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【量子魔術師 解説】The Quantum Evolutionの世界

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 sheep2015です。「量子魔術師」(デレク・クンスケン)を読み終わったけど、もうちょっと掘り下げたいという人向けに「世界観」「種族」「国家」「地理」の4つについて解説していきます。ネタバレ全開です。

 そもそも「量子魔術師」ってなんぞやという方はこちらへどうぞ。

作品情報

 「量子魔術師」(原題:The Quantum Magician)はカナダ人作家デレク・クンスケンの2018年の作品。日本ではまだ出版はされてないが、2作目、3作目もでており「The Quantum Evolution」というシリーズになっている。

 

世界観

「世界軸」ネットワーク

 「量子魔術師」の世界では、宇宙船が自らワームホールを作り出し、それを通ってワープする技術が広まっている。しかし、何百光年もの超長距離を移動するには「先駆者」と呼ばれる謎の存在が残した恒久ワームホール「世界軸」が使われる。世界軸には「パペット軸」「フレイジャ軸」のように「○○軸」という名前が付けられている。

 

パトロン国家とクライアント国家

 パトロン国家とはすなわち、恒久ワームホール=世界軸を所有している国家のこと。何百光年も離れた恒星系を繋ぐ世界軸は重要な交通拠点であり、パトロン国家は世界軸を要塞化し厳重な警備体制をしいている。

 

 パトロン国家の支配下にある「クライアント国家」は、いわばパトロン国家の属国。パトロン国家に先進技術などを献上しなければならない、パトロン国家に内政干渉されるなど様々な制約を受ける。

 

種族

「量子魔術師」では、遺伝子改造された人間の亜種が3種類登場する。

ホモ・クアントゥス

 量子現象を観測するために脳に大幅な改造を施された種族。主人公の「ベリサリウス・アルホーナ」とその元カノ「カサンドラ・メヒア」の二人がホモ・クアントゥスの一員である。パターン認識と数学的処理にかけて高い能力を誇り、これらに異常に高い好奇心を持つように設計されている。

 

 「マグネトソーム」と呼ばれるコイルのような器官を体中に持っていて、磁場を感じとることができる。電流を発生させる器官「電函」も備えており、主に脳に電流を流して後述のサヴァン状態に入るために使用している。

 

    一部の者は「サヴァン状態」に入って脳の処理能力をあげることが出来る。中には、「量子フーガ」に入ることで一時的に意識を持たない生体コンピュータになり、計算能力と量子現象の観測能力を飛躍的に向上させられる者もいる。

 

 元々は、アングロ=スパニッシュ金権国の「ホモ・クアントゥス計画」と呼ばれる研究で作り出された存在。高い数学的処理能力を生かし、銀行の経営判断をサポートするはずだったが、内向的かつ思索的な傾向を備えてしまったため失敗作とみなされた。

 

 作中では4000人ほどのホモ・クアントゥスが「ギャレット」と呼ばれるコロニーをつくり、アングロ=スパニッシュ金権国の庇護のもとで研究生活を送っている。

 

ホモ・プーパ(パペット)

 身長が1m程しかない小型の種族。「ヌーメン」と呼ばれる人種の体臭を嗅ぐと神を前にしたかのような宗教的感動を覚え、ヌーメンから長期間離れていると離脱症状に苦しむように設計されている。ベリサリウスのチームのメンバーだと「ゲイツ=15」がこの種族である。

 

 元々はスタッブス星系の科学者たちが、自分たち=ヌーメンに絶対に逆らわない従順な労働力として作った種族。しかし、遺伝子操作によって生身の人間を神にする彼らの傲慢な試みは早々に失敗した。

 

 「ヌーメンの転落」と呼ばれる出来事を経て、現在では被支配種族であるはずのパペットが、支配種族のヌーメンを監禁するというあべこべの状況になっている。

 

 ヌーメンの数は年々減っており、文明社会からはいずれは滅びる種族として認識されている。

 

ホモ・エリダヌス(モングレル)

 深海で生活する、アザラシのような見た目の種族。高いGに耐えられるため、宇宙戦闘機の特殊パイロットとして働いている。ベリサリウスのチームのメンバー「ヴィンセントスティルス」はこの種族。

 

 酸素を取り込むための大きい口、高い水圧に耐えるための厚い脂肪、顔の両側についた大きな目、そして足がわりの尾という醜い外見をしている。高圧環境を離れると死んでしまうため、宇宙船内では加圧室に入って生活する。電函を用いて電気的な信号でコミュニケーションをとる。

 

 エリダヌス座イプシロン星系の入植者にルーツを持つ。惑星地表が過酷な環境であったため、彼らは惑星の地底海で生き抜くために、やむなく自らの子孫に遺伝子操作を施した結果、モングレルが生まれた。

 

 彼らの暮らす準惑星クローディアスの地底海が「文明世界のもっともひどいところ」と呼ばれていることからわかるように、文明社会からは爪弾きにされている。

 

 気性が荒く、様々な言語から集めてきた悪態をつく。原書で彼らが話すと、ページがスラングの嵐に埋め尽くされる。また「モングレルのやり方」という独自の行動哲学を持っている。

 

 コングリゲートと傭兵契約を結んでいるが、コングリゲートのクライアント国家というわけではない。あくまで雇傭契約によって結ばれた関係でしかなく、その気になれば敵国側につくこともできるらしい。

 

国家

金星コングリゲート

 世界史で例えるなら大英帝国。公用語はフランス語で、高い軍事力と高度な情報網を持つ。本拠地は太陽系の金星。

 

   2つの世界軸を所有するパトロン国家。財力よりも血筋が重視されるお国柄のようで、金星出身の「純血種」と呼ばれる家系が絶大な力を持つ。

 

 遺伝子操作について否定的な考えを持っており、ホモ・クアントゥスやホモ・エリダヌスのような存在を快く思っていない。また、障害をもつ子供について独特の考えを持っており、ダウン症の子供を「Petit Saint」として尊重している。

 

 「スケアクロウ」というAIと人間の中間のような諜報員を各方面に放っている。

 

アングロ=スパニッシュ金権国

 コングリゲートが軍事大国なら、こちらは技術大国。セント・マシューや、ホモ・クアントゥスを作り出したのがこの国家。

 

   「金権国」という名前の通り、何をするにも金が物を言う。囚人でさえ金を積めば貴族のような暮らしが出来るような国。一方で、莫大な資本を投入した技術開発をさかんに行っている。

 

 実際には、冥王星や月にあるいくつかの銀行の連合のような国家であるらしい。兵器開発も盛んに行っており、戦闘機操縦AI「Second Bushido」を開発していたりもする。技術国家である故か、なにかと知的財産権にうるさい。

 

サブ=サハラ同盟

 サブ=サハラ同盟は作中に登場する唯一のクライアント国家。バチュウェジ星系の惑星「バチュウェジ」と、その軌道上コロニー「キタラ」が本拠地。コングリゲートのクライアント国家。

 

 サハラ以南のアフリカに縁が深く、「量子魔術師」に登場する第六遠征部隊の戦艦の名前は、「ファショダ」「ムタパ(モノモタパ)」等アフリカ由来の名前だったりする。

 

パペット神政国家連盟

 ホモ・プーパ(パペット)のマイクロ国家の集合体。世界軸の一つ「パペット軸」を所有している。本拠地である準惑星オラーの「パペット・フリーシティ」には、作中では禁輸令が出されて文明社会からハブられている。

 

 パペットたちの国家ということで侮られがちだが、なんだかんだパペット軸を奪おうとしたアングロ・スパニッシュ金権国の攻撃を2回も凌いでいたりと、実力はある模様。

 

その他

 会話の中でしか登場しないが、他にも「イスラム共同体」や「中華王国」などの国家があるらしい。

 

地理

インディアン座イプシロン星系

 物語の主な舞台となる星系。文明世界の中心地であり、コングリゲートやパペット神政国家連盟、アングロ=スパニッシュ金権国などの強力な国家がひしめいている。パペット軸で「スタッブス星系」と、フレイジャ軸で「バチュウェジ星系」と結ばれている。

 

スタッブス星系

 インディアン座イプシロン星系と対照的な、パペットが保有する資源採掘プラントがいくつかあるだけの辺境の地。パペットはスタッブス星系での資源採掘労働のために作り出された種族なので、ある意味パペットの故地と言えるかもしれない。

 

バチュウェジ星系

 サブ=サハラ同盟の故地。居住可能惑星バチュウェジと、軌道上コロニーのキタラがある。インディアン座イプシロン星系とフレイジャ軸で繋がっている。サブ=サハラ同盟のパトロン国家であるコングリゲートの支配下にある。

 

パペット軸

 物語の要になるワームホール。サブ=サハラ同盟の遠征部隊が、スタッブス星系側の入り口ポート・スタッブス」からインディアン座イプシロン星系側の出口パペット・フリーシティ」へと抜けるためにベリサリウスに依頼を持ちかけるのが、物語の始まり。

 

 ポート・スタッブス側の入り口には要塞化された二つの小惑星「ヒンクリー」「ロジャース」が設置されている。またパペット・フリーシティ側の出口は準惑星オラーの地底にあり、四つの装甲化された門扉で厳重に守られている。

 

 入口と出口の両方が厳重に警備されたパペット軸を、ベリサリウスがどんな秘策を用いて突破するのかが、「量子魔術師」の見所である。

 

関連記事

   日本語訳は出ていないが、「量子魔術師」は「The Quantum Evolution」というシリーズの一作目で、「The Quantum Garden」「The Quantum War」という続編がある。
 
 今回解説したような世界観や設定は、二作目になってからガンガン生かされていくので、せっかく「量子魔術師」を読んだなら是非とも「The Quantum Garden」にチャレンジしてほしい。

 

www.bookreview-of-sheep.com

 

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