ひつじ図書協会

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#天冥名セリフ 【 Ⅰ メニー・メニー・シープ 】

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 完結直前に#天冥名セリフでTwitterで募集され、最終巻の帯を飾った「天冥の標」の数々の名セリフ。心を動かされた方も多いと思いますが、中には「あれ?これってどのシーンだっけ?」となった人もいたのではないでしょうか。

 

 今回はそんな人のために、それぞれのセリフがどんなシーンで、誰が言ったものか解説を加えたいと思います。ネタバレ全開なので読了前の方は要注意!

 

当時の募集ツイート↓

 

 

石工ってみんな女の子だよな?女の子は可愛い名前がついてなきゃあ。(ベンクト、上巻p281)

 カーリンドン地区の配電制限を巡る戦いの中で捕虜になった石工(メイスン)のクレヴが、「恋人たち(ラバーズ)」のベンクトから新しい名前をもらうシーン。

 

 ベンクトとの出会いで、奴隷のように働かされていたクレヴは「綺麗で根性のある石工」*1リリーへと生まれ変わり、「大閉日(ビッグ・クロージング)」後のメニー・メニー・シープの運命を左右する一大勢力を作り上げていく。

 

 ベンクトは「Ⅳ 機械じかけの子息たち」の主人公キリアンのパーソナリティを受け継いでいる。そのことを踏まえてこのセリフをみると、あのスケベで不器用で、愛に飢えていたキリアンがこんなことを言えるようになったとは…と中々感慨深い。

 

 

お好みの酒なり肉なり聞こし召せ。あるいは不肖、このおれを(ラゴス、上巻p229)

 ミッドゥンバラの羊飼いたちを救うため、植民地議会議員のエランカはカーリンドン地区を訪れ、ラゴスと出会う。雄閣の塔の頂上で、表向きはアンドロイドの芸術家集団として扱われている「恋人たち(ラバーズ)」が、人間に春を売る「娼婦たち(プロスティテュート)」であったことをラゴスは告げるのだった。

 

 「人間に奉仕する本能を持たされたアンドロイド」という「恋人たち」の衝撃の設定が明かされるシーンを象徴するセリフ。ただ、さらなる衝撃展開「エロの博物館」が、「Ⅳ 機械じかけの子息たち」で待っていることをこの時点では読者は知る由もなかった。

 

 

イサリを思い続けておやりなさい。そしてお助けなさい。それだけです。(ダダーのノルルスカイン、下巻p39)

 領主(レクター)との会合が失敗に終わり、失意に沈むカドムの前に「ダダー」と名乗る謎の青年、ノルルスカインが現れる。ノルルスカインは領主に処刑されたかと思われたイサリが生きていることを告げ、カドムを諭すのだった。

 

 個人的には、この時点ではまだイサリを「謎の化け物」ぐらいにしか思っていなかったので、それを「思い続けろ」というのがかなり意外だった覚えがあります。

 

 

救助要請を出されますかね?というか出してほしいんですがね。(ルッツ、下巻p160)

 ついに領主に反旗を翻したセナーセー。情勢が目まぐるしく動く中で奔走する「海の一統」の艦長、キャスラン・アウレーリアの元に面会にやってきた奇妙な二人組、ルッツとアッシュは不可解なセリフを吐く。

 

 軍警の総攻撃が始まり、この面会は途中で打ち切られてしまう。もしもこの時キャスランが「救助要請」を出せていたらどうなっていただろうか。

 

 「Ⅷ ジャイアント・アーク」でカドムの救助要請を受けた二人が恐るべき戦闘力で倫理兵器を一掃したことを考えると、キャスランが返事をしていたらその後のセナーセーの運命はきっと変わっていただろう。

 

 

違う、悲しみは違う!リリーは悲しみたくない!リリーは—怒りたい。(リリー、下巻p183)

 セナーセーへの遠征で多くの同胞が犠牲になり、悲しみに暮れる石工たち。だが、リリーは悲しむのをやめ、石工を虐待する人間たちに反抗するよう姉妹たちに呼びかける。これをきっかけにリリーは女王としての素質を開花させていき、反乱の最終盤で人間たちに反旗を翻し「カルミアン」として目覚めるのだった。

 

 「Ⅵ 宿怨」によると、カルミアンの女王はひれのような形をした頭頂角を持つ個体から選ばれるようだ。つまりリリーにはもともと女王の素質があった。しかし、先代女王の助けなしに女王として目覚めることができたのには、やはりベンクトの役割が大きかったのだろう。

 

なんで今年はこんなに寒かったんだと思う?(ユレイン三世、下巻p321)

 多くの犠牲を払いながら、カドムとアクリラはついに第28代臨時総督、ユレイン三世を追い詰めた。ユレインから権限を委譲されたアクリラは、配電制限を解除し植民地に電気を送るよう指示する。が、次の瞬間不気味な地響きが鳴り響き、植民地が闇に包まれる。困惑する二人を前に、泣き笑いのユレインはこのセリフを吐くのだった。

 

 ユレインは植民地の地下に潜む「咀嚼者(フェロシアン)」と戦う防衛隊長であり、配電制限や窒素統制の目的は咀嚼者を食い止めることだった。そして、植民地に訪れていた厳しい冬の寒ささえも、激化する咀嚼者との戦闘にリソースを割くためのものだったのだ。

 

 ユレインが私利私欲で動く暗君ではなかったことが明らかになり、アクリラたちは動揺する。そしてついに咀嚼者が地下から現れ、植民地を揺るがす「大閉日(ビッグ・クロージング)」が始まった。

 

cambak! kil human!(ミヒル、下巻p350)

 フォートピークの竪坑から現れた咀嚼者たち。その長ミヒルはカドムに致命傷を負わせて、イサリにこう呼びかける。彼らの言語は300年間の内に若干変化しているので変な英語になっているが、ミヒルは姉のイサリにこう言っていたのだ。

「戻るのよ、イサリ!人間たちなど見殺しにして!*2

 

 「天冥の標」は設定上では登場人物たちは英語を話していることになっているが、便宜上会話は日本語で記されている。その中で、ミヒルのセリフは「I love you」→「私はあなたたちを愛しています」のように、なぜか英語で話しているのを強調されることが多い。

 

次回:【Ⅱ 救世群】篇 

 

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*1:

10巻パート2,p79

「実は、私はもう純粋なミスン族とは言えない存在になっています。地球人類と接触してからさまざまな影響を受けましたから……ことに、彼に」

「彼?」

「”綺麗で根性のある石工”。私に総女王オンネキッツの思惑から外れたことをさせるのが、その呼び名です」リリーはなんだか懐かしんでいるようだった。

*2:「ジャイアント・アーク」①p300