ひつじ図書協会

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「メイド・イン・ヘブン」の元ネタ? 筒井康隆「急流」を紹介

 sheep2015です。今回は、筒井康隆の短編「急流」を、絶賛アニメ配信中の「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」とからめて紹介していきます。

 

「急流」あらすじ

 「時間のすすむのがどんどん早くなっていく」という異変を巡るドタバタ劇。ある日主人公は、時間通りに出社したはずなのに遅刻をして怒られる。この事件を皮切りに、どんどん異変が起き始める。

 

 遅刻者は続出、電車はダイヤを守るために停車する前に発車し、新聞は日刊から週刊、そして年刊になってしまう。ついには天体の運行が目でおえるようになり、時が無制限に加速していき…というのがあらすじ。

 

著者紹介

 筒井康隆は「SF御三家」とも称されるSF作家です。映像化されている「時をかける少女」や、TikTokで話題になった「残像に口紅を」などの作品が有名ですね。他にも、精神病の治療中に夢と現実がごっちゃになっていく「パプリカ」(俗に言う「ヤバいほうのパプリカ」)や、小松左京の「日本沈没」のパロディ「日本以外全部沈没」などの作品があります。

 

 特に短編にはナンセンス系の話やドタバタ劇などが多く、「急流」もそのうちの一つです。

 

「メイド・イン・ヘブン」と「急流」の共通点

 あらすじを読んで気づいた人もいるとはおもいますが、この作品「メイド・イン・ヘブン」にそっくりなんです。というより、「メイド・イン・ヘブン」が「急流」にそっくりなんですが。

 

 ジョジョを読んでない人のために説明すると、「メイド・イン・ヘブン」とは「ジョジョの奇妙な冒険」の第六部「ストーンオーシャン」に登場する能力です。能力の内容は「時間を無限に加速させる」というもので、この能力が発動することで世界中が大混乱に陥ります。「メイド・イン・ヘブン」について詳しくは下記記事をどうぞ。

 

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 このように、「時間が加速する」という設定が「ストーンオーシャン」と「急流」では、共通しています。また、「メイド・イン・ヘブン」によって発生する異常現象の中で、「急流」でも起こっているものを並べると以下のようになります(漫画版準拠)

 

・テレビ番組を見てるとすぐにコマーシャルの時間になる

・ちょっと電話しただけなのに高額の電話料金を請求される

・交通事故が起こりまくり、飛行機が墜落する

・長時間セックスの記録を更新して喜ぶバカップル

・太陽が早く動きすぎて帯みたいに見える

・時計の針が見えなくなる

 

 もっとも全部が全部「急流」と同じ、というわけではなく、当然「ストーンオーシャン」にしか登場しない現象もあります。中でも、漫画の締め切りが来るのが速すぎて、岸部露伴(作中に登場する漫画家。超速筆で原稿を落としたことがない)しか締め切りに間に合わない、というのがジョジョらしくて私は好きです。

 

筒井康隆と荒木飛呂彦の違い

 「急流」と「ストーンオーシャン」の共通点を解説してきましたが、作者のセンスの違いが表れるところもあります。その一例が、先ほど挙げた「急流」と「ストーンオーシャン」の両方で起きる現象の中での「長時間セックスの記録を更新して喜ぶバカップル」です。

 

 「急流」ではこの現象(?)は新聞記事の見出しとして現れます。時間が加速しすぎて新聞社も混乱し、いいかげんな記事が載るようになり、天下の朝目新聞に「記録更新!わしゃ1ヶ月に渡るセックスをやったぞ!ぎゃはは」という見出しが載るのです。この「ぎゃはは」というのがなんとも筒井康隆らしくて好きです。

 

 一方「ストーンオーシャン」ではカップルたちが直接現れます。裸で抱き合いながら「すごいわケンイチッ!!もう4時間よッ!!あたしたち新記録ッ!」とのたまうカップル。セリフの語尾に「ッ!!」が付きがちな荒木節がよくきいた名セリフ(?)ですね。

 

ジョジョが好きなら筒井康隆もおすすめ!?

 ということで、「ジョジョの奇妙な冒険」と関連付けながら「急流」を解説しました。実は、荒木飛呂彦が筒井康隆の小説をオマージュしている例はこれだけではありません。詳しくは下の記事で解説していますが、第4部に登場するスタンド「パール・ジャム」についても、そっくりな中国料理店が登場する「薬菜飯店」という筒井康隆の短編があります。

 

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 「ストーンオーシャン」が面白かった!という方は、「急流」や「薬菜飯店」を皮切りに筒井康隆の作品を読んでみても、面白いかもしれませんね。

 

 ちなみに「急流」は短編集「最後の喫煙者」に収録されています。

 

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