荒木飛呂彦の人気漫画シリーズ「ジョジョの奇妙な冒険」。その中でも特に人気が高い第5部「黄金の風」のスピンオフ小説「恥知らずのパープルヘイズ」の紹介です。
「黄金の風」 あらすじ
まずはスピンオフ元の、第5部のあらすじから。
舞台はイタリア、ネアポリス。主人公ジョルノ・ジョバァーナは、街を牛耳るギャング団「パッショーネ」に入団する。ジョルノの目的はパッショーネを乗っ取り、ギャングが流通させている麻薬を街から駆逐することだった。
入団試験をクリアしたジョルノは、ブローノ・ブチャラティ率いるチームに配属される。同じ頃、パッショーネのボスに娘がいることが明らかになり、ブチャラティ・チームはボスの娘トリッシュ・ウナの護衛任務につく。
次々に襲いくる暗殺者たちを退け、チームはトリッシュをボスの元へ送り届ける。しかし、娘を呼び寄せたボスの真の意図を知ったブチャラティはパッショーネに反旗を翻すことを決心する。
元々ボスを倒すことが目的だったジョルノを始め、チームのメンバーは組織ではなくブチャラティについていくことを決めた。ただ一人、組織を裏切る決心がつかなかった男、パンナコッタ・フーゴを除いて...。
「恥知らずのパープルヘイズ」あらすじ
多くの犠牲を伴いながらジョルノたちはパッショーネのボス、ディアボロを倒した。ジョルノが新たなボスとして新体制を築き、新生パッショーネは麻薬を扱わないクリーンな組織を目指して動き始める。
一方で、チームを一度離反したフーゴは微妙な立場にいた。ある日フーゴはかつてのチームメンバーであるグイード・ミスタに呼び出される。ジョルノへの忠誠を示すため、彼に与えられた指令はパッショーネの負の遺産「麻薬チーム」を始末することだった。
麻薬チームの最重要人物「マッシモ・ヴォルペ」はフーゴの大学時代の級友だという。フーゴはかつてのボス親衛隊メンバーシーラEや、組織から派遣された胡散臭い男カンノーロロ・ムーロロと共に、麻薬チームの本拠地シチリア島へ向かう。
フーゴの離反について
「黄金の風」本編でのフーゴは、はっきりいって影が薄いです。猛毒のウイルスを繰り出す強力なスタンド「パープル・ヘイズ」を持つも、戦闘に加わったのは暗殺チームのイルーゾォと戦った時だけ。途中離脱した後は最後まで*1登場しません。
そして本作では「ブチャラティ・チームからのフーゴの離反」が焦点になります。
パッショーネを裏切ることは、死を意味します。生き残れる確率を考えれば、ブチャラティについていかないのは「賢い」選択ではあったのです。けしてそれが「正しい 」道ではないにせよ。しかし、その道を選んだのはフーゴだけでした。
ボートに乗って去っていくチームメンバーを見送るフーゴは「僕は……正しい馬鹿にはなれない!」と呟きます。この一言が、フーゴの葛藤をよく表していると言えるでしょう。
結局ブチャラティたちの裏切りは成功し、ブチャラティの遺志を継いだジョルノが新たなボスになりました。これを知ったときのフーゴの気持ちは複雑だったと思います。
麻薬チームと死闘を繰り広げながら、フーゴはチームを離れた自分の過去と向き合います。あの時、なぜ自分はボートに乗れなかったのか。なぜ、最初は自分と同じように躊躇ったナランチャは、ブチャラティについていけたのか。果たしてフーゴは今度こそ「一歩」踏み出すことができるのでしょうか。
おしゃべりなスタンド使いたち
話は変わりますが、本作にはオリジナルのスタンドがぞろぞろと登場します。「ドリー・ダガー」、「ナイトバード・フライング」、「マニック・デプレッション」、「レイニーデイ・ドリームアウェイ」、「ヴードゥー・チャイルド」、「オール・アロング・ウォッチタワー」*2…
「黄金の風」では敵味方共にスタンドの名前や能力が全く分からない状態から戦闘が始まるのがお決まりのパターンでした。よくあるのは、トリッシュ護衛チームの周りで不可解な現象が起き、「スタンド攻撃を受けているッ!」(byブチャラティ)…となる展開。
対して、本作では敵味方のスタンド能力の詳細がわりとすぐに判明します。少なくとも読者の視点では、最初の章で麻薬チームのスタンド名は全部分かり、何人かは能力についてもちゃんと説明されるという親切仕様。
かといって、スタンド能力が早めにバラされるからといって、戦闘がつまらなくなるということはないのが面白いところ。むしろ「こいつのスタンドはもう知っているよ」という読者の思い込みを突いた思わぬ展開もあってスリルは増していると言えるでしょう。
溢れる「ジョジョっぽさ」
「現代人、てよぉ——」「ノックして、もしもぉーし」「いい加減なことを言うんじゃあないッ」「…エリエリエリエリエリエリエリ…!」
「ジョジョ」に特徴的な言い回しは、「恥パ」でも健在です。
また、5部以外から受け継がれた設定もいくつかあります。例えばジョルノはスピードワゴン財団を後ろ盾に付けており、フーゴがジュゼッペ・メアッツァに呼び出される冒頭シーンでは財団の飛行船がフーゴを監視するために上空に飛んでいたりします。
こういうファンサービスはジョジョ好きにはたまりませんが、「ジョジョ」を知らない読者にはあまり受けないかもしれません。
そもそも、スタンド使いがバンバン登場したり「黄金の風」の設定ありきで話が進む時点で、「ジョジョ」のファンが読むことを前提として書かれているのでしょう。その意味で、ジョジョ好きには刺さるけど「ジョジョ」を布教するには不向きな作品です。
対照的に、「ジョジョ」を知らない人でも読めるように書かれたのが第4部のスピンオフ「The Book」であり、ジョジョの布教用には文句なしにこちらが向いているでしょう。
スタンドビジョンは何故見えないのか?
本筋からは外れますが、「恥知らずのパープルヘイズ」を手に取ったら是非読んで欲しいのが、解説の「スタンド・バイ・ミー、あるいは視えない夢想について」です。
(恐らく)原作者の荒木飛呂彦氏と、作者の上遠野浩平の会話劇で進んでいくのですが、この二人が披露するスタンドについての考察(というか公式設定?)がとても興味深いのであります。
曰く、スタンド使いたちは性格の長所と短所が二極化しているのだそうです。心の中の矛盾した二つの流れの衝突がエネルギーを生み、スタンド能力が開花する。そして精神が二つに分かれているからこそ物事を二つの視点から眺めることができ、ものを二つの目でみると立体的に見えるように、スタンドを立体的に認識できる。
「スタンドとは魂の発露」と第3部でポルナレフが言うように、スタンドには本体の精神面が色濃く反映されます。精神がふたつに分かれている者だけが、精神の発露であるスタンドを見ることができる。なるほど、ですね。
というわけで、「恥知らずのパープルヘイズ」について紹介しました。ジョジョの小説の中でもぶっちぎりの知名度を誇る本作、その評判に違わぬ素晴らしい作品なので、是非一度手にとってみてはいかがでしょうか。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。