ひつじ図書協会

SFメインの読書ブログ。よく横道にそれます

#0 小説で記録する新社会人生活

 こんにちは、社会人1年生のsheep2015です。社会人になっても時間の許す限りブログは続けていきますので、これからもよろしくお願いします。

 さて、学生から社会人に変わるといろいろなことを思うようになるわけですが、わたくしの場合には読書ブログをやってるせいか、「そういえば、これと同じような場面が昔読んだ本にあったな」とか思い出すわけです。

 

 そこで今回は、新社会人として感じたことなどを、小説の一節と紐づけて記録してきます。それではどうぞ。

 

「いつの時代も、最大のセキュリティホールは人間なのだ」

 竹田人造「人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル」より。崖っぷちAI技術者の主人公が、最新の自動運転現金輸送車の強奪に参加したのをきっかけに裏社会とAIをめぐる騒動に巻き込まれていく小説です。第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞。

 

 この一節は、指紋と虹彩認証を搭載した金庫を破るときの主人公の心の声です。「登録された人物以外は開くことができない」という触れ込みの金庫を、持ち主が通い詰める高級ホストクラブで採取した指紋であっさりと破ります。

 

 新人研修で情報セキュリティについて聞いているときにふと思い浮かびました。例えば、パソコンのパスワードを複雑なものにしても、「覚えにくいからメモしとこ」と付箋にメモってパソコンに貼ってたら、意味がありません。やっぱり人間こそが最大のセキュリティホール=情報セキュリティ上の欠陥 なのかもしれませんね。

 

「よくある手段としては、岩を少しだけ持ち上げて、間に滑り止め付きの軍手を挟んでやる手がある」

 柞刈湯葉の短編「記念日」より。「宇宙ラーメン重油味」「たのしい超監視社会」などと一緒に、短編集「人間たちの話」に収録されています。ある日、ひとりぐらしをしている部屋に巨大な岩があらわれた30歳独身の研究者のお話です。

 

 部屋のどまんなかに居座る岩を動かそうとして、主人公は岩と床の間に軍手を挟もうとしますが、岩は「床に溶接されているかのように」動かないのでした。

 

 引っ越して早々に、模様替えのためにベッドを動かしたのですが、その時にこの軍手を使う方法を思い出して使ってみました。結果は大成功。思わぬところで小説が役に立つこともあるもんです。

 

 ちなみに「人間たちの話」は各話の冒頭が以下のハヤカワの公式記事から読むことができます。

 

www.hayakawabooks.com

 

 

この珍しい経験をした今日一日、彼は故郷の土地をすっかり忘れていたが、思い出してみると、遠い所には違いないが、彼自身の土地が、彼を待っているのだ。

 パール・バック「大地」より。近代の中国を舞台に、貧しい農民から大地主になった王龍(ワンロン)にはじまって、王家の人々の姿を三代にわたって描いた長編です。パール・バックはこの作品でノーベル文学賞を受賞しています。

 

 飢饉に襲われた王龍は、自分の土地を離れて家族と共に南の町へと向かいます。食べ物が豊かにある南の町で迎えた初日、家族を養うために王龍は人力車の車夫として一日中働きますが、稼ぎは銅貨一枚にしかなりませんでした。疲れ切って家路につく王龍ですが、故郷には自分の土地が待っていることを思い出して安らいだ気分になるのでした。

 

 実は私も実家を離れて働いているのですが、社会人一日目の夕方、会社を出てふとビルの谷間に浮かぶ夕日を見てこの一節を思い出しました。王龍の場合の「土地」とは、耕せば豊かな作物を実らせる畑のことで、私の場合は育った町という違いはありますが、故郷を思う気持ちは同じだなぁ、としみじみと社宅への家路につきました。

 

 というわけで、ちょっとしんみりとしたところで終わります。何かまた本を思い出すことがあったら続くかもしれません。それでは。