Sheep's Bizarre Book Review

邦訳:緬羊書評協会。文系大学生がSFを読むブログです。SFは文理の壁を越えます、多分。

21世紀の若者はSFに夢を見るか? 後編

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 1999年生まれの筆者が自分のSF観を語る企画、後半戦です。

 

前回の記事はこちら。

 

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前回は、小学生の時に環境問題や原発事故関連の報道のシャワーを浴びて悲観的になり現実逃避としてSFを読んでいた筆者に、大学に入ってから転機が訪れたところまで書きました。その転機となった作品が今回の記事のメインテーマ「天冥の標」です。

 

 

 

「天冥の標」とは

「天冥の標」は2009年から2019年にかけて執筆された小川一水の長編SFシリーズです。Ⅰ~Ⅹまでの全10巻、文庫本にして全17冊という大部であり、第40回日本SF大賞の受賞作でもあります。

 

 

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内容はというと、2015年に発生した架空の致命的感染症「冥王斑」と戦いながら人類が文明を発展させていく大河小説であり、まとめるならば「感染症を軸にした壮大なる未来史」とでも言いましょうか。8世紀に渡る未来の人類史が、登場人物を世代交代させつつ描かれていきます。

 

 

説得力ある明るい未来

「天冥の標」の特徴は作中で語られる未来史が非常にリアルで、「本当に実現するかもしれない」と信じてしまうほどの説得力を持つ点です。実際、本文中の記述を拾っていけば詳細な未来史年表が作れるほど、しっかりとした「歴史」としての形をもっています。

 

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「天冥の標」で描かれる希望に満ちた*1未来史は、それまで「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」や「華氏451度」「火星年代記」のようなディストピア小説ばかり読んでいた私にとっては新鮮でした。ここまで説得力を持って「明るい未来」を主張してくる小説は、「天冥の標」が初めてだったからです。

 

 

SFが未来のモデルを示す

 

私が小学生時代に浴びた地球温暖化や原発事故に関する情報のシャワーは、問題提起としては意味があるものだったと思います。しかし、「どうやってこれらの問題を解決するか」というビジョンを示してはくれなかったために、私は「明るい未来」という展望を抱くことができませんでした。

 

このように義務教育やメディアが成しえなかった「明るい未来へのビジョンを示す」という難題を、「天冥の標」はあざやかに解決してみせました。おかげで、今の私は科学と未来に多少の希望を託しています。原子力にしても、核融合エンジンとして人類が宇宙に飛び出す夢の道具になるかもしれない。環境問題も、徹底的な環境管理体制が敷かれることで改善されるかもしれない。そう思っています。

 

もちろん、こうした考えが一種の楽観主義であることは否めません。科学に対する無条件の信頼は取り返しのつかない破滅をもたらすであろうことは私も承知しています。しかし、「科学と未来に対する信頼」という強力なバックボーンを持たない21世紀の一青年が、SFを読んで楽観的な未来を夢見ることぐらいは許されるのではないでしょうか。

 

 

最後に

2025年には、再び万博が大阪にやってきます。 2025年にはコロナ禍は収束しているのか、そして世界はどうなっているのか先行きが不透明な部分もありますが、今度の万博が子供たちに科学と未来への希望を取り戻させるものとなることを願って止みません。

 

 

 

 

*1:「希望に満ちた」とはいっても実はこの未来史の中にはある歪みが存在し、それが後々悲劇をもたらすことになるのが「天冥の標」の面白いところですが。