ひつじ図書協会

SFメインの読書ブログ。よく横道にそれます

#2 革靴が硬すぎる【日記】

 こんにちは、体重が5キロ減ったsheep2015です。今回も前回に続いて新社会人生活で感じたことを、小説のワンシーンといっしょに記録してきます。それではどうぞ。

「本当の新しい皮の靴じゃあ、またこの血まめのできた足がかえってすれて痛くてたまらないと思うわ」

 栗本薫の長編大河小説「グイン・サーガ」の109巻「豹頭王の挑戦」より。足に血まめができた連れのために、宿屋でお古の靴をもらうという、なんてことはないシーンなのですが、「新しい革の靴」を履いて靴擦れをこしらえた自分には沁みるセリフでした。

 

 なんで、新品の革靴ってあんなに硬いんでしょうね。職場では「なんか今日歩き方がぎこちないけど、大丈夫か?」と心配され、足を引きずりながらやっとの思いで家に帰ってからも、足から靴が抜けなくて玄関で立ち往生する始末。

 

 持ち主の足と同じ形の足をしたロボットを用意して、新品の革靴を履かせて歩かせて、靴を柔らかくしてから提供するサービスとかあったら人気になると思うんですけど、誰かやってくれませんかね。

 

 いずれにせよ、キズパワーパッドには感謝してもしきれません。靴擦れ防止にも、傷の治療にも大活躍する、よくできたばんそうこうです。

 

 なんだか靴の話ばかりになってしまいましたが、「豹頭王の挑戦」はグインサーガの中で私が大好きな「タイス篇」の直前にあたる巻です。主人公が追手の目を欺くために、大道芸人に扮するという異色の巻でもあり、読者からの人気も高いのだとか。

 

「あそこの弁当屋がいちばん旨いんだ。そのかわり、だいぶ並ばないと。」

 筒井康隆「パプリカ」より。いつもお母さんにお弁当を作ってもらっている、巨漢の天才科学者時田浩作の、お昼時の悲しげなつぶやきです。母のお弁当を食べられない時、彼は味に妥協しないで会社から遠く、だいぶ並ぶけど味は確かな弁当屋まで出向くのでした。

 

 私は昼はおにぎり派なのですが、一度会社の近くに来ているキッチンカーで食べようとしたことがあります。ところが、キッチンカーって並ぶときはとことん並ぶんですね…。ハンカチを日除け代わりにして列に並びながら、時田浩作のセリフを思い出してました。

 

 でも考えてみれば、味は確かなお弁当さんをリサーチして、さらに昼の休憩時間を犠牲にしてまで並ぶのって、相当食にこだわりがないとできないことですよね。時田浩作はありていに言えばデブなのですが、好物はジャンクフードではなくブリの照り焼きなどの和食で、個人的には「食に妥協しない意識高いデブ」という感じがして好きです。

 

 「パプリカ」は、米津玄師の「パプリカ」と並べて「ヤバい方のパプリカ」と、帯で呼ばれるような小説です。夢の中に入れる精神病治療器具をつくったら、夢が現実に溢れでてきてえらいことになるところがヤバいのですが、この時田浩作のセリフのようにやけに日常くさい場面もあって、面白いです。

 

彼らの多くは、部屋の扉を開ける時、「母ちゃん、ただいま」といるはずのない妻を呼んで帰る侘しい日々であった。

 山崎豊子の長編「大地の子」より。中国に製鉄所を作るべく、現地に単身赴任したサラリーマンたちの生活の一コマ。

 

 中国残留日本人孤児の主人公が、生まれによる差別を乗り越えながら技術屋になり、製鉄所の建設に尽力する小説「大地の子」。実際に、新日本製鐵の協力で中国に建設された「宝山製鉄」をモデルにしており、綿密な取材に基づいたリアルな展開が魅力の重厚な小説です。日本語版の「三体」とは文化大革命のシーンから物語が始まるという共通点があったりもします。

 

 会社から帰ってきたとき、家にだれもいなくても「ただいま」という一人暮らしの人って結構多いみたいですね。職場の先輩曰く、「家を出るときはバタバタしてるから『いってきます』は言わないけど、帰ったら必ず『ただいま』は言うねぇ」。

 

 「いってきます」と「おかえりなさい」―ちゃんと帰ってくるよというささやかな約束とともにドアの開け閉めを繰り返すことが、私たちの日常です。

 新海誠監督が、映画「すずめの戸締り」に寄せた言葉です。単身赴任のサラリーマンたちには家に帰っても「おかえりなさい」と言ってくれる人はいません。それでも、たとえ「おかえりなさい」が返ってこなくても、「ただいま」と言わずにはいられないのが、人間の性というものなのかもしれません。

 

 ちなみに、先輩の家では「ただいま」というとアレクサが「おかえりなさい」と言ってくれるそうです…。

 

 ということで、今回はここまで。次回はコオロギのクッキーを買った話でもしようかと思います。