前回のおさらい
前回の「儚い羊たちの祝宴」は、ブッキッシュな令嬢たちにまつわる優美ながらも恐ろしい事件を集めた短編集でした。
今回紹介するのは、同じく本好きな女性によって繋がれた6つの短編が集まった「箱庭図書館」(乙一)です。短編どうしの繋がり方を解説したくなったので、今回は少し長めの記事で紹介します。
「箱庭図書館」あらすじ
『物語を紡ぐ町』文善寺町で繋がりあう6つの物語。ミステリー、ホラー、青春、SFなどあらゆる要素がつまった短編集。
1 小説家のつくり方
山里秀太が小説家になった理由は、小学生の時に使っていた一冊のノートだった。クラスメイトのことを書いて先生に提出したそのノートが、小説家としての原点になったのだ。…そんなよくある「泣ける話」かと思いきや、最後に思わぬ真相が明かされる。
2 コンビニ日和!
コンビニでバイトをしていた「僕」と後輩の島中ちよりの前にコンビニ強盗が現れる。セオリー通りにレジの金を出すよう脅す強盗だが、次第に事態がおかしな方向に向かっていき...?
3 青春絶縁体
「できた」と先輩。
「そうですか、ゴミ箱ならここにありますよ」
「お前を捨ててやろうか」
内輪ウケしか狙っていない小説を書いて見せあい、互いに酷評しあうという「文芸部の活動」を、二人きりの部室で先輩の小山雨季子と繰り返していた主人公。歯に衣着せぬやりとりができる二人だったが、ある日お互いの秘密を知ってしまい...
4 ワンダーランド
道端で拾ったカギを巡る物語。このカギが合う鍵穴はどこにあるのか、探索を続ける主人公だが、その背後に殺人鬼の影が忍び寄る。星新一のショートショート「鍵」を思わせる作品。
5 王国の旗
小野早苗がトランクの中から這い出ると、そこは見知らぬ町だった。「ミツ」と名乗る少年に導かれてたどり着いたボウリング場で、早苗は夜の間だけ現れる子供たちの「王国」を目にする。ミツは早苗に王国の一員になるように勧めるが…。
6 ホワイト・ステップ
へいこう せかい かも しれない
それは なんですか?
こっちとそっちは えだわかれした せかい なのかも
雪面についた足跡が平行世界でも現れるという現象を通じて、違う世界線にいる二人は出会う。雪面に文字を書いてやり取りをするうちに、それぞれの世界線でお互いにとって重大な分岐が生じていたことが明らかになっていく。
一人で寂しい年越しをする近藤裕喜、交通事故で母と死別した渡辺はるか。雪が積もっている間だけの「ありえたかもしれないもう一つの世界」とのつながりをめぐって、二人は文善寺町を奔走する。
ちょっと長話
アマチュアから募集した小説を乙一がリメイクし、一つの小説にする。そんな「オツイチ小説再生工場」という企画で生まれたのが本作「箱庭図書館」です。元ネタとなる小説がある以上、完全な乙一オリジナルの作品ではないと私は思うのですが、それでも6つの小説を無理なく繋げる技術は見事です。
というわけで今回は、「箱庭図書館」の6つの短編がどのように繋がっているかを検証して図にまとめてみました。
基本的には「山里潮音」の存在がすべての短編を繋いでいます。この点、「バベルの会」という共通要素でつながった「儚い羊たちの祝宴」と似ていますが、「箱庭図書館」はそのさらに先をいっているのが分かると思います。
図をみれば分かるように「箱庭図書館」では潮音とは独立した個々の繋がりによって、短編どうしがネットワークのように繋がりあっています。映画「クラッシュ」を彷彿とさせますね。
リレー形式で本を繋いでいく企画をやっている身としては、こんな複雑な繋がりをつくることが出来る乙一氏の構成力、小説技巧には脱帽です。
「本作は乙一の完全なオリジナル作品ではないと思う」と先ほどいいましたが、このような短編どうしの有機的な繋がりをつくる技術にこそ、本作における乙一氏のオリジナリティが発揮されていると思いました。先ほどの図から抜けているつながりもあると思うので、見つけた方はコメントで知らせてください。
次回予告
正直、それぞれの短編について一冊ずつ似たような本を紹介したいのですが、都合上「青春絶縁体」と似ている本を次回は紹介します。私自身ろくな青春の思い出がないので、こういう「若干こじらせた青春」は好きです。