長するのを目撃する」 という「バックトゥザフューチャー」的な王道展開が非常に良いです。前作「量子魔術師」では故郷に帰るために捨て身で敵を蹴散らす姿が印象的だった第六遠征部隊。彼らがどうやって「強キャラ」になっていったのかを掘り下げてくれるのが嬉しいですね。

 

 過去に戻ってからは、色々あってベリサリウスが使えない感じになるので、ある意味本作の主人公はイェカンジカ少佐だと言えるかもしれません。犠牲を払いながらも過去の因縁にけりをつけた彼女こそ、本作で最も成長したキャラクターでしょう。

 

スケアクロウの過去

 前作「量子魔術師」でも登場した、ベリサリウスを追うコングリゲートの諜報員「スケアクロウ」。人間のニューロンをAIと結合し、機械の体に移し替えた半機械の恐るべき諜報員です。何を隠そう、ギャレットの破壊を命じた張本人であり、ベリサリウスの不倶戴天の敵とも言えます。

 

 非人間的な側面が強調されるキャラクターですが、そんな彼が人間だったころの話も「The Quantum Garden」では登場します。一介のコングリゲート市民が、どのように非情な半機械の諜報員へと変わっていったのか。第六遠征部隊の成長と対になるように語られる、彼の過去の物語も見逃せません。

 

見どころ、色々

 「現在の自分を救うために過去に戻る」という「バックトゥザフューチャー」的な筋書きもさることながら、時には時空構造が歪むワームホールの中で「TENET」のような風変わりな戦いを繰り広げるシーンあり、また特殊なファースト・コンタクトもありの見どころ満載の作品です。

 

 翻訳がまだ出ていないため、英語で読むことになるのがちょっとハードルが高いですが、骨折って読む価値は十分にある続編だと思います。現在(2021/12)セール中でめちゃんこ安いので、とりあえずkindleにダウンロードしておいて少しずつ読む、というのも十分アリかと。

 

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*1:アングロ=スパニッシュ第一銀行