ひつじ図書協会

SF多め、ジョジョ多め、「天冥の標」マシマシの読書ブログ

スタンドと波紋の間で 「無限の王 rey infinito」(真藤順丈)

 「ジョジョの奇妙な冒険」35周年を記念し、「一冊丸ごとジョジョの本」をキャッチコピーに出版された「JOJO magazine 2022 SPRING」。今回はその中に掲載された二つのスピンオフ小説の一つ「無限の王 rey infinito」(真藤順丈)を紹介します。

あらすじ

 1973年、アンティグア。グアテマラの古都であるこの街で、スピードワゴン財団職員のJ・D・エルナンデスは謎の連続殺人事件を追っていた。

 

 犠牲者は銃のようなもので何度も撃たれているが、現場からは銃弾が一切発見されていない。この「見えない銃弾」の正体を探るべく、エルナンデスは裏通りの顔役であるオクタビオ、そして彼を補佐するホアキンを始めとする現地協力者を得て、調査を進める。

 

 最初は事件に「波紋」が関係していることを疑っていたエルナンデス。しかし、彼を待っていたのは波紋とは異なる新たな「驚異の能力」だった…

 

 

 

 

!この後、ネタバレがあります!

 

 

 

 

波紋から幽波紋へ

 「無限の王」は一言でまとめると、「リサリサがスタンドに出会う」話です。ジョジョは第二部までは特殊な呼吸法によりエネルギーを生み出す「波紋法」が主人公たちの武器ですが、三部からは一種の超能力「スタンド」が新たに登場します。

 

 個人的には一部、二部の「波紋の時代」のジョジョと、三部以降の「スタンドの時代」のジョジョは別物という感じがするのですが、「無限の王」はその二つの時代の空隙をうまく埋めてくれます。

 

 連続殺人事件の犯人ファビオ・ウーブフのスタンドは、蝿を自在に操るスタンド「蝿の王(エル・シニヨル・デ・ラス・モスカス)」。スピードワゴン財団の記録の中では記念すべき最初のスタンドとなります。当然のことながら財団側にはスタンド使いはいないので、リサリサが波紋を利用して「蠅の王」を封じるという、スタンド対波紋の珍しい構図が見られます(三部のジョセフvsDIOの時に少しはあったけど)

 

 同じ雑誌に収録されている「野良犬イギー」が、スタンド使いが同じスタンド使いをスカウトする話なので、「無限の王」のようにスタンドに波紋で対処する時期から、「野良犬イギー」のようにスタンド使いをスカウトする時期を経て、「スターダストクルセイダーズ」のようにスタンド使いを援軍として派遣できるような財団が出来上がったんだなぁ、と思うと感慨深いですね。

 

スタンド使いの孤独

「お前たちにはどうせどうせ見えやしない」ファビオは格子窓の向こうで笑いだした。笑いながら涙を流していた。「他の連中とおんなじだおんなじ、お前にも見えない。おれ以外の誰にも見えやしない。見えないものについて伝えることはできない。

 財団に捕らえられたファビオは、取り調べの時に自分のスタンドについてこう語ります。「スタンドビジョンはスタンド使い以外には見えない」というルールのために、周囲に理解されず苦しんだキャラクターはファビオだけではありません。

 

 例えば第三部「スターダストクルセイダース」の花京院典明は「スタンドが見えない者とは分かり合えない」という考えを持っていたせいで周囲と馴染めず、DIOに付け込まれ「肉の芽」を埋め込まれました。ですが、同じスタンド使いである空条承太郎と出会ったことで、DIOを倒すための旅に同行することになります。

 

 また主人公である承太郎自身も、最初は突然出現したスタンドビジョンを「悪霊」だと思い込み、悪霊を逃がさないために自ら牢に入っていました。第三部は、第二部の主人公にして承太郎の祖父のジョセフが、「スタンド」というものの存在を教え、承太郎を牢から出すためにやってくるシーンからはじまります。

 

 そう考えると、「今まで自分にしかスタンドが見えなかった孤独なスタンド使いが、仲間に出会って正しい道を歩み始める」という筋書きが、スタンドが初めて登場した第三部の一種のテーマであるとも言えます。第二部~第三部の、「波紋とスタンドの挟間」の時代にいたファビオが、まわりにスタンド使いがおらず孤独を感じたのはある意味必然だったのかもしれません。

 

オリジナルキャラもスゴクいい

アンティグアの風景

 殺人犯の追跡に一役買うのが、財団が協力を要請した現地民のオクタビオとホアキンです。裏通りの顔役である長身で快活な男オクタビオと、発語に障害があるが抜群の記憶力と観察力でオクタビオを補佐するホアキン。この二人にコンビがスゴクいいんです。

 

 快活な行動派と、それを補佐する内向的な頭脳派という意味では「グイン・サーガ」に登場するイシュトヴァーンとアリのコンビを思わせます。ずば抜けたルックスと軍事的センス、そしてカリスマ的素質を持つイシュトヴァーンに対しての、醜い容姿と優れた軍師としての才能、そしてイシュトヴァーンへの昏い想いを持ったアリの二人のコンビは、100巻を越す大作である「グイン・サーガ」の中でも独特な存在感を放ちます。

 

 ただ、ホアキンの方はアリのような歪んだ愛情は持ち合わせていないので、オクタビオとホアキンの二人はどこまでも健康的なコンビです。

 

 正直、「無限の王」の主役はエルナンデスやリサリサではなくこの二人だと言ってもいいくらいです。スタンドという新たな脅威が出現した世界に立ち向かう、二人の若者。もしかしたら、「無限の王」の後には二人にも能力が発現し、財団に味方する初めてのスタンド使いになったのかもしれない、とか妄想すると面白いですね。というか、そういう続編出ないですかね?

 

最後に

 というわけで、真藤順丈の「無限の王 rey infinito」を紹介しました。敢えてオリジナルキャラを全面に出しながらも、しっかりと「ジョジョらしさ」を醸し出した名作でした。「JOJO magazine 2022 SPRING」に掲載されたもう一つのスピンオフ小説「野良犬イギー」とは異なりまだ単行本化はされていませんが、是非とも雑誌を手に入れて読んで欲しい、おすすめの作品です。

 

 その他のジョジョの小説についてはこちらからどうぞ。

www.bookreview-of-sheep.com