Sheep's Bizarre Book Review

邦訳:緬羊書評協会。文系大学生がSFを読むブログです。SFは文理の壁を越えます、多分。

ジョジョ好きに刺さる名スピンオフ 上遠野浩平「恥知らずのパープルヘイズ」

最終更新:2021/04/22

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荒木飛呂彦の人気漫画シリーズ「ジョジョの奇妙な冒険」の第五部「黄金の風」の後日譚を描いたノベライズ作品。通称「恥パ」。

 

※「黄金の風」のネタバレを含みます。

 

 

「恥知らずのパープルヘイズ」あらすじ

 「黄金の風」で、組織のボス・ディアボロに背いたジョルノたちから離脱し、途中退場したフーゴ。多くの犠牲を伴いながらディアボロが倒され、ジョルノが新たなボスとして新体制を築いた今、彼は微妙な立場にいた。ジョルノへの忠誠を示すため、フーゴはパッショーネの負の遺産「麻薬チーム」の始末を命じられる。

 

 麻薬チームの中での最重要人物「マッシモ・ヴォルペ」はフーゴの大学生時代の級友だという。フーゴはかつてボス親衛隊にいたシーラEや、組織から派遣された男ムーロロと共に、シチリア島へ向かう。

 

「恥知らずのパープルヘイズ」感想

情報開示に積極的なスタンド使い

 本作にはスタンド使いがぞろぞろと登場します。「ドリー・ダガー」、「ナイトバード・フライング」、「マニック・デプレッション」、「レイニーデイ・ドリームアウェイ」、「ヴードゥー・チャイルド」、「オール・アロング・ウォッチタワー」*1

 

 本編「黄金の風」では敵味方共にスタンドの名前やスペックが明らかになっていない状態から戦闘が始まるのがお決まりのパターンでした。よくあるのは、トリッシュ護衛チームの周りで不可解な現象が起き、「スタンド攻撃を受けているッ!」…となる展開。

 

 対して、本作ではスタンドに関する情報が積極的に開示されます。少なくとも読者の視点では、第一章が終わるまでに麻薬チームのスタンド名は全部分かるし、何人かは能力についてもちゃんと説明が挟まれるしで、至れり尽くせりです。

 

 かといって、スタンド能力が早めにバラされるからといって、戦闘がつまらなくなるということはないのが面白いところ。むしろ「こいつのスタンドはもう知っているよ」という読者の思い込みを突いた思わぬ展開もあってスリルは増していると言えるでしょう。

 

 

溢れる「ジョジョっぽさ」

「現代人、てよぉ——」「ノックして、もしもぉーし」「いい加減なことを言うんじゃあないッ」「…エリエリエリエリエリエリエリ…!」

 

 「ジョジョ」に特徴的な言い回しは本スピンオフでも健在です。また、「スピードワゴン財団」などの本編の設定が部を超えて「恥知らずのパープルヘイズ」には盛り込まれています。ジョジョ好きにはたまりませんが、「ジョジョ」を知らない読者からすると違和感を覚えるところが多いかもしれません*2

 

 そもそも、スタンド使いがバンバン登場したり「黄金の風」の設定ありきで話が進む時点で、「ジョジョ」のファンが読むことを前提として書かれているのでしょう(当たり前と言えば当たり前ですが)。ジョジョ好きには刺さるが、「ジョジョ」を布教するには不向きな作品です。

 

  対照的に、「ジョジョ」を知らない人でも読めるように書かれたスピンオフが「The Book」であり、ジョジョの布教用には文句なしにこちらが向いているでしょう。

 

 

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スタンドビジョンは何故見えないのか?

 本筋からは外れますが、「恥知らずのパープルヘイズ」を手に取ったら是非読んで欲しいのが、解説の「スタンド・バイ・ミー、あるいは視えない夢想について」です。

 

 (恐らく)原作者の荒木飛呂彦氏と、作者の上遠野浩平の会話劇で進んでいくのですが、この二人が披露するスタンドについての考察(というか公式設定?)はとても興味深いのであります。

 

 曰く、スタンド使いたちは性格の長所と短所が二極化しており、心の中の矛盾した二つの流れの衝突がエネルギーを生み、スタンド能力が開花する。精神が二つに分かれているからこそ物事を二つの視点から眺めることができ、ものを二つの目でみると立体的に見えるように、スタンドを立体的に認識できる。一方でスタンド使いでないものは、こうした二面性に欠けるためにスタンドビジョンを視認できない、という裏設定が語られます。

 

 「スタンドとは魂の発露」と第三部でポルナレフが言うように、スタンドには本体の精神面が色濃く反映されます。この設定と、「スタンドはスタンド使いにしか見えない」という設定をきれいに結びつけた、原作者ならではの(?)うまい説明だと思いました。

 

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*1:本作に登場するスタンド名はジミ・ヘンドリクスの楽曲が元ネタになっている、らしい。ちなみに第六部の主人公空条徐倫の「ストーン・フリー」も、ジミ・ヘンドリクスの曲が元ネタ。

*2:ジョジョに感化されて語尾に「~よぉ—」を付けて喋るようになると、周囲からウザがられるという事例もある