ひつじ図書協会

SFおおめ、恋愛すくなめ、「天冥の標」考察マシマシの本の感想ブログ。

「アイの物語」(山本弘)

本をリレー形式に繋げて紹介する企画「読書リレー」。第19回の今回は、アンドロイドが語る千一夜物語「アイの物語」(山本弘)です。

 

前回の「The Book」(乙一)の記事はこちら

www.bookreview-of-sheep.com

 

 

「アイの物語」あらすじ

21世紀半ば、意思を持ったマシンたちが反乱を起こした。人類は敗れ、世界は荒廃した。マシンは人間を根絶やしにしようとしており、プロバガンダで人類を洗脳しようとしている…

 

「マシンは敵」、そう聞かされて育った主人公「語り部」はある日「アイビス」と名乗るマシンと出会い、全く違う現実を目にする。怪我を負った彼を治療するマシンたち。与えられた清潔な病室。

 

マシンが自分を洗脳しようとしていると思い、頑なにアイビスを拒絶する語り部。そんな彼に、アイビスは人とマシンにまつわる7つの物語を語り聞かせ始めた。

 

 七つの物語

チーム体制でSF小説を書き連ねていくオンラインサークルをめぐる「宇宙をぼくの手の上に」、フルダイブできる仮想世界が舞台の「ときめきの仮想空間」、対話型AIに魅入られた女の子の物語「ミラーガール」。

 

ブラックホールに突入しようとする主人公と番人のAIのやりとりを描く「ブラックホール・ダイバー」、仮想世界と現実のやり取りを描いた「正義が正義である世界」、介護ロボットの成長がテーマの「詩音が来た日」。

 

そして、アイビス自身の物語「アイの物語」。これら全部で7つの短編と、その間に挟まるアイビスと語り部のやり取り「インターミッション」で構成された作品です。

 

「宇宙をぼくの手の上に」は「SFなんて子供っぽくてくだらない」という人にこそ読んで欲しい作品ですし、「詩音が来た日」は介護現場の大変さが伝わってくる作品です。個人的に一番好きなのは「ブラックホール・ダイバー」で、「人生の最後はブラックホールに突入したい」と言っている友達に読ませてみたくなりました。

 

「うまい」仕組み

本作は「アイの物語」という作品の中に、アイビスが語る7つの物語が入れ子状に収まったつくりになっているわけですが、作者はこの仕組みを最大限に活用しています。

 

たとえば、「インターミッション」で、語り部が「さっきの話はおかしいところがあったぞ」と突っ込み、アイビスがそれに答えるというように自然な形で話の解説がつけられるのです。

 

この仕掛けのおかげで、科学的にはあり得ないような設定をアイビスが語る物語の中に盛り込んでも、そのあとの語り部とアイビスのやり取りの中でリカバリーをすることが出来るのですね。メタ的な事ですが、とてもうまい仕組みだと思います。

 

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人間は愚か

「人間とAI」がテーマの「アイの物語」ですが、「人間より賢いAIの脅威」ではなく、「AIより愚かな人間の脅威」が強調されます。作中でも言及されますが「ターミネーター」「マトリックス」のような「AIの反乱」調の作品では、全くありません。

 

常に論理的な思考ができるAIに対して、人間は論理に反する行動をとりがちです。ニセ科学を信じたり、フェイクニュースに踊らされて人を攻撃したり、体に悪いと分かっていてもタバコをやめられなかったり。

 

「真の知性体は罪もない一般市民の上に爆弾を落としたりしない(中略)ボディ・カラーや出身地が異なるというだけで嫌悪したりはしない。無実の者を監禁して虐待したりはしない。子供を殺すことを正義と呼びはしない。」

 

このような「人間の愚かさ」を目の当たりにしたAIたちが最後に達した「人間を滅ぼす」以外の結論とは一体何なのか。是非とも読んで確かめてほしいと思います。

 

 「物語」の力

「現実の物語には、三流のフィクションよりも出来の悪いものは山ほどある。それらは現実だというだけの理由で、フィクションよりも優れているの?」

 

物語それ自体は生命を持たない単なる文字の羅列にすぎないが、それを読者が読むことにより、読者の心とキャラクターの心が世界を超えて噛み合い、生命が吹き込まれる。

 

登場人物たちの台詞からは、作者が物語の力を本当に信じていることがひしひしと伝わってきます。もちろん、読書ブログなんてものを運営している私も同意見です。

 

「しょせん小説なんて作り話でしょ?」、「オレ、小説は読まないことにしてるんだよww」と言われて心が傷ついた時に、本作を読むことをおすすめします。物語には、確かに力があります。

 

 

おまけ:次に読んで欲しい山本弘作品

 「人間の愚かさ」と「物語の力」という点から「アイの物語」を紹介しましたが、同じく山本弘の作品「輝きの七日間」「喪われた惑星の遺産」 がこの二つのテーマと関連が深い内容なので、紹介します。

 

「輝きの七日間」と「喪われた惑星の遺産」はどちらもSFマガジンに掲載された作品です。前者は2011年4月から2012年10月にかけて、後者は2011年8月の「初音ミク特集」の号で掲載されました。

 

「輝きの七日間」

超新星爆発を起こしたベテルギウスから飛来した未知の粒子「オリオノン」の影響で、人類の知性は一時的に飛躍的に向上した。他人の痛みを理解し、環境問題の深刻さを認識できるようになった「賢い人類」は、限られた七日間という時間で何を為せるのか…。

 

「アルジャーノンに花束を」の大規模&期間限定バージョンな作品です。

 

「アイの物語」では論理的なAIと対比することで非論理的な人間の愚かさが強調されましたが、「輝きの七日間」ではこの「論理的な判断が出来ないことがある」という人間の欠点がオリオノンによって完全に克服されます。この二作をあわせて読むと、作者が持つ「理想の人間像=理想的な知性像」がはっきりと見えてくるのではないかと思います。

 

「輝きの七日間」についてはこちらの記事で詳しく書いているのでどうぞ。

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「喪われた惑星の遺産」

人類滅亡後の太陽系の探査に訪れた異星人は、未だ残っていた人類の探査機から初音ミク(と、はちゅねミク)のイラストを発見する。

 

イラストに示された内容について、独自の考察を展開していく異星人。それは「これは信仰の対象である」という実際の「初音ミク」とはかけ離れたものになっていく。しかし、考察の最後に、異星人は1200万年前の人類の「想いの強さ」をしっかり受け止めたことを語るのだった。

 

作中に登場する「初音ミクのイラストをのせた探査機」とは日本の金星探査機「あかつき」のこと。実際に「あかつき」にのせられたイラストはこのサイトから見ることが出来ます。

piapro.jp

 

最初は、「人類の遺産について、何も知らない異星人がトンチンカンな想像をする」というコメディっぽく見える作品です。しかし、後半に向かうにつれて「込められた意味は分からなくても、人類の想いを受け取った異星人が哀悼の意を示す」という感動的な物語になっていきます。

 

 

 

前回との繋がり、次回予告

今回は、前回の「The Book」と同様に「物語の力」というテーマを扱った作品を紹介しました。次回は「物語の中の物語」つながりで「熱帯」(森見登美彦)を紹介します。

 

 

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