この記事は1999年生まれの筆者が「イマドキの若者がSFをどう思っているのか」を綴ったものです。とはいっても、同世代にアンケートをしたわけではなく私見を述べるだけなので「こんな風に考えてSFを読んどるやつもおるのか」ぐらいの気持ちで読んでもらえれば幸いです。
団塊の世代とSF
小学生のころEXPO'70を体験した世代は、科学と未来に対する信頼を植えつけられ、SFに反応する回路ができてしまったのではないか。
(日本経済新聞、2021年3月22日夕刊「こころの玉手箱」)
「三体」の翻訳などで知られる、書評家・翻訳家の大森望さんの言葉です。大森氏には失礼ですが私は「科学と未来に対する信頼」という言葉を目にした時、激しい違和感を覚えてしまいました。
EXPO'70=1970年の大阪万博 は親の世代の出来事なので、私は当時の雰囲気を直接は知りません。とはいえ親世代の昔話や万博を描いた作品*1から、当時の社会の熱狂を間接的には伺うことはできます。また70年代と言えば、「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」「銀河鉄道999」などが放映されていた時代です。
大阪万博とSFアニメの黄金期が重なった70年代は「科学は明るい未来をもたらす」と広く信じられていた時代だと、私は勝手ながら思っています。「科学と未来に対する信頼」が生まれ、それがSFを読む動機になるのも自然な成り行きでしょう。
ですから別に大森氏が間違っているという気は毛頭ありません。私が違和感を覚えたのは、70年代の子供たちの科学観と、ゼロ年代の子供たちの科学観に乖離があるからです。
ゼロ年代の子供たち
では、私のような2000年前後に生まれた世代はどんな子供時代を送ったのか、振り返ってみましょう。
2000年代といえばスマホは影も形もなく、ガラケーが主流だった時代です。流行っていたゲームは「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」や「ムシキング」、「ラブアンドベリー」。イチローがアメリカで大活躍し、金正日と小泉純一郎が会談し、子ブッシュがイラク戦争を起こした時代です。
小学校に上がると、「地球温暖化」という言葉をよく耳にするようになりました。「温室効果ガスが増えると南極の氷が解ける」、「CO2は悪いものだ」など進研ゼミやら社会の授業やらで幾度も聞かされた覚えがあります。今思うと、環境教育やエコロジーが流行っていた時期だったのかもしれません。
「南極の氷が解けると海に沈む国がでる」「オゾンホールから有害な紫外線が降ってくる」「日本のごみ処理場はもういっぱいになりつつある」等不安を煽る割には、提示される対策は「こまめに電気を消しましょう」とか「エコバッグを使いましょう」みたいな頼りないものばかり。
この頃からだんだんと「おいおい、この世界ってこのままで大丈夫なのかよ」と不安に思うことが増えてきました。この不安がただの心配性で終わればよかったのですが…。
2011/03/11
そして、小学校時代も後半を迎えたころ、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故が発生します。私が住んでいた地域は被災しませんでしたが、地震発生直後には「『放射能』から身を守るためにうがい薬を飲め」等のデマが流れたり、計画停電が行われたりと情勢が不安定だったのを覚えています。
火力発電とは違い、CO2を排出しない「クリーンな」エネルギーだったはずの原子力発電でのまさかの事故。メディアは猛烈に原発を叩き、「原子力=悪」という図式が定着していきました。かくして「夢のエネルギー原子力」という概念は、原発の安全神話と共に砕け散りました。
このように、世紀末生まれの世代の小学生時代には「環境問題」と「原発事故」の二つが影を落としています。21世紀に育った子供たちは「科学と未来に対する信頼」が芽生えるには程遠い環境に取り巻かれていたと言えるでしょう。
私がSFを読む理由
では、21世紀の若者たちはSFをどう読んでいるのでしょうか?ここからは、「科学と未来に対する信頼」が醸成されなかった一例である、私のSF観を述べていきたいと思います。
結論から言ってしまうと、私がSFを読むのは現実逃避のためでした。遠い未来の物語や現実とは違う様相の世界の物語を読むと、現実からひとときでも目をそらすことができます。
そもそも私は科学も未来もあまり信用していません。このままいけば悲惨な未来が到来し、科学をもってしてもそれを止めることはできないと基本的には思っています。
ですから、SFはあくまでも夢物語として、現実には起こりえない別次元の世界の物語として楽しんでいました。現実とかけ離れているからこそ、SFは面白い。そのような一種虚無的な思いから、「パプリカ」や「偽魔王」のような、筒井康隆作品の中のエログロナンセンス系に傾倒した時期もありました*2。
このように投げやりなSFの読み方をしていた私に、転機が訪れます。きっかけは大学の先輩に勧められて読んだ「天冥の標」でした。
(次回に続く)
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