本をリレー形式に繋げて紹介する企画「読書リレー」、第11回は「ひとめあなた…」(新井素子)を紹介します。それでは、世界の終わりに悲しい狂気に囚われた人々の姿を見ていきましょう。
「ひとめあなたに…」あらすじ
癌で余命宣告を受けた恋人から、圭子は突然別れを告げられる。ショックで酔いつぶれた翌日、圭子が目覚めると外の世界は狂乱状態に陥ってた。テレビは隕石の衝突で地球が滅ぶというニュースを伝えていた。
公共交通機関もストップする中、圭子は最後にもう一度恋人に会いに行くことを決意する。東京は練馬から、恋人のいる鎌倉へ。道中で様々な狂気を抱えた女たちに出会いながら、圭子は恋人のもとを目指して狂ってしまった世界を進み続ける。
前回のおさらい
前回の「きみの膵臓を食べたい」と同じく、「死に直面したら何をするか?」というテーマの「ひとめあなたに…」(新井素子)を選びました。奇しくも二つの小説は、結末で同じような結論に達します。
ちょっと一言(微ネタバレ)
地球が滅ぶというのに受験勉強をやめない女子高生、夢と現実の区別がつかなくなり眠り続ける女の子、旦那をビーフシチューにする妻…。恋愛小説のはずですが、登場人物たちの狂気がまるでホラーのような印象を与えます。
彼女たちはみんな、大切な人とのつながりを失って傷ついています。家族からは勉強することしか求められなかったり、転校で親友と離れ離れになったり、夫が不倫していたり。そして、狂うことで心の隙間を埋めようとしているのです。「食べる」ことで夫とのつながりを取り戻そうとする由利子はそのいい例でしょう。
そして、一度は別れた恋人に遠路はるばる会いに行く圭子もまた、彼女たちと同じように狂気に駆られているのかもしれません。練馬から鎌倉まで歩いていくなど、ある意味では狂気の沙汰です。
死に直面して、大切な人とのつながりを求めてもがく登場人物たちは、はたして幸せになれるのでしょうか。
次回予告
次回は少し毛色を変えて、今までとは違うつながりを持つ小説を紹介します。ヒントは「Chinese Soup」です。