ひつじ図書協会

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読書リレー#2 「何者」朝井リョウ

 就職活動に翻弄される大学生たちを描いた作品。高みの見物を決め込むはずでも、どんどん「就活」というるつぼの中に引き込まれていく。

 

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前回のおさらい

 

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 前回紹介したのは大学生たちのドタバタ恋愛劇「夜は短し歩けよ乙女」でした。登場するのは主に大学一、二年生(作中の言い方だと一、二回生ですね)でしたね。今回紹介するのは就職活動を始めた大学三、四年生が主役の「何者」(朝井リョウ)です。

 

「何者」あらすじ

 就職活動真っ只中の6人の大学生たち。「ガクチカ」を積極的に作っている「意識高い系」の者、「俺は企業なんかにしばられないで生きる」と言って就活をしない者、髪を黒く染めて無邪気に就活をする者...そして彼らを達観した視線で観察する主人公の拓人。しかし、就活が佳境を迎える中で拓人も次第に傍観者ではいられなくなっていき…

 

 それぞれの事情を抱えて就活をする学生たちの姿と、文中に挿入される彼ら彼女らのSNSへの投稿。読み終えた後に就活とは、SNSとは一体何なのか考えさせられる一作。

 

 

ちょっと一言

 「夜は短し歩けよ乙女」が「人生の春」としての大学生活を描いていたなら、「何者」が描くのは冬にさしかかった大学生活でしょう。どちらも大学生が主役ですが、方向性は正反対です。

 

 最初に本作を読んだのは高校生の時で、着任したばかりの若手の国語教師が授業中に紹介してくれたのがきっかけでした。大学三年生になった今読み返してみると、就活やSNSが自分事になっていることもあり身につまされるものがあります。

 

 話が飛びますが、中島みゆきの「ファイト!」の歌詞にこんな一節があります。

ファイト! 闘う君の唄を 闘わない奴等が笑うだろう

  あなたは、就活や資格試験のために「闘っている」人を笑ってはいませんか?みんなと同じリクルートスーツを着て、「御社が第一志望です」と何度も繰り返して、確かに就活生は滑稽に見えるかもしれません。でも、彼らは必死に闘っているのです。外野からどう見えまいが、闘っているというその事実だけでも就活生たちは評価されるべきでしょう。

 

 本作は、必死に闘う就活生たちを笑う「闘わない奴等」へ、痛烈な一撃をお見舞いします。なかなか就活に身が入らない私ですが、読み終えてみて自分が「闘わない奴等」に片足を踏み込んでいたなと反省しました。

 

 

 

次回予告

 「何者」の主人公たちが就活をするのは、仕事に就くためです。内定をもらった就活生には、当然ながら仕事に追われる日々が待っています。

 

 しかし、なぜ日本では大学を卒業したら仕事をすることになっているのでしょうか?そもそも仕事とは何なのでしょうか。そんな「仕事」について考えさせられる小説を、次回は紹介します。

 

 

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